社内(しゃない)の若者(わかもの)たちが新年会(しんねんかい)を開いていた。そこへ、ひとりの女性が入って来た。彼女を見るなり、その場にいる人たちのざわめきが聞こえた。
「誰(だれ)だよ。あいつを誘(さそ)ったのは?」男性のひとりがささやいた。
「幹事(かんじ)の斉藤(さいとう)だろ。あいつ、なに考えてんだよ。爆弾(ばくだん)娘を呼ぶなんて」
それは、社内恒例(こうれい)の忘年会(ぼうねんかい)のとき。酔(よ)っぱらった彼女が叫(さけ)んだのだ。
「山崎(やまさき)部長は、部下(ぶか)と不倫(ふりん)をしています。そんなこと、許(ゆる)してもいいんですか!」
その場では酔っぱらいのたわごとで済(す)ませたが、どうやら社内調査(ちょうさ)が入ったようだ。年明けを待たずして、山崎部長は異動(いどう)の辞令(じれい)を受けることになった。
「そういえば、斉藤は忘年会のときいなかったからなぁ」
「それにしたって、噂(うわさ)ぐらい聞くだろう。これだけ、社内中に広まってるんだから」
「あれ、斉藤じゃないか? 何だよ。あいつ、爆弾娘に話しかけてるぞ」
「おい、彼女にビールをすすめてるぞ。斉藤、起爆(きばく)装置(そうち)のスイッチを入れるつもりか?」
側(そば)にいた人たちが、さり気なく斉藤を会場(かいじょう)から連れ出したのは言うまでもない。
実(じつ)のところ、彼女の酒癖(さけぐせ)のことを知っている誰かが、不倫のことを耳打(みみう)ちしたのだろう。彼女は、酔っぱらっていた時のことは全く覚(おぼ)えていないようだ。次は、誰が犠牲(ぎせい)になるのかと、社内中が戦々恐々(せんせんきょうきょう)、疑心暗鬼(ぎしんあんき)となっていた。
<つぶやき>一番迷惑(めいわく)してるのは彼女かもしれません。お酒は程(ほど)ほどにしておきましょう。
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