御影のブログ

企画/シナリオライター御影のブログ。

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「御影新作プレゼンのサンプルシナリオ_01」の3

2014年01月25日 13時09分16秒 | 新作プレゼンのサンプルシナリオ
;■屋敷・陣の部屋(21時半)
;■ 雪村陣(私服
;
部屋に戻って、電話といえばそれひとつしかない、アンティーク調の電話の受話器を持ち上げる。

ボタンもダイヤルもなかったが、それはそのまま先方を呼び出す音を発していた。

【守 屋】『もしもし』

午後9時半――まだ守屋は帰宅していなかったらしい。

【 陣 】「こんばんは」

【守 屋】『着替えや歯ブラシか』

挨拶の返事はなしに先回りされる。

【 陣 】「そういえば、用意してくれるって言ってましたね」

【守 屋】『もう少し早く連絡があると思っていたが。こちらからそちらへは、可能な限り干渉しない方針でね』

【 陣 】「お互いの連絡って、この電話でしかできないんですか?」

【守 屋】『一応、ドームの入り口にインターホンとマイクがあってやりとりできるが、後はその電話だけだ』

入り口――あの桜の木のある場所か。

【 陣 】「じゃあ、荷物を受け取りに行きます。少し迷うかもしれないから、15分後くらいでいいですか?」

【守 屋】『いや、夜はあの桜の木はわずかに光るようになってる』

【 陣 】「ああ、じゃあ、10分後に」

【守 屋】『わかった』

事務的に電話が切れる。

絶対に先に立って待っているだろうなと思いつつ、俺は屋敷を出る。



;■桜の木の下(21時半)
;■ 雪村陣(私服
;■ 御蔵姫子(和服
;
どういう仕組みかわからないが、桜の木は確かに淡い光を放っていて、迷うことはなかった。

幻想的な風景の下で男と会うのもビミョーだと思ったが。

そこで待っている人間は守屋ではなかった。

【姫 子】「こんばんは」

【 陣 】「着物なんだな」

桜と和服というあまりにもしっくりくる組み合わせに、それほど驚かずに言えた。

【姫 子】「惚れ直しましたか?」

【 陣 】「いや、別に惚れてないし」

【姫 子】「私が存在するだけで世界が2割ほど輝いて見えるはずですが」

【 陣 】「それ、神様の力か?」

【姫 子】「いえ、私の美しさゆえに」

そんな性格だから、魅力的な外見でも小夜ほど焦らされないのだが――言えば調子にのるから黙っておこう。

【 陣 】「ところで、守屋さんは?」

【姫 子】「私が代わりをするので先に帰ってもらいましたよ」

【 陣 】「姫子の部屋にも電話があるのか?」

【姫 子】「私にそんなものは必要ありません。このドームくらいの範囲であれば、皆さんがなにをしているか見聞きできています」

いまいち信用できないが、追求しても仕方がない。

【 陣 】「で、俺の着替えはどうなった?」

見たところ、姫子はなにも手にしていないし、荷物が地面に置かれているということもない。

【姫 子】「すでにお部屋のほうに諸々移しておきました」

【 陣 】「どうやって――って」

;■微笑み
【姫 子】「神様ですから」

つい聞いてしまったが、本当に無意味な説明だった。

【姫 子】「これで、少しは私のことを信じて頂けますか?」

【 陣 】「姫子の部屋にも電話がなくて、俺が欲しがるだろう当然の荷物が最初から用意されていて、屋敷に残った誰かが俺の部屋に運びこんでなければ信じるよ」

【姫 子】「信じない者は馬鹿を見ます」

【 陣 】「……そうだな」

なにかトリックがあると考えてもいいが、そんな手品まがいのことをしても、なんの意味もない。

【 陣 】「それにしても、守屋さんを帰しちゃったのか」

【姫 子】「なにか他に用事があったんですか?」

【 陣 】「ここに来る途中で気づいたけど、携帯の充電器を手配しておいて欲しかったんだ。あと2日もバッテリーがもちそうになくて」

【姫 子】「ここでは繋がらないから無用の長物でしょうに」

【 陣 】「目覚ましは必要だし、普段でも時計代わりにしてる」

;■ころころ微笑み
【姫 子】「それなら、ちゃんとした目覚まし時計と腕時計を頼めばいいんですよ」

【 陣 】「いや、そうなんだけど……」

自分が携帯に依存しているとは思わなかったが、電源が切れたまま放置することを考えると、妙な心細さを覚えるのだ。

姫子には通じない感覚だろうし、また明日にでも守屋に頼もう。

【守 屋】『携帯の機種は?』

突然、なにかスピーカーを通したような当人の声がした。

;■少しいぶかしみ
【姫 子】「盗み聞きとは感心しませんね」

【守 屋】『仕事です』

【 陣 】「ああ、ここにはインターホンがあるって言ってましたね」

どこかに監視カメラも――いや、ドーム内全体に人間の位置座標を読みとるセンサーがあるからカメラはいらないのか。

俺や姫子が外をうろついていることは、当然チェックされていたのだろう。

【 陣 】「あの屋敷の中に監視カメラはないですよね?」

【守 屋】『ない』

【姫 子】「私のプライバシーを侵害する権利も度胸も、今の彼らにありませんよ」

【守 屋】『戦後あたりに軍用の盗聴器を仕掛けたことがあるそうだが、彼女にすべて破壊されたらしい』

話の馬鹿らしさに呆れてしまう。

すでに姫子のことを疑ってはいないが、いちいち演劇くささが抜けない2人だ。

ひとまず、守屋に携帯のメーカーと機種を伝える。

【守 屋】『他になにか必要とするものはあるか?』

