みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0781「ナレーション」

2020-01-21 18:24:37 | ブログ短編

 彼女は悩(なや)んでいた。何時(いつ)からか、ナレーションの声が聞こえるようになってしまったのだ。ことあるごとに、彼女の頭(あたま)の中に鳴(な)り響(ひび)く。今日もまた、友だちから初めて紹介(しょうかい)された男性を前にして、あの忌(いま)まわしい声が始まった。
<さあ、これは運命(うんめい)の出会(であ)いだ。このチャンスを逃(のが)したら、次(つぎ)はいつ来るか分からない。彼女は、この出会いをものにすることが出来るのか? さあ、どうする、どうする>
 彼女は頭の中で否定(ひてい)した。――これは、運命でも何でもないわ。だって、この人、あたしのタイプじゃないし…。もう、変なこと言わないでよ。
 ナレーションは彼女をからかうようにさらに続けた。
<だって、あたしのタイプじゃないしぃ。なんて余裕(よゆう)をかましてる場合なのか? 最初(さいしょ)は誰(だれ)だってそう言うんだよ。それが定番(ていばん)ってやつなんです。しかし、何度(なんど)か会ってるうちに変わって来ちゃうんだよねぇ。さあ、君(きみ)の場合(ばあい)はどうなんだ?>
 彼女はイライラしながら――もう止めなさいよ。いい加減(かげん)なこと言わないで!
 彼女は、思わず声に出してしまったようだ。目の前にはさっきの男性が話しかけようとしていた。男性は戸惑(とまど)った顔をして彼女に言った。
「あっ、ごめんなさい。なんか、お邪魔(じゃま)でした、か…」
 彼女は慌(あわ)てて、「いえ、違(ちが)うんです。あの…、別にあなたに言ったわけじゃ…」
<つぶやき>思っていることが、つい言葉(ことば)として出てしまう。これは要注意(ようちゅうい)であります。
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0780「しずく71~新たな能力者」

2020-01-20 18:14:00 | ブログ連載~しずく

 勝負(しょうぶ)は一瞬(いっしゅん)で決(き)まった。見ていた人たちには何が起きたのか分からなかったが、面(めん)を叩(たた)いた竹刀(しない)の音が響(ひび)いたので勝負がついたことを理解(りかい)した。水木涼(みずきりょう)はその場に崩(くず)れ落ちると、防具(ぼうぐ)を外(はず)して面を投(な)げ捨(す)てた。そして、よほど悔(くや)しかったのだろう、叫(さけ)び声を上げた。
 相手(あいて)は静(しず)かに礼(れい)をすると、居住(いず)まいを正(ただ)してゆっくり面を外した。そこにいたのは、柊(ひいらぎ)あずみだった。涼はそれを見て、思わず呟(つぶや)いた。「先生…、先生だったのかよ?」
「あなた、なかなかやるじゃない。良い稽古(けいこ)になったわ。ありがとう」
 涼は悔し紛(まぎ)れに言った。「今日は、調子(ちょうし)が悪(わる)かったんだよ。次は絶対(ぜったい)、私が勝つからな」
「それは楽しみだわ。あなたとは…、これから先(さき)、良い相手になれそうね」
 ――その日の夜、あずみは校舎(こうしゃ)の屋上(おくじょう)にいた。缶(かん)ビールを一気に飲み干(ほ)すと、ふわーっと声を上げた。そこへ神崎(かんざき)つくねがやって来て、あきれた顔で見つめた。あずみは、
「これ、内緒(ないしょ)だからね。学校にばれたら大変(たいへん)…。でも、今日は疲(つか)れたわぁ」
「で、どうだったんですか? 先生が剣道(けんどう)も出来るなんて、知らなかったけど…」
「私たちの子供の頃(ころ)はね、自分を守(まも)るためには何でもやったわ。でも、今日は危(あぶ)なかったわ。途中(とちゅう)で身体(からだ)が動かせなくなっちゃって、能力(ちから)を使って何とか、間一髪(かんいっぱつ)だったのよ」
「じゃあ、やっぱり水木さんも能力者(のうりょくしゃ)ってことですか?」
<つぶやき>新しい能力者の登場(とうじょう)です。でも、途中(とちゅう)から能力者にするなんてどういうこと?
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0779「発散会」

