みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0776「新人の悩み」

2020-01-15 18:28:41 | ブログ短編

 新入社員の私が、初めて配属(はいぞく)された営業所へ来て一週間たった時のこと。昼休みにお弁当(べんとう)を食べていると、先輩(せんぱい)の女子社員が私に話しかけて来た。
「ねえ、昨日、係長(かかりちょう)と何かあった? まさか、変なこと言われたんじゃないの?」
 私は仕事(しごと)のやり方について教えてもらっていただけなので、先輩が何のこと言っているのか分からなかった。私が言葉(ことば)につまっていると思ったのか、先輩は小さな声で、
「ダメよ、あの人の誘(さそ)いに乗(の)っちゃ。あの係長、女癖(おんなぐせ)が悪(わる)いんだから。気をつけなさい」
 先輩はそう言うと、私から離(はな)れて行った。私が呆気(あっけ)にとられていると、別の先輩がやって来て、今度はさっきまで私と話していた先輩のことを話し始めた。
「あの人のこと信用(しんよう)しちゃダメよ。あの人、いい加減(かげん)なことしか言わないんだから。ねぇえ、あたし、あなたとなら仲良(なかよ)くなれそうな気がするわ。今度、一緒(いっしょ)に食事(しょくじ)でもしましょ」
 先輩は、私の返事(へんじ)を待つことなく行ってしまった。私は…、どうしたらいいの? ここって、何か、人間関係(にんげんかんけい)がぎすぎすしてるのかな……。
 今度は係長がやって来た。私を見つけると驚(おどろ)いたような顔をして、ちょっと離(はな)れた場所から私の方を見つめてくる。気のせいかもしれないけど、その係長の目が、何か嫌(いや)らしく見えてしまった。私は、いったい何を信じたらいいのかなぁ?
<つぶやき>職場(しょくば)に慣(な)れるには時間がかかりますね。人間関係も同様(どうよう)なのかもしれません。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

0775「しずく70~試合」

2020-01-14 18:41:26 | ブログ連載~しずく

 その試合(しあい)は異様(いよう)な静けさの中で始まった。見ているもの、誰(だれ)一人として声を上げることはなかった。じっと試合の成り行きを見守(みまも)っていた。
 水木涼(みずきりょう)は、この先輩(せんぱい)と対峙(たいじ)して言いようのない恐怖(きょうふ)を感じていた。隙(すき)というものがないのだ。今までなら相手(あいて)の動きが手に取るように見えてくるのに、この人からは…。まったく勝(か)てるというイメージが浮(う)かんでこない。自分(じぶん)が小さな子供(こども)になったような気分だ。
 涼は自分を奮(ふる)い立たせるように声を張(は)り上げて、相手に打(う)ち込んで行った。しかし、相手の方はそれを難(なん)なくかわして、まるで風にゆれる柳(やなぎ)の枝(えだ)を相手にしているようだった。
「何なの…。ふざけるんじゃないわよ。ちゃんと勝負(しょうぶ)しなさいよ!」
 涼は思わず声を上げた。そしてやみくもに竹刀(しない)を振り回し、力任(ちからまか)せに攻(せ)め込んで行く。今度は、相手はそれをしっかり受け止めて、動きが止まったところで凄(すご)い力で押(お)し返してきた。涼は自分の身体(からだ)を支(ささ)えきれずに、その場で尻餅(しりもち)をついてしまった。
 自分が倒(たお)されるなんて…。涼は思っても見なかったことに動揺(どうよう)し、そして闘争心(とうそうしん)が湧(わ)き上がってくるのを感じた。もともと負(ま)けず嫌(ぎら)いなのだ。涼は勢いよく立ち上がると、竹刀を構(かま)えた。彼女の目つきが変わっていた。相手にもその変化(へんか)が伝わったのか、竹刀を構え直(なお)して涼と対峙した。
 涼はじりじりと相手との距離(きょり)を縮(ちぢ)めていく。相手は距離を取ろうと、後ろへ下がろうとした。その時だ、自分の身体が動かないことに気がついた。
<つぶやき>何事も諦(あきら)めないで挑戦(ちょうせん)する。失敗(しっぱい)を恐(おそ)れなければ、成功(せいこう)の道は開けるかも。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

0774「極秘書類2」

2020-01-13 18:19:08 | ブログ短編

 そこで男は考えた。こんなのを持っていては、気が散(ち)って仕事(しごと)に身(み)が入らない。それに、それが原因(げんいん)でミスをしてしまうかもしれない。もし会社(かいしゃ)に損害(そんがい)を出してしまっては…。
 男は手に持った茶封筒(ちゃぶうとう)をおばちゃんに渡(わた)そうとしたが、急に手を引っ込めて言った。
「やっぱりダメだよ。自分(じぶん)で持ってないと、もし何かあったら…」
「律儀(りちぎ)なんだね。気に入った。あんたみたいな社員(しゃいん)は大切(たいせつ)にしないとね。さあ、何も心配(しんぱい)することはないんだよ。わたしが悪(わる)いようにはしないからね」
 おばちゃんは手を出して、にこやかに肯(うなず)いて見せた。男はしばらく迷(まよ)っていたが、思い切って封筒を差(さ)し出した。おばちゃんは封筒を受け取ると、
「明日を楽しみにしてなさい。あんたには、ちゃんと礼(れい)をするからね」
 ――翌朝(よくあさ)。男は寝不足(ねぶそく)の目をこすりながら出社(しゅっしゃ)した。本当(ほんとう)に大丈夫(だいじょうぶ)なのか気が気でなかったのだ。早速(さっそく)、男は掃除婦(そうじふ)のおばちゃんを捜(さが)した。でも、毎朝いるはずの場所(ばしょ)におばちゃんの姿(すがた)はなかった。さあ、ますます男はあせった。自分のデスクに戻(もど)ると、上司(じょうし)から社長がお呼(よ)びだと伝(つた)えられた。男はびくびくしながら社長室へ向かった。
 社長室へ入ると、社長は口をへの字に曲(ま)げて立っていた。男は駆(か)け寄って頭を下げようとして、ハッとした。社長の椅子(いす)におばちゃんが座(すわ)っていたのだ。社長がぼそぼそと言った。「こちらが…、会長(かいちょう)だ。君(きみ)は、どうしてあれを――」
 おばちゃんが口を挟(はさ)んだ。「お黙(だま)りなさい! あんたに、社長の自覚(じかく)があるのかい」
<つぶやき>社長はおばちゃんの息子(むすこ)なのかもしれません。さて、何をやらかしたのか…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