【 陣 】「そうですね」

少しだけ考える。

【 陣 】「できればノートパソコンとスマートフォンを1台ずつ」

【守 屋】『ノートパソコンはわかるが、スマートフォン?』

【 陣 】「外の話をするとしたらスマホは外せないでしょうし、明日香がそういうのに興味をもちそうだからって思ったんですけど、ダメですか?」

【守 屋】『……いや、構わない。近日中に、ノートパソコンと回線契約なしのスマートフォンを1台ずつ用意しよう』

【 陣 】「ありがとうございます」

【姫 子】「ちゃんと先生をするつもりですね」

【 陣 】「それが仕事だからな」

姫子の茶々に軽く答える。

【守 屋】『他に用を思いついたら、いつでも電話してくれ』

それを最後に守屋からの反応はなくなった。

【 陣 】「あの人、こんな時間でも家に帰らないのか?」

【姫 子】「そもそも守屋くんに家なんてあるんですかね? どういう生活をしているかは謎です」

それこそ冗談だろう。

【 陣 】「さて、屋敷に戻るか」

【姫 子】「私は少し散歩をしてから帰ります」

【 陣 】「ああ、じゃあ風呂はどうする?」

【姫 子】「一緒に入りますか?」

【 陣 】「もう小夜にからかわれたよ」

【姫 子】「あら……まあ、あの子が冗談をねぇ……」

なにか思うところがあるのか。

【姫 子】「私は明日の朝にしますので、他の子たちが全員入ったのでしたら、ご自由に」

【 陣 】「わかった」

“外”なら神様とはいえ女性をひとりにはしないが、ここでは暴漢や迷子の心配もない。

俺は素直にひとりだけ引き上げることにした。



;■屋敷・陣の部屋(22時)
;■ 雪村陣(私服
;■ 比良坂小夜(私服
;■ 黒崎今日香(パジャマ
;■ 黒崎明日香(パジャマ
;
【 陣 】「で」

寄り道するようなコンビニもないので、まっすぐ屋敷に戻ると、今度は双子と小夜が部屋にいた。

【 陣 】「えーと……なんで3人も俺の部屋にいるんだ?」

【明日香】「……約束」

【今日香】「外のお話するって昼間に言ってたよ?」

【 陣 】「……そうだな」

夕飯のあとで話をしようと言っていたか。

【 陣 】「そういえばこの部屋、鍵がないな」

明日香の睨んでいないのに圧力のある視線から逃げるため、やや現実逃避気味に、ぼやいてしまう。

【 陣 】「順番に確認するけど、小夜は風呂の話か?」

;■微笑み
【小 夜】「うん。3人が出たってことと、姫子が屋敷の中で見つからないって言いに来たの」

【 陣 】「姫子なら外を散歩してた。風呂は明日の朝でいいってさ」

説明が面倒だったので色々と省略する。

【小 夜】「じゃあ、私が最後でいいから、陣くんが先にお風呂へどうぞ」

【 陣 】「そうさせてもらう」

さすがに、そろそろ疲れてきた。

残り少ない今日という日を、落ち着いて過ごしたい。

【 陣 】「今日香と明日香は、風呂の後でいいか?」

【明日香】「……もう眠いから明日にする」

;■笑顔のまま
【今日香】「明日香ちゃんがそう言うなら、今日香も明日でいいよ」

【 陣 】「ありがとう」

本当にありがとう。

こちらの疲れを見抜いてくれたのか、単に機嫌を悪くしただけかもしれないが、もうどちらでもいい。

クローゼットを開けて、出かける前にはなかった着替えやタオルを物色する。

続いて洗面所に行くと、ここにも洗面用具が揃っていた。

【 陣 】「じゃあ、俺は風呂に行く。おやすみ」

【今日香】「せんせー、おやすみなさーい♪」

【明日香】「…………」

【小 夜】「そこまで案内するよ」

【 陣 】「助かる」

どうせ盗られるような私物はないからと、今日香と明日香を残したまま、俺は部屋を出る。



;■屋敷・渡り廊下(22時)
;■ 雪村陣(私服
;■ 比良坂小夜(私服
;
屋敷の正面ホールから奥に進むと、屋敷の裏側にある渡り廊下のような場所にぶつかった。

左右の道はそれぞれ屋敷の両翼への道。

裏手には雑木林が広がり、その右手の奥のほうには小夜と初めて顔を合わせた花畑があるはずだ。

;■このあたりは背景デザインによって描写の修正を前提。
;■すのこが変なら、桟橋的な木組みの道あたりかな。
;
そして、和洋折衷の妙な連結点でもあるらしく、林の奥のほうに続くす{・}の{・}こ{・}の道があった。

【 陣 】「このまま進めば風呂だよな?」

【小 夜】「そうだね。道を外れなければ問題なくつくよ」

温泉旅館のような分かりやすさだ。

【 陣 】「じゃあ、案内はここまででいいよ。小夜もお休み」

【小 夜】「うん。おやすみなさい」

素直にうなずく小夜と別れ、すのこをカラコロさせながら、林の中へと進んでいく。

;■温泉の中までは、林の木の映りこむ夜空などで適当に処理。
;
ドーム全体の規模で考えれば、風呂場も直線距離ならすぐそばにあるのだろうが、距離を錯覚させるように道が蛇行していた。

その先にある木造の脱衣所もごく普通のもので、用意されていた藤の籠に服を脱ぎいれ、隣接している露天風呂へと進む。



;■屋敷・温泉(22時)
;■ 雪村陣(裸
;■ 比良坂小夜(裸
;
【 陣 】「……ふぅ」

髪と身体を洗って湯につかると、自然とため息が漏れた。

このドームに足を踏み入れて5時間ほどしか経っていないはずだが、独自のルールに触れたせいで、思ったより気疲れしていたらしい。

ふと、1日が終わり、『これで5万円』という即物的な数字も浮かんだが、現実感のなさにピンとこなかった。

施設のみんなは俺がいなくても大丈夫だろうか?