2020-01-19 18:21:03 | ブログ短編

 初めて参加(さんか)した企画検討会(きかくけんとうかい)。ここで認(みと)められれば、企画会議(きかくかいぎ)に持ち込まれることになる。何人もの若手(わかて)社員が企画を発表(はっぴょう)したが、先輩(せんぱい)からきつい駄目出(だめだ)しを受けて撃沈(げきちん)してしまった。そして、とうとう私に順番(じゅんばん)が回ってきた。私は震(ふる)える足で前に出た。
 私が資料(しりょう)を見て発言(はつげん)しようとしたとき、先輩が声を上げた。
「悪(わる)いんだけど、もう時間がないから、その説明(せつめい)、早送(はやおく)りでしてくれない」
「は、早送りですか…?」私はあせってしまった。早送りって……。
 私は、自分でも何を言っているのか分からないくらい、めちゃくちゃなことになってしまった。当然(とうぜん)のことだが、先輩からきついお言葉(ことば)が飛(と)んで来た。
 その夜、私は検討会に参加した同僚(どうりょう)たちと、駅(えき)の近くの居酒屋(いざかや)にいた。反省会(はんせいかい)ならぬ発散会(はっさんかい)である。何日もかけて考えた企画なのに、先輩に瞬殺(しゅんさつ)されたのだ。アルコールの力を借(か)りて、胸(むね)の中にたまったものを吐(は)き出さないと――。
 店の奥(おく)で誰(だれ)かが叫(さけ)んだ。何だか聞き覚えのある声…。ちらっと奥を見ると、そこにいたのはあの先輩だった。カウンターで一人で飲んでいる。店長(てんちょう)が料理(りょうり)を運んで来て言った。
「ごめんね、常連(じょうれん)さんなんだけど、今日は会社(かいしゃ)で何かあったのかなぁ。彼女もいろいろ大変みたいだから、かんべんしてやってよ」
 私たちは顔を見合わせた。そして、誰から言うともなく「どうする?」ってことになった。先輩に声をかけるべきか…、それとも、このまま知らんぷりした方がいいのか――。
<つぶやき>ここは声をかけちゃいましょう。先輩とのコミュニケーションも大切(たいせつ)だよ。
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0778「あらすじ女」

2020-01-18 18:12:12 | ブログ短編

 彼女は何事(なにごと)もあらすじを考えてしまう女だった。プレゼンや交渉(こうしょう)ごとの前に、これからどういう展開(てんかい)になっていくのか頭の中で思い描(えが)くのだ。そして、どういうわけか、彼女が思った通りに事(こと)が運(はこ)び、仕事(しごと)では彼女は有能(ゆうのう)な社員(しゃいん)として認(みと)められていた。
 しかし、恋(こい)に関しては、どうやら思い通りにならないようで――。
「ねえ、どうして? どうして、そうなるのかなぁ……」
 テーブルを挟(はさ)んで、彼女は彼を問い詰(つ)めた。「こういう素敵(すてき)なレストランで食事(しょくじ)をして…。普通(ふつう)、考えるよね。私たち、今まで…、付き合って何年だっけ? そんなことどうでもいいんだけど、今までこんなとこで食事なんてしたことなかったじゃない。だから…、何かあるんじゃないかなって、考えちゃうわけよ。それって、私だけかな?」
 彼は、何で怒(おこ)られているのか理解(りかい)できないようで、「ごめん、僕(ぼく)、変なこと――」
「へん? 変でしょ。ちゃんと考えてよ。普通(ふつう)、こういうシチュエーションだったら、やることはあれしかないでしょ。それなのに、何で違(ちが)う話にしちゃうわけ?」
 彼は、ただただ首(くび)をかしげるだけだった。彼女は急に恥(は)ずかしくなったのか声を落として、「別に、私は、あせってるとか、そういうことじゃないからね。ただ、私は…」
 彼は何を思ったのか肯(うなづ)くと、「分かったよ。また来よう。今度は、招待券(しょうたいけん)じゃなくて…」
「はぁ? 私、そういうこと言ってるんじゃないの。もう、知らない」
<つぶやき>自腹(じばら)じゃなかったんですね。次は、次こそは、あれをしてあげて下さいね。
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0777「家政婦ロボ」

2020-01-17 18:26:49 | ブログ短編

 夫(おっと)が仕事(しごと)から帰って来ると、玄関(げんかん)に大きなロボットが置(お)かれていた。夫が唖然(あぜん)としていると、家の奥から〈おかえりなさい〉と、妻(つま)の天真爛漫(てんしんらんまん)な声がした。夫は壁(かべ)とロボットのわずかな隙間(すきま)をくぐり抜(ぬ)けて、妻の声がした居間(いま)の方へ向かった。居間に入ると、夫は妻に言った。
「なあ…、あれ、何なんだよ。玄関にあった、あれ…」
 妻は嬉(うれ)しそうに答えた。「あれね、家政婦(かせいふ)ロボなんだって。すごいのよ。家事全般(かじぜんぱん)、何でもやってくれるの。あたしは、ボタンをピピッて押(お)すだけでいいの」
「家政婦ロボって…。あんなのどうすんだよ? あんなにデカいんじゃ、台所(だいどころ)にも置けないだろ。それに、こんな狭(せま)い家で、邪魔(じゃま)になるだけじゃないか――」
 妻は急に不機嫌(ふきげん)な顔をして、「あたしは、あなたのために…。少しでも美味(おい)しいもの食べさせてあげたかったの。それに、ロボちゃんに家事をやってもらえば、二人で一緒(いっしょ)に過(す)ごす時間が増(ふ)えるじゃない。あたし、あなたのそばにいたいだけなのに…」
 夫は、泣(な)きそうになっている妻をなだめるしかなかった。妻はさらにつけ加えた。
「でも、心配(しんぱい)ないのよ。この家、リフォームしましょ。そうすれば――」
「ちょっと待ってくれ。そんなお金(かね)…。それに、あのロボット、いくらしたんだよ?」
「大丈夫(だいじょうぶ)だって。あのロボちゃん、計算(けいさん)にも強いのよ。あなたが、もう少し残業(ざんぎょう)を増やしてくれれば、家計(かけい)には何の問題(もんだい)もないんだって」
<つぶやき>これって亭主(ていしゅ)は元気で留守(るす)がいい、的(てき)なやつ? 一緒にいたかったんじゃ…。
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