徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:海堂尊著、『スリジエセンター1991』(講談社文庫)

2018年05月13日 | 書評ー小説:作者カ行

『スリジエセンター1991』は、桜宮・東城大サーガの過去編である『ブラックペアン』シリーズの完結編です。ようやく文庫化されたので早速購入して、届いたとたんに読破しました。

東城大附属病院に招聘されたモンテカルロの「エトワール」の称号を持つ天才外科医・天城雪彦が唯一の部下・世良雅志とスリジエ・ハートセンターの設立を目指す物語です。『チーム・バチスタの栄光』を始めとする田口・白鳥シリーズで丸投げの得意な病院長として田口をこき使う高階権太のこの時の肩書は「講師」。田口の担当する不定愁訴外来を支え、隠然と政治力を発揮する藤原さんのこの時の肩書は「婦長」。この二人がタッグを組んで病院長・佐伯教授を追い落とし、スリジエセンター設立の阻止を画策します。現代編の方を読み込んでいると、この作品の中でいろいろと納得することがあります。まあ、そのための過去編なのでしょうけど。高階がどのように「丸投げ」という技を体得したのかも語られていて、ちょっと吹き出したり、他にもボケとツッコミが絶妙な会話で笑えるところがありますが、天城雪彦の運命に限ってはかなり悲劇的と言えます。日本の医療を変えるという夢は革命児・天城の手によっては実現が叶いませんでした。

『イノセントゲリラの祝祭』や『ナニワ・モンスター』、『スカラムーシュ・ムーン』で活躍する未来の革命児・彦根新吾は、ここでは厚生省志望の医学生として登場するのですが、天城にも高階の策略で厚生省から天城に圧力をかけに来た坂田にも「医師として経験を積んでから厚生省に行け。そうすれば厚生省に耐えられなくなってとび出しても医師として生きていく技術を持つことができる」というようなアドバイスを受けるところも面白いと思いました。

院内政治、権力闘争、医療崩壊の予兆とそれに対する策としての病院改革。問題が山積していて、一体どこに辿り着くのかハラハラしてページを繰る手が止まらなくなりました。453ページと比較的ボリュームがありますが、問題なく一気読みできました。

また、先行する物語『ブラックペアン1988』や『ブレイズメス1990』の内容をほとんど覚えてなくても特に違和感なく読めました。


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