【 陣 】「……明日からはもう少し落ち着くかな」

すくいあげた湯で顔を洗ってから、ぼんやりと夜空を眺める。

ピリの言った通り、プラネタリウムのように、くっきりと星がまたたいている。

人工の温泉に、人工の星空。

林の中にいるというのに鳥や虫の気配もない。

だが――だからこそ、余計なものが削ぎ落とされた美しさだった。

【 陣 】「…………」

今の心境に一番近いのは、スケジュールになかった旅行に突然連れ出されたような感じ、か。

ただ、それほど悪い気分ではない。

あまりの静けさに心が空白になる。

だから、小さな湯の跳ねる音と、温泉の表面に広がる波紋のことも、すぐに気づけなかった。

;■微笑み
【小 夜】「ちょっとごめんね」

【 陣 】「っ!?」

おそろしく滑らかなもので背筋を撫でられる感触。

反射的に振り返ってしまったが、大慌てで正面に視線を戻す。

小夜が裸で、俺と背中合わせに温泉の中に入っていた。

【 陣 】「な、なんだ!?」

【小 夜】「ねえ、陣くん、見た?」

【 陣 】「一瞬だけだし前は見てない!」

【小 夜】「見てもいいって言うか、それが目的なんだけど? ちょっと見てくれないかな?」

【 陣 】「…………」

さすがに絶句してしまう。

小夜の声はあまりにも普通すぎて、なにがなんだかわからない。

【小 夜】「真面目に聞きたいんだけど、私の身体って、男の子から見て魅力はあるの?」

【 陣 】「あるよ!」

一瞬だけ見てしまった肩と背中のなめらかなラインを思い出し、頭がくらくらする。

;■考え、あまりよい答えではなかった
【小 夜】「……そっか」

背中越しにぼんやりとした声が聞こえる。

【小 夜】「困ったなぁ」

【 陣 】「なんなんだ!?」

俺の後をついてきて風呂に入ってきたのはわかる――だが、意味はわからない。

【小 夜】「ううん。こっちの話」

【 陣 】「あのさ……頼むから、誰か入ってこないうちに出てくれないか?」

【小 夜】「陣くん、本当に混乱してるね。全員入った後だから誰もこないよ」

【 陣 】「……まさか本当に誘ってるわけじゃないよな?」

【小 夜】「そういうことになったら、まあ、覚悟してきたし仕方ないかな?」

ちゃぷん、と湯を揺らしながら小夜がつぶやく。

【 陣 】「…………」

なんだこれは……。

我慢できている理由は単純に、小夜とは今日が初対面だからということと、彼女の雰囲気がそういう感じではないというだけだ。

意識の上ではこっそりとでも振り向きたい。

【小 夜】「そっか、私、男の子から見て魅力的なのか」

【 陣 】「ああ……この屋敷で6年だったか」

【小 夜】「うん」

小夜が笑いを含ませてうなずく。

今日香もそんな感じだが、異性の視線のない場所で6年を過ごすと、そういう判断基準もおかしくなるのかと納得する。

特に、俺たちの年代の6年は大きい。

【 陣 】「でも、まさか本当にそれを訊きに来ただけじゃないよな?」

【小 夜】「本当にそれを訊きに来ただけ」

【 陣 】「そんなの別に風呂場じゃなくても――」

;■小さな声でぴしゃり
【小 夜】「信じられない」

それが、初めて小夜が強い口調で告げた言葉だった。

;■最初もそれほど重くはなく、後半に行くほど語調を普通に戻して。
【小 夜】「普通に話してるときに、どう答えられても、信じられない、よね?」

【小 夜】「こんなときにどうするか、だよね?」

【 陣 】「……少し、ずるいだろ、それ」

うめいてしまう。

ここで俺が手を出せば、小夜は男性全般が信じられない生き物だと判断すると言うことだ。

今日香の無邪気さとは違う、計算された誘惑と牽制だった。

;■ぼんやり
【小 夜】「ずるいかな……うん、ずるいね」

;■苦笑い
【小 夜】「でも、困ったのは、こんなときでも私に優しくしてくれる男の子がいるんだって、わかっちゃったからなんだよね」

