みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0291「せっかち姫」

2018-08-16 18:48:37 | ブログ短編

 昔々(むかしむかし)、あるところにせっかちな眠(ねむ)り姫(ひめ)がいました。姫は眠りならが思いました。
「百年なんて、眠ってられないわ。目が覚(さ)めたとき、おばあちゃんになってるかもしれないじゃない。早く来て、あたしの王子様(おうじさま)!」
 そんな願(ねが)いがかなったのか、城(しろ)に一人の王子がやって来ました。王子は姫の眠る部屋を見つけると、足音(あしおと)を立てながら入って来ます。姫はドキドキしながら、運命(うんめい)の瞬間(しゅんかん)を待ちました。王子はベッドの横にひざまずくと、姫の顔をしげしげ覗(のぞ)き込みます。
 その時です。姫はどうしても待ちきれず、薄目(うすめ)を開けて王子の顔を見てしまいました。
「これが王子様なの! こんなぶくぶくの顔なんて見たくもないわ。眉毛(まゆげ)なんかへの字に曲(ま)がって、まるで形の崩(くず)れた案山子(かかし)じゃない。絶対(ぜったい)イヤ、こんな人と一緒(いっしょ)になるなんて」
 姫は願いました。「百年ちゃんと待ちますから、この人のお嫁(よめ)さんにしないで!」
 王子の顔が間近に迫(せま)ってきました。絶体絶命(ぜったいぜつめい)です。姫は身体(からだ)をこわばらせます。どんどんタラコ唇(くちびる)が近づきます。鼻息(はないき)も聞こえてきました。もうダメです。姫はたまらず、両手で王子を押(お)しやると叫(さけ)びました。「あんたなんか大嫌(だいきら)いよ! 今すぐ出て行きなさい!」
 飛び起きた姫は、精悍(せいかん)な顔の王子がそこにいたので驚(おどろ)きました。それは、理想(りそう)以上の男性でした。姫は居住(いず)まいを正すと、恥(は)ずかしそうに言いました。
「ごめんなさい。嫌(いや)な夢(ゆめ)を見ていただけなの。お願い、あたしをひとりにしないで!」
<つぶやき>何ごとも慌(あわ)てるのはいけません。しなやかな身のこなしでアピールしましょ。
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0290「心強い味方」

2018-08-15 19:36:09 | ブログ短編

 かすみは部活(ぶかつ)へ向かう先輩(せんぱい)を呼び止めた。そして震(ふる)える手で、手紙(てがみ)を差(さ)し出し、「あの…、これ、読(よ)んで下さい」
 先輩の顔なんか、まともに見られない。
 先輩は手紙を受け取り言った。「君って、柄本(えのもと)かすみだよな」
 かすみは驚(おどろ)いて顔をあげる。まさか、自分の名前(なまえ)を知ってるなんて。だって、話(はな)しもしたことないし、私は遠(とお)くから見てただけなのに…。先輩は微笑(ほほえ)んで、
「妹(いもうと)と友(とも)だちなんだろ。あいつ、いつも君(きみ)のこと話してたから」
 妹って? だれ? 誰(だれ)のことなの…。かすみの頭の中で、この言葉(ことば)がグルグルと駆(か)けめぐった。友だちって…、えっ…、もしかして、真奈(まな)のこと?
 真奈とは、この告白(こくはく)を勧(すす)めてくれた親友(しんゆう)だった。ダメモトじゃない、告白すべきよって、先輩に渡(わた)した手紙だって一緒(いっしょ)に考えてくれた。かすみは何も言えずに駆け出した。
 教室(きょうしつ)に戻(もど)ったかすみは、そこで待っていた真奈に詰(つ)め寄り、息(いき)を切らしながら言った。
「何で! 何で言ってくれなかったの。真奈のお兄(にい)さんなんて、知らなかったよ」
「あら、バレちゃった? でも、ちゃんと受け取ったでしょ」
「そ、それは、受け取ってくれたけど。いやいや、そんなことより、言ってよ。あたし…」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。兄貴(あにき)のことは誰よりも知ってるから。今度、家に遊(あそ)びに来ない?」
<つぶやき>こんなことってあるんでしょうか。憧(あこが)れの先輩と急接近(きゅうせっきん)なんて。最高(さいこう)です。
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0289「何でそうなるの?」

