昔(むかし)、うちの家は貧乏(びんぼう)だった。クリスマスどころか、誕生日(たんじょうび)ですらケーキが出て来ることはなかった。子供(こども)ながらに、よその家が羨(うらや)ましかった。
そんな僕(ぼく)のことを同情(どうじょう)してか、友達(ともだち)が誕生パーティーに誘(さそ)ってくれた。今までケーキといえば、ケーキ屋のガラス越(ご)しにしか見たことがなかった。それが目の前にあるのだ。しかも、それを食べることができる。こんな幸(しあわ)せは、今まで味(あじ)わったことはなかった。
――僕はケーキの美味(おい)しさを知ってしまった。また食べたいと…。でも、いくら待っても、うちでは食べさせてもらえるはずもなく…。そこで、僕は考えた。待っていなくても、こっちから行けばいいんだ。我(われ)ながら、妙案(みょうあん)である。僕は笑(わら)いが止まらなかった。
次の日から、僕はクラスメイトはもちろん、友達や、その友達、またその友達と、片(かた)っ端(ぱし)から誕生日を訊(き)いて回った。もちろん、女子を外(はず)すことはできない。女子の方が誕生パーティーを開く確率(かくりつ)が高いからだ。誕生日が近づくと、僕は聞き耳(みみ)をたてた。
別に、誘ってもらえなくてもかまわない。僕は友達は多い方なので、誰(だれ)かが誘われているはずだ。そいつにくっついていけば大丈夫(だいじょうぶ)。誰もいなくても、突撃(とつげき)あるのみ。けっこう、どうぞどうぞって入れてくれる。こういうのは人が多い方が盛(も)り上がるからだ。
いま思うと、無茶苦茶(むちゃくちゃ)なことをやってたなと、反省(はんせい)するばかり。でも、子供ながらに真剣(しんけん)に生きていたのだ。これは、胸(むね)を張(は)れることだと思う。
<つぶやき>人にはいろんな才能(さいのう)があるものなんですね。それを伸(の)ばすことができれば…。
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