【 陣 】「…………」

彼女がなにを言っているのかわからない。

わかっていない。

わかっている。

本当に優しくするつもりなら、俺は自分から彼女と距離をとれる。

小夜を追い出すのではなく、自分が出て行けばいい。

だが、できない。

背中だけとはいえ、触れ合っていることに性的な期待をしてしまっている。

彼女の肌と髪の感触に興奮していた。

【小 夜】「ごめんね、試すようなことしちゃって」

本当にそれだけが用事だったらしく、小夜はあっさりと俺から離れ、そのまま露天風呂を出て行ってしまった。

【 陣 】「…………」

脱衣所からわずかに聞こえる物音が消えて――

それから、さらに長い時間を我慢してから、ようやく振り返る。

当然、風呂場には誰もいなかった。

まるで悪い夢でも見ていたようだ。

【 陣 】「いや、いい夢か?」

ようやく、張り詰めていた息を吐きだす。

そして、星空を眺める。

今さら、きれだとも思えない。

【 陣 】「……あーあ」

もしこれが夢なら、最後に少しくらい振り返っておけばよかった。



;■屋敷・陣の部屋(23時)
;■ 雪村陣(パジャマ
;■ 黒崎明日香(パジャマ
;
【 陣 】「…………」

のぼせかけた風呂を出ても、どうやら悪夢は続いているらしかった。

ベッドに誰かが寝ている膨らみがある。

軽く見渡すと、机の上にメモ帳が1枚置かれていた。

『ご自由に。 明日香』

【 陣 】「…………」

どうやら、また今日香だけをこの部屋に残していったらしい。

いい加減に考えるのも面倒で、俺はメモを破ってごみ箱に投げこむと、クローゼットから予備のバスタオルをとりだしてソファに寝転んだ。

【 陣 】「……おやすみ」

どうせ寝れないだろうなと思っていたが。

春めいたあたたかさに、すぐに、意識が遠くなった。

………………

…………

……





;■------------------------------------
;■<プロローグ・2日目>

;■-----
;■屋敷・陣の部屋(7時)
;■ 雪村陣(パジャマ
;■ 黒崎明日香(パジャマ
;
あたたかい。

ゆっくりと意識が覚醒し、まぶたの向こうに朝の光を感じる。

鳥の声も車の音もなく、人の声もなく、屋敷で迎える初めての朝はおそろしく静かなものだった。

なんの動きもない世界。

だが、なにかが俺を起こしたのだと思った。

まぶしさに痛まないように片目を開けると、冗談みたいな美少女が俺の寝顔を観察していた。

どうやら、先に起きた今日香の吐息で目が覚めたらしい。

【 陣 】「おはよう、今日……」

そこで、違和感を覚える。

俺を見下ろす視線に、いつもの天然の可愛らしさというものを感じられない。

【明日香】「…………」

【 陣 】「…………」

【明日香】「…………」

【明日香】「……おはよう、甲斐性なし」

あっけにとられる俺に言い放ち、明日香が部屋を出て行った。

【 陣 】「…………」

上半身を起こし、とりあえず頭を抱える。

どうやら、今日も面倒くさい1日が始まるようだ。



;■屋敷・廊下(左翼)(7時)
;■ 雪村陣(私服
;
洗顔と着替えを済ませて部屋を出る。

携帯で確認すると今は午前7時――サロンに集まる9時まで、かなりの時間があった。

“外”での生活に合わせて起きてしまったが、これからは起床時間を1時間ほど遅くしないと、手持ち無沙汰になりそうだ。

【 陣 】「まあ、まずは朝食だな」

俺は手近にあるキッチンの扉を開けた。



;■屋敷・キッチン(7時)
;■ 雪村陣(私服
;■ ピリッタ・マキネン(制服+エプロン
;■ 比良坂小夜(パジャマ
;■   ※ピリのエプロン付きはイベントCGのみ
;
;■笑顔
【ピ リ】「あ、陣くん、お早いおはようございます」

【 陣 】「おはよう」

相変わらず元気なピリに、気分よく挨拶を返す。

エプロンをつけた笑顔の女の子に愛想がよくなるのは、ごく自然なことだろう。

【 陣 】「ピリこそ早いんだな」

;■えっへん
【ピ リ】「早起きは三文芝居です。寝る子は育ちます」

【 陣 】「びっくりするくらい説得力がない格言だな」

【ピ リ】「ん? 何事ですか?」

【 陣 】「いや、なんでもない」

業務用らしき大きな冷蔵庫から牛乳を取りだして、コップに注ぐ。

【 陣 】「他に誰か起きてきてるのか?」

【ピ リ】「陣くんが一等賞ですよ」

【ピ リ】「あ、でも、そろそろ小夜ちゃんが来る頃でしょうか?」

【 陣 】「イメージ通りな感じだな」

ピリと小夜が早起きで、次が今日香と明日香、姫子は――

【 陣 】「……姫子って神様なのに寝るのか?」

;■苦笑
【ピ リ】「特に寝る必要はないそうですが、夜は皆さん寝ていて暇だから寝ているそうです」

【 陣 】「たまらんな……それより、なにか手伝おうか」

【ピ リ】「いえいえ。ご飯はわたしの仕事ですから」

ピリがタコの形になっているソーセージを炒めながら笑う。

テーブルの上にはすでに玉子焼きやサラダ、ヨーグルトや果物が用意されていて、香ばしい匂いや甘い匂いがキッチン中に漂っている。

どうやら朝もバイキング形式らしい。

【 陣 】「結局、朝食は各自で用意するって言いながら、それもピリ任せか」

;■笑顔でかっこつけ
【ピ リ】「自分の分を作るのと一緒にですから、アイムソーリーです」

【 陣 】「……アイムソーリー?」

これは難易度の高い言い間違いだな。

あ、ノープロブレムの勘違いか。

【ピ リ】「というわけで、陣くんもトーストとホットケーキとおにぎりから選べますよ」

【 陣 】「わざわざ全部用意してるのか」

【ピ リ】「トーストとホットケーキは頼まれたら作りますが、お米は姫子さんが食べるのでいつも炊いてます」

【 陣 】「ああ……炊飯器1つ分なら丸ごと食べそうだ」

昨日の夕飯のことを思い出して、納得する。

【 陣 】「しかし、朝からホットケーキか」

【ピ リ】「だいたいは今日香ちゃんと明日香ちゃん専用です」

;■笑顔
【ピ リ】「いつも2人はお部屋に持っていって食べてしまいますが、たまに目の前で食べてくれると、もう本当に可愛らしいのです♪」

まあ、あの双子が並んでホットケーキを食べている姿を目にしたら、俺もにやけてしまう気がする。

【 陣 】「とりあえず、米があるなら俺はご飯にしておくよ」

わざわざピリの手間を増やさなくてもいいだろう。

【ピ リ】「じゃあ、食べたい分だけよそっちゃってください。このソーセージでオカズも完成ですから」

【 陣 】「了解」

カチャカチャと食器や箸を用意しながら、視線だけはピリを追ってしまう。

【ピ リ】「う? どうしました?」

【 陣 】「いや、たいした意味はないんだけど」

【ピ リ】「けど?」

【 陣 】「こう、ピリにエプロンって似合うな――」

【 陣 】「というか、女の子相手なんだから可愛いって言えばいいのか」

【ピ リ】「ぐほっ!?」

ピリが妙なむせ方をする。

【ピ リ】「ふああ、たこさんウインナーに唾が!?」

【ピ リ】「ま、まあ、誰も見ていないのでセーフということにしておきましょう」

【 陣 】「どうやってもアウトだろう……」

そのくらいなら普通に食べるけどさ。

;■照れ困り、涙目
【ピ リ】「な、なぜに陣くんは、そう、突然変なことを言いますか? いじめるですか?」