0773「極秘書類1」

2020-01-12 18:19:17 | ブログ短編

 社長室(しゃちょうしつ)に若(わか)い男がおどおどしながら入って来た。それを迎(むか)えたのは、もちろん社長だ。社長は重厚(じゅうこう)な感じのソファに座(すわ)るように勧(すす)めると、自(みずか)らもどかっと腰(こし)を下ろして言った。
「君は信頼(しんらい)のおける人物(じんぶつ)だと聞いている。そこでだ、君に頼(たの)みたいことがあるんだが…」
 若い男は驚(おどろ)いた。入社式以来(いらい)、社長と顔を合わすことなどなかったのに、平社員(ひらしゃいん)の自分(じぶん)のことを知っているなんて――。女性秘書(ひしょ)が茶封筒(ちゃぶうとう)を男の前に置(お)くと、社長は続けた。
「ここには、我(わ)が社(しゃ)にとって重要(じゅうよう)な極秘書類(ごくひしょるい)が入っている。これを預(あず)かってくれないか。長くはない、明日(あす)一日でいいんだ。実(じつ)は、会長(かいちょう)が来ることになっていて、目に触(ふ)れるところに置きたくないんだ。もちろん、引き受(う)けてくれるだろ?」
 平社員に断(ことわ)ることなどできるはずもなく、若い男は封筒(ふうとう)を手に社長室を出た。誰(だれ)にも見せるなと社長から念(ねん)を押(お)されて、男はどうしたものかと考えてしまった。男はエレベーターの前で大きなため息(いき)をついた。すると、後から声をかけられた。男が振(ふ)り返ると、そこには掃除婦(そうじふ)のおばちゃんが立っていた。このおばちゃんとは顔見知(かおみし)りで、今まで何度も励(はげ)ましてもらったことがある。そこで男は、うっかり社長室でのことを話してしまった。
 おばちゃんは笑(わら)いながら、「そりゃ大変(たいへん)だ。わたしが預かってあげようか? そんなの持ってちゃ仕事(しごと)にならないじゃない。心配(しんぱい)ないよ、誰もわたしが持ってるなんて思わないさ」
<つぶやき>渡(わた)しちゃっていいの? でも、どうして社長は大切(たいせつ)な書類を預けたのでしょ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

0772「無記名」

2020-01-11 18:10:22 | ブログ短編

 百合子(ゆりこ)は垣内麻美(かきうちあさみ)に呼(よ)び出された。数日前にも彼女に呼び出されていた百合子は、嫌々(いやいや)ながらも会いに行くことにした。麻美はちょっと悪(わる)ぶっているところがあって、クラスのみんなからも敬遠(けいえん)されている存在(そんざい)だ。麻美は百合子を見つけると駆(か)け寄って来て、彼女のえり首(くび)をつかんで言った。
「あんた、どういうつもりよ。なんで、吉田(よしだ)君と付き合っちゃってるの!」
 百合子にはまったく身(み)に覚(おぼ)えのないことで、首を横に振って否定(ひてい)した。けれど麻美には通じないようで、今にも殴(なぐ)りかかりそうな形相(ぎょうそう)である。麻美は絞(しぼ)り出すように言った。
「あの手紙(てがみ)、ちゃんと渡(わた)してくれたんだよね。それなのに、どうして…。あたしの気持ちを知ってるくせに、よくこんなひどいことができるわね」
 百合子は必死(ひっし)になって答えた。「ちょっと待ってよ。わたし、付き合ってなんかいないわよ。手紙だって、ちゃんとあなたの代わりに渡したじゃない。吉田君だって、あの手紙があなたからだって分かってるはずでしょ? 名前(なまえ)が書いてあるんだから…」
「名前? 名前って……」麻美は何かを思い出したように息(いき)を呑(の)んだ。
「えっ? 名前、書かなかったの? そんな…、それじゃダメじゃない」
「そ、そんなこと…。だって、ラブレターなんて初めて書いたんだから、そこまで…」
「じゃあ、吉田君、わたしからのラブレターだって思ってるわけ? そんなの困(こま)るわ。わたし、全然(ぜんぜん)好きじゃないのに。今からすぐに訂正(ていせい)しましょ。ちゃんと吉田君に――」
<つぶやき>名前は大切(たいせつ)です。書き忘(わす)れないようにしないとね。気になるのは吉田君よね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする