みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0771「平穏な日々」

2020-01-10 18:22:44 | ブログ短編

 私は、何ごともきちっとしていないと気が済(す)まない性格(せいかく)だ。あるべきものはあるべき場所になくてはいけないし、規則(きそく)正しい生活(せいかつ)をするのを常(つね)としていた。そんな心穏(こころおだ)やかな生活が、結婚(けっこん)と同時(どうじ)に崩(くず)れ去(さ)ってしまった。
 私の妻(つま)は…、仕事(しごと)は真面目(まじめ)にこなし、礼儀(れいぎ)正しく、気づかいもできる女性だ。だから、私は彼女との結婚を決(き)めたのだ。それが、どうだ。一緒(いっしょ)に住むようになって、私は彼女の本当(ほんとう)の姿(すがた)を見ることになった。
 彼女の言い分も分からないわけじゃない。家に居(い)るときぐらいは、のんびりと羽(はね)を伸(の)ばしてくつろぐのは別に悪(わる)くはない。悪くはないが、彼女の場合、それが極端(きょくたん)すぎるのだ。家の中の彼女は寝巻(ねまき)のままで歩き回り、使ったものを元(もと)へ戻(もど)すことをしない。だから、何時(いつ)も部屋の中は雑然(ざつぜん)として歩くこともできない。私がちょっと注意(ちゅうい)をすると、
「じゃあ、あなたがやってよ。それぐらいしてくれてもいいじゃない」
 いつもしてるじゃないか! 私は、そう叫(さけ)びたくなるのをグッとこらえた。ここで私が切れてしまったら、私たちの結婚生活は完全(かんぜん)に破綻(はたん)してしまうだろう。それだけは、何としても避(さ)けなければならない。なぜなら、私は…、彼女のことを愛しているから――。
 私は、どうすれば妥協点(だきょうてん)を見つけることができるのか、いつも考えている。もし、それを見つけることができれば、以前(いぜん)のような穏(おだ)やかな生活を取り戻せるはずなのだ。
<つぶやき>これは難(むずか)しい問題(もんだい)かも知れませんよね。まず二人でよく話し合ってみましょ。
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0770「しずく69~先輩」

2020-01-09 18:21:31 | ブログ連載~しずく

 放課後(ほうかご)のクラブ活動(かつどう)の時間。生徒(せいと)たちは、それぞれの練習(れんしゅう)に励(はげ)んでいる。剣道場(けんどうじょう)では先輩(せんぱい)たちの指導(しどう)で、後輩(こうはい)の生徒が素振(すぶ)りの稽古(けいこ)に汗(あせ)を流していた。そこへ、水木涼(みずきりょう)が面倒(めんど)くさそうに顔を出した。みんなは、涼が来たのに気づいて一瞬(いっしゅん)にして緊張(きんちょう)に包(つつ)まれた。
 涼は道場を何気(なにげ)なく見回していたが、一人の人物に目を止めた。道場の隅(すみ)で、防具(ぼうぐ)と面(めん)をつけて竹刀(しない)を構(かま)えている。その立ち姿(すがた)で、涼はその人物の力量(りきりょう)を感じ取った。
 涼はそばに来た後輩をつかまえて訊(き)いてみた。
「ねえ。あれって、だれ?」
 後輩は直立(ちょくりつ)して答えた。「はい。たぶん、OG(オージー)の方だと思います。私たちが来たときには、もうああして練習されていました」
「へぇ、そうなんだ…。あんな先輩がいたなんて、知らなかったわ」
 涼はすぐに防具を着けると、その先輩の前に進み出て礼(れい)をすると道場に響(ひび)く声で言った。
「私と、立ち合っていただけませんか? お願いします!」
 みんなの目は釘付(くぎづ)けになった。涼から試合(しあい)を申し込むなんて初めてだったのだ。その先輩は礼を返して、道場の中央へ歩き出した。練習していた生徒たちは、ざわざわと隅の方へ行って場所を開ける。涼は身体が震(ふる)えるのを感じた。こんな手応(てごた)えのありそうな相手(あいて)とやれるなんて――。涼は逸(はや)る気持ちを抑(おさ)えて、ゆっくりと面をかぶった。
<つぶやき>何ごとにも上には上があるんですねぇ。目標(もくひょう)は高く持って…、がんばろうよ。
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0769「何が幸せか」