;■ここから立ち絵
恥ずかしかったのか、ピリがコンロの火を止め、涙目になってエプロンを脱いでしまう。

【 陣 】「褒めただけで、別に驚かせるつもりもなかったんだけど」

ピリの困った照れ顔に、こちらまで恥ずかしくなってしまう。

【 陣 】「あー、俺も施設育ちだから、隠し事とか苦手なんだろうな」

【ピ リ】「そういうものですか?」

そういえば、ピリは両親と死に別れてから直接この屋敷に来ているので、どこかの施設に預けられていたってわけじゃないのか。

餓死しかけたという話も気になっていたが、それを聞こうとすると、どうしても彼女の両親の話に触れそうだったので口にできないでいた。

気にしていないように見えても、まだ半年前のことだしな。

【 陣 】「ニュアンスの話になるけど、施設ってのは実の家族じゃない人間の集まりだからこそ、嘘とか建前で話してると面倒くさくなるって言うか」

【 陣 】「相手の良いところも悪いところも、とりあえず正直に言っとけ、みたいな感じになるんだよ」

;■ため息
【ピ リ】「あー……だから、ここのみんなも、ずっこんばっこん言いたいことを言うわけですね」

【 陣 】「とりあえず、その擬音はやめろ」

【ピ リ】「ギオン?」

【小 夜】「ずっこんばっこん」

【 陣 】「っ!?」

急に耳元で囁かれ、思わず首をすくめてしまう。

声の主は、驚いている俺を迂回してキッチンに入ってきた。

;■くすくす
【小 夜】「おはようございます。2人して朝から猥談なんていやらしいー」

【 陣 】「……おはよう」

【ピ リ】「おはようございますですが、小夜さん、なにが猥談でしたか?」

【小 夜】「ううん。いいのいいの」

そう言いながらも、小夜はクスクスと笑い続けている。

しかし、つい目についてしまうが……パジャマ姿だと、露骨に胸のでかさがわかるな……。

というか、ダメだ、小夜のやつ異性の目を意識してない、ノーブラだ、昨日の温泉での後だってのに、ダメダメだ。

男の葛藤を知るわけもなく、小夜はひとしきり笑ったところで、さらに胸を強調しやがるように大きく息をついた。

【小 夜】「あー、朝からこんなに笑ったのは久しぶり」

【ピ リ】「そうですね。いつもはもっとクールです」

【 陣 】「ん? ……いや、クールであってるな」

ピリが英語やらカタカナ言葉を使うと、どうも間違ってることを前提に考えすぎてしまう。

【小 夜】「陣くんの気持ちはわかるよ」

【 陣 】「人の考えを読むのはやめろ」

【小 夜】「ごめんごめん、つい癖で」

【 陣 】「……イヤな癖だな」

【ピ リ】「ふふ。朝から明るいことはよいことです」

【小 夜】「ほんと、ピリさんはいい子だなー」

どちらが年上かわからない評価だったが、ピリがこの屋敷のムードメーカーなのは間違いないだろう。

【ピ リ】「えーと、小夜さんはいつも通りトーストでよろしいですか?」

【小 夜】「うん。せっかくだし3人で食べようか」

【ピ リ】「そうしましょう」

【 陣 】「ま、いいけどな」

そういえば、ずっと手に持ったままだったお椀としゃもじを思い出し、俺もご飯をよそることにした。



;■屋敷・食堂(8時)
;■ 雪村陣(私服
;■ ピリッタ・マキネン(制服
;■ 比良坂小夜(パジャマ
;■ 黒崎今日香(パジャマ
;■ 黒崎明日香(パジャマ
;■ 御蔵姫子(メイド服
;
キッチンの隣にある食堂で朝食を終えて、そのままのんびりしていると、8時近くなってようやく次の住人が起きてきた。

