みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0329「リラックス法」

2018-09-24 19:00:01 | ブログ短編

「君(きみ)は、どうして気にならないんだ?」彼は彼女を見つめて言った。
 彼女はうんざりしたように、「何よ。もう、そんなこと、どうでもいいじゃない」
「この形(かたち)。ちょっといびつな円形(えんけい)で、それが何とも言えず、ほにょっとしてて味(あじ)わいがある。それに、この香(かお)りだ。君は、どうしてこいつに惹(ひ)かれるのか探究(たんきゅう)すべきだ」
「あたしは、別に惹かれて買って来たわけじゃないわ」
「それは意識(いしき)してないだけだ。君は無意識(むいしき)のうちにこいつを選(えら)び口にしている。僕(ぼく)の統計(とうけい)によると、君はこの一ヵ月の間、毎週必(かなら)ず購入(こうにゅう)して僕に食べるように勧(すす)めている。それは、どういうことなのか。僕に、こいつを買ってこいと、暗示(あんじ)をかけようと――」
 彼は、些細(ささい)なことが気になってしまうのだ。それが解決(かいけつ)しないと、他のことが手につかないこともある。彼女はそのことをよく知っていた。だから、それ以上何も言わずに、彼の話を聞き続けた。彼女は袋(ふくろ)の中のこいつを食べつくすと、彼の持っている最後(さいご)の一枚をつかみ取り、口の中に放(ほう)り込んだ。そして、バリバリとかみ砕(くだ)く。
 彼は思わず息(いき)を呑(の)んだ。そして、ひきつった声で叫(さけ)んだ。
「なぜだ! 君は、僕の、僕の一枚を…」
「もう行くよ。早くしないと遅刻(ちこく)しちゃうでしょ。あたしの親(おや)、そういうのうるさいのよ」
「ああ、分かってるよ。今日が大切(たいせつ)な日だってことは、ちゃんと理解(りかい)しているつもりだ」
<つぶやき>人は緊張(きんちょう)すると、普段(ふだん)の習慣(しゅうかん)を思わずして平常心(へいじょうしん)を保(たも)とうとするのです。
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