春彼岸がそこまで来ている。「暑さ寒さも彼岸まで」という俚諺があるように、春らしい陽気が続いていたが、ここに来て北からの寒気が降りて来て、春の雪になった。冬タイヤを替えた人も多いが、昨夜は笹谷峠が吹雪になったようだ。まだまだ油断は禁物ということらしい。今では、峠は車のタイヤを替えるときくらいしか意識しないが、かつての峠道は国境に位置していることが多かった。隣国との交易に峠道を使い、ここを境に季節が異なっていた。昭和の詩人に杉浦伊作がいる。昭和25年の詩の一節を、今朝はかみしめてみたい。
峠を越えて来た馬はたてがみに一輪の水仙をさしていた 「馬と花」
隣国との交易に使われるのは馬である。その肩には重い荷を付けている。馬子の心配りか、この花を見て雪の山国の人々は隣国の春を感じたであろう。思わず遠来の客に、微笑みを返したに違いない。それほどに峠は、人々の心に意識される存在であった。山形が生んだ昭和の詩人、真壁仁にも峠の詩がある。
峠は決定をしいるところだ
峠には決別のためのあかるい憂愁がながれている
峠路をのぼりつめたものは
のしかかってくる天碧に身をさらし
やがてそれを背にする