;■にこにこ
【今日香】「あ、ピーちゃんと小夜ちゃんとせんせー、おはよー♪」

【ピ リ】「今日香ちゃんも、おはようでございます」

【小 夜】「おはよー」

【 陣 】「おはよう」

【今日香】「みんな早いねー」

ぶかぶかのパジャマの袖を揺らしながら、今日香が楽しそうに言う。

ピリといい今日香といい、どんな場所でも、朝は子どもほどテンションが高いようだ。

いや、ピリが一番年上だったか?

【 陣 】「ところで今日香、明日香は?」

【今日香】「明日香ちゃんもいるよ」

今日香が場所をあけると、明日香がのろのろと食堂に入ってくる。

;■半分寝てる
【明日香】「…………」

【明日香】「……眠い」

どうやら俺の部屋を出てから寝なおしていたらしく、完全に起きぬけの様子だった。

【 陣 】「明日香もおはよう」

この際、初めて会ったことにしておこう。

;■真顔
【明日香】「…………」

【 陣 】「……ん?」

;■いぶかしげ
【明日香】「…………」

;■わずかな照れ怒り
【明日香】「……………………」

妙に長い無言のあと、明日香がまわれ右して食堂を出て行ってしまう。

【今日香】「あれ? 明日香ちゃんどこ行くの?」

当然のように、今日香もあとを追っていなくなってしまった。

【 陣 】「……なんだあれ?」

【小 夜】「なんだろう? なにか明日香ちゃんを怒らせるようなことしたっけ?」

【 陣 】「なにかって、俺が挨拶しただけだぞ?」

;■にこやかに
【小 夜】「そうだね。じゃあ、陣くんのせいだ」

【 陣 】「おい」

【ピ リ】「い、いや、明日香ちゃんは、陣くんにパジャマ姿というか起きぬけの顔を見られて恥ずかしくて、着替えに戻ったんだと思いますですよ」

俺と小夜の疑問に、ピリが呆れたように答える。

【小 夜】「ああ」

【 陣 】「おお」

;■ジト目、汗
【ピ リ】「お2人はおバカさんですか?」

正直、ピリにそういう目で見られると、地味にショックだ。

【 陣 】「そういえば、ピリだけは朝からちゃんとした服だな」

【ピ リ】「う? お料理しますから着替えますよ?」

【 陣 】「パジャマで料理したっていいだろう。というか、汚れるかもしれないし、一張羅の制服よりパジャマのほうが洗いやすいんじゃないか?」

;■苦笑
【小 夜】「露骨に話を逸らしにかかってるね、陣くん」

自分を蚊帳の外に置いている小夜の言葉は、聞かなかったことにする。

;■ちょい照れ焦り
【ピ リ】「そ、そういうことでしたら陣くんだって着替えてるじゃないですか」

【 陣 】「俺は用意されていた服を着てるだけだし」

【ピ リ】「女の子のパジャマを見たいだなんて伴天連です!」

……ばてれん?