2018-08-14 19:16:11 | ブログ短編

 夫(おっと)が帰宅(きたく)すると、待っていた妻(つま)が言った。「ねえ、あたしのこと愛(あい)してる?」
 夫は一瞬(いっしゅん)ビクッとした。別にやましいことがあるわけじゃない。それは断言(だんげん)できる。でも、突然(とつぜん)そんなことを面(めん)と向かって言われると、何かあるのかと勘(かん)ぐってしまう。今日は、特別(とくべつ)な日ではないと思うのだが…。妻は、夫の反応(はんのう)に不満(ふまん)なのか、さらに言う。
「ちゃんと答(こた)えて。あたしのこと、愛してますか?」
 夫は、ぎこちなく答える。「ああ…。もちろん、愛してるさ」
「そう。分かった」妻は満足(まんぞく)げに微笑(ほほえ)むと、夫から離(はな)れていく。夫は妻を呼(よ)び止めて。
「ちょっと、何なの? 何かあるなら、はっきり言えよ」
「別にないわよ。ただ、テレビで言ってたの。夫婦(ふうふ)の間(あいだ)で、愛の確認(かくにん)は大切(たいせつ)だって。声に出して相手(あいて)に伝えるだけでも、離婚(りこん)の危機(きき)を何パーセントか回避(かいひ)できるって」
「離婚って? えっ、俺(おれ)たち、そんなこと――」
 夫はあたふたして、妻のことをどんなに大事(だいじ)にしているかを力説(りきせつ)した。そして、最後(さいご)に夫は妻に訊(き)いた。「俺のこと、愛してるよな?」
 妻は、わずかに微笑(ほほえ)んだだけで、そのまま台所(だいどころ)へ行ってしまった。夫は追(お)いかけて、
「なあ、どうなんだよ。俺のこと、愛してるだろ? 愛してるって、言ってくれ」
 妻は夕食の準備(じゅんび)をしながら、「そうね…。もう少し、考えさせて」
<つぶやき>こういうとき、女性の方が抜(ぬ)け目がないのかもしれません。見習(みなら)いたいです。
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0288「隣の神様」

2018-08-13 19:05:48 | ブログ短編

 私の家の隣(となり)には神様(かみさま)が住(す)んでいる。そのことを知ったのは、四月の下旬(げじゅん)。私が遅刻(ちこく)しそうになった時だった。もう完全(かんぜん)にアウトだったのに、神様が私を会社(かいしゃ)まで飛(と)ばしてくれた。おかげで余裕(よゆう)でセーフになった。それ以来(いらい)、何か困(こま)った時にはお願いすることにした。
 月末(げつまつ)でピンチの時には、各地(かくち)の名産品(めいさんひん)を届(とど)けてもらい。うちでパーティを開いた時は、部屋の飾(かざ)り付けや豪華(ごうか)な料理(りょうり)までそろえてもらっちゃった。おかげで、友だちからもうらやましがられ、何だかセレブな気分(きぶん)を味わうことができた。
 年末の大晦日(おおみそか)。ポストに一通(いっつう)の封筒(ふうとう)が入れられていた。封筒には差出人(さしだしにん)がなく、私の名前だけが書かれている。不審(ふしん)に思い中を見てみると、一枚の請求書(せいきゅうしょ)が入っていた。私は、その金額(きんがく)を見て驚(おどろ)いた。70万! 何なのよ、これ…。明細(めいさい)を見てみると、名産品各種(かくしゅ)、パーティ料理、輸送代(ゆそうだい)などなど――。
 これって、もしかして…。私は隣の神様のところへ急いだ。お金がかかるなんて、聞いてないんだから。でも、隣には誰(だれ)もいなくて、どうやら引っ越したようだ。私はホッとした。これで払(はら)わなくてもいいかも、ラッキーっ。部屋へ戻ると、私はもう一度請求書を見てみた。すると、一番下の蘭(らん)に但(ただ)し書きが――。
<もし期限(きげん)までに支払(しはらい)がない場合は、あなたの寿命(じゅみょう)から引き落とさせていただきます>
<つぶやき>神様だって、いろいろと経費(けいひ)がかかるんです。お願いは慎重(しんちょう)にしましょうね。
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0287「冬の楽しみ」

2018-08-12 18:55:35 | ブログ短編

 冬になると、会社の近くに焼き芋(いも)屋さんがやって来る。私はこの時期(じき)、いつもランチの後(あと)の焼き芋を楽しみにしていた。熱々(あつあつ)のところをほおばって、これがまた美味(おい)しいの。焼き芋はスイーツよ。誰(だれ)が何と言っても、これだけははずせないわ。
 今日もまた、私は焼き芋屋さんの車を見つけて駆(か)け出した。
「おじさん、一個ちょうだい」私は声をかけた。でも、そこにいたのは…。
「あれ? 君(きみ)って、もしかして、いつも電車(でんしゃ)で一緒(いっしょ)になる――」
 私はへらへらになってしまった。そこにいたのは、朝の電車で見かける人。私が素敵(すてき)だなって、ちょっと気になっていた彼だった。何で、彼がこんなところに…。
「叔父(おじ)さん、腰(こし)やっちゃってね。今日は、僕(ぼく)がピンチヒッターなんだよね」
 今日は、なんてラッキーなんだろう。素敵な彼と、こんな間近でおしゃべりできるなんて。私は焼き芋を手に、夢見心地(ゆめみごこち)で会社へ戻った。
「あれ、君、焼き芋好きなんだ」嫌味(いやみ)な上司(じょうし)が私に声をかけてきた。
 そこで初めて気づいたの。いつもなら近くの公園(こうえん)で食べる焼き芋を、会社まで持って来てしまったことを。それに、一番知られたくなかった上司に見つかってしまった。今日から、イモ娘(むすめ)なんて呼(よ)ばれるかもしれない。私はとっさに、近くの後輩(こうはい)へ芋を押(お)しつけて、
「買って来てあげたわよ。これからは、ちゃんと自分で買いに行ってよね」
<つぶやき>彼から受け取った焼き芋なのに、他の人にあげちゃうなんて。残念(ざんねん)ですよね。
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