2020-01-08 18:10:45 | ブログ短編

 彼には過去(かこ)へ戻(もど)ることができる能力(ちから)があった。そのことを知っているのは、彼が働(はたら)いている喫茶店(きっさてん)の老(ろう)店主だけである。
 ――お店に同級生(どうきゅうせい)だった女性がやって来た。彼は彼女に声をかけた。
「内藤(ないとう)さん、だよね? 僕(ぼく)、高木(たかぎ)…、高校のとき同級生だった…」
 彼女は気まずそうに答えた。「ああ、高木君…。覚(おぼ)えてるわよ。ここで働いてるんだ」
 彼女は何か思いつめているようだった。話を聞いてみると、同級生だった人と付き合って結婚(けっこん)したのだが、その男は最低(さいてい)のげす野郎(やろう)だった。彼女は涙(なみだ)ながらに言った。
「どうしてあの時、あの人を選(えら)んじゃったんだろう。他の人もいたのに…」
 彼は能力(ちから)を使うことにした。げす野郎と付き合わないように仕向(しむ)けて元の時間に戻って来ると、そこへ彼女がまたやって来た。今度の彼女は、どこか疲(つか)れ果(は)てているようだ。
 彼女は言った。「同級生の人と結婚して、幸せだったのよ。でも子供が産(う)まれてから、彼が病気(びょうき)で亡(な)くなって…。今は小さな子供をかかえて、これから先(さき)、どうすればいいのか…」
 彼は、また能力(ちから)を使うことにした。でも、今度は何もできずに戻って来てしまった。そこへまた彼女がやって来た。今度の彼女は溌剌(はつらつ)としていた。でも、彼に愚痴(ぐち)をこぼした。
「この歳(とし)になるまで独身(どくしん)だなんて思わなかったわ。あの時、付き合っちゃえばよかった」
 客が帰ると、老店主が彼に優(やさ)しく言った。「どんな人生(じんせい)が幸せなのか…。それは他人(ひと)が決めることじゃない。その人生を生きた人が、人生の最後(さいご)に決めるもんじゃないのなかなぁ」
<つぶやき>人生は一度きりです。どんな人生を送るかは、その人自身(じしん)が選(えら)ばなくちゃ。
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0768「反抗期」

2020-01-07 18:35:08 | ブログ短編

「おい、本当(ほんとう)に帰らなくていいのか?」
「いいんだよ。どうせ、俺(おれ)の行くところは分かってんだ。心配(しんぱい)なんかするもんか」
 おやじはぐいっと酒(さけ)を呷(あお)った。その様子(ようす)を呆(あき)れて見ていたもう一人のおやじは、
「まあ、こっちは構(かま)わないけどなぁ。どうせ一人暮(ぐ)らしだ。朝まで飲(の)み明かすか?」
「おお、いいねぇ。そうこなくちゃ。この間土産(みやげ)で持ってきた酒(さけ)、まだ残(のこ)ってるだろ?」
「ああ。でも飲み過(す)ぎるなよ。後で、よっちゃんに怒(おこ)られるのは俺なんだから」
「娘(むすめ)の話をするなよ。まったく誰(だれ)に似(に)たのか、あいつは固(かた)くていけねぇ」
「よく言うよ。そういうとこ、お前にそっくりじゃねえか」
「よせよ。あれは家(うち)の妻(やつ)に似てるんだ。まったく、かみさんが二人いるようなもんだ」
「いいじゃねえか、心配してくれる家族(かぞく)がいるんだ。ありがてぇじゃねえか」
「そうかねぇ…。お前のとこ、かみさんが亡(な)くなったのは――」
「もう二年だよ。まあ、今は気楽(きらく)にやってるさ。家事(かじ)は一通(ひととお)りこなせるようになったしな」
「いいなぁ、うちじゃ、俺がなに言っても誰も聞きゃしねぇ」
「何があったか知らねえけど、仲良(なかよ)くした方がいいんじゃねえのか?」
「ふん、そんなこと分かってるよ。娘の言い分は正しい。けどな、こっちだって意地(いじ)ってもんがあるんだ。親だからって、反抗(はんこう)して何が悪(わる)いってんだ。反抗ってのは、子供(こども)だけのものじゃねえんだからなぁ。そうだろ?」
<つぶやき>老(お)いては子に従(したが)えと言うけど、なかなか割(わ)り切ることなんてできないのかも。
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0767「理髪店」

2020-01-06 18:30:37 | ブログ短編

 とある理髪店(りはつてん)に、冴(さ)えない感じの若(わか)い男がやって来た。どうやらこの店(みせ)に来るのは初めてのようで、店主(てんしゅ)が愛想(あいそ)よく応対(おうたい)した。その男はファッション雑誌(ざっし)を手にして、そこに載(の)っているモデルと同じ髪型(かみがた)にしてくれと注文(ちゅうもん)した。
 店主はその雑誌と男を見比(みくら)べて唸(うな)った。そして、ごく丁重(ていちょう)に言った。
「これは、お客さんには似合(にあ)わないかもしれませんねえ。そりゃ、こっちは商売(しょうばい)なんだし、やりますけど…。後で、ダメだと言われても、元(もと)へ戻(もど)せませんからねぇ」
 男は絶望(ぜつぼう)したような顔になった。それでも、懇願(こんがん)するように言った。
「これじゃなきゃ意味(いみ)が無(な)いんです。これでお願(ねが)いします」
 店主は渡(わた)された雑誌をパラパラとめくり、別の写真(しゃしん)を示(しめ)して言った。
「これはどうですか? これだったら、男らしくて、お客さんにぴったりだと思いますよ」
 男はため息(いき)をついて、ことの経緯(いきさつ)を話し出した。店主は男の話しを聞き終(お)わると、
「そうですか…、好きになった娘(こ)が、このモデルさんをお気に入りなんですね。それで、同じ髪型にして勝負(しょうぶ)を賭(か)けようと…。分かりました。そういうことなら、何とかしましょう。こっちだってプロだ。ちょっとアレンジしてお客さんに似合うようにしましょう」
 男は思わず店主の手を握(にぎ)って、何度も何度も礼(れい)を言った。そして男は、
「これで、彼女に話しかけることができるかもしれません。そしたら、僕(ぼく)も――」
<つぶやき>そこからなのね。気持(きも)ちは分かる気がするけど、自分らしくいった方が…。
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