【小 夜】「あー、うーん、たぶん破廉恥って言いたかったんだね」

【 陣 】「ああ――って、よくわかったな」

思わず感心してしまう。

;■苦笑
【小 夜】「慣れだよ、慣れ」

【ピ リ】「そうです、わたしはトレンチと言いました!」

【 陣 】「いや、落ち着け。別にパジャマを無理に見せろってわけじゃないんだから」

【ピ リ】「む、無理やりパジャマに着替えさせるつもりですか!?」

【 陣 】「逆だ! というか、俺はどれだけ特殊な性癖にされてるんだよ!?」

まさか、ちょっとした雑談のつもりが、こういう反応になるとは思わなかった。

俺の疑問を察したか、小夜が助け舟をだしてくれる。

;■くすくす
【小 夜】「ピリさんのパジャマは着ぐるみなんだよねー」

【ピ リ】「小夜ちゃん!?」

【 陣 】「着ぐるみ?」

【小 夜】「そう。うさぎの可愛いやつ。枕もニンジンの形をしたやつ持ってるんだよ」

【ピ リ】「ふおおおお!」

清々しいほどの混乱っぷりだった。

;■殿様、誤字ではない
【ピ リ】「やめてくださいやめてください! 確かに気に入っていますが、殿様にお見せできるものではないのです!」

【 陣 】「気に入ってるならいいんじゃないか?」

【小 夜】「そう思うんだけど」

本人以外はのんびりしたものである。

あと、たぶん、殿様は殿方と言いたかったはずだ。

;■にっこり
【姫 子】「朝から賑やかですねぇ」

騒ぎを聞きつけたのか、どこからともなくメイド姿の姫子が姿をあらわした。

;■後半は早口
【ピ リ】「お、おお! 姫子さん、朝ごはんですね今すぐ用意しますからお待ちやがりください!」

これ幸いにと、バタバタとピリが食堂を出て行ってしまう。

【小 夜】「ピリさんは素敵だなぁ」

【姫 子】「あまり他の子をからかうものではないですよ、小夜」

;■微笑み
【小 夜】「おはよう、姫子」

【姫 子】「おはようございます」

【姫 子】「陣くんも。いかがですか、この屋敷で迎える初めての朝は?」

【 陣 】「ま、悪いもんじゃないな」

今朝の総括に、素直に答えておくことにした。

………………

…………

……


;■屋敷・サロン(9時)
;■ 雪村陣(私服
;■ 御蔵姫子(メイド服
;■ ピリッタ・マキネン(制服
;■ 黒崎今日香(制服
;■ 黒崎明日香(制服
;■ 比良坂小夜(制服
;
午前9時。

決まりに合わせてサロンへ向かうと、すでに全員が集まっていた。

姫子以外は“制服”と呼ばれる服で統一されていたが、学校の代わりというより、仲の良い姉妹の集まりのようである。

机の上に用意された紅茶やお菓子が、余計にお茶会のような雰囲気をかもしだしていた。

【 陣 】「あー、勝手がわからないんだけど、いつもこんな感じなのか?」

先生役を期待されているからか、全員に注目されて困ってしまう。

【姫 子】「いつもとは違いますね」

;■苦笑
【小 夜】「今日は仕方ないよ」

【ピ リ】「いつもは教科書やノートでお勉強してます」

【 陣 】「教科書なんてあるのか? 普通のやつ?」

【明日香】「……たぶん、外と同じものが、図書室に揃ってる」

【姫 子】「普段は各自の年齢に合わせて教科書を読み進めつつ、わからないところがあれば周りに相談――という形式で授業をしています」

そこだけは“外”の基準に合わせているのか。

;■えへへ
【今日香】「今日香は好きな本を読んでいいんだけどね」

【 陣 】「好きな本を?」

【明日香】「……まともな勉強なんてできないから、好きにやらせてるだけ」

【今日香】「それより、せんせー、なにをお話してくれるの?」

マイペースな今日香は、楽しそうに足をパタパタとさせている。

【 陣 】「……仕方ないか」

そろそろ覚悟を決めよう。

【 陣 】「とりあえずピリ、手伝ってくれ」

【ピ リ】「う? なにを手伝いますか?」

【 陣 】「ピリはこの屋敷に来て半年なら、俺とほとんど外の知識が変わらないだろ。俺がなにか間違ったことを言ったり、説明が抜けてたらフォローしてくれ」

【ピ リ】「おお、なるほど」

【ピ リ】「そうですね。むしろ、わたしは陣くんと同じくらい、外よりもこのお屋敷のことを知らないと思いますか?」

【 陣 】「俺に聞かないでくれ」

なんでそこが疑問系になるんだ。

【 陣 】「えーと、屋敷に来たのは小夜が6年前で、今日香と明日香が3年前だよな。それなら6年以上前のことは話す必要ないか」

【小 夜】「あ、私は外のこととか興味ないから、ここ3年の話でいいよ」

【 陣 】「いいのか?」

【小 夜】「冷凍睡眠されてて50年ぶりに目が覚めた、とかじゃないんだから、そんなに変わらないでしょ」

小夜の言い方は、気を遣ったというより本当に外のことに無関心なのだろう。

;■きょとん
【今日香】「せんせー、それより、なんで今日香たちが屋敷に来た時期のこと知ってるの?」

;■はっ、と軽く
【明日香】「……あ、そうか、話してない」

双子が揃って不思議そうな顔をする。

【小 夜】「昨日の夜、私が陣くんに教えたの」

;■少しピリピリ
【明日香】「……あまり勝手に、明日香たちのことを話さないで」

;■微笑み、軽薄
【小 夜】「ごめんごめん」

;■ため息
【明日香】「……正確には3年じゃなくて、2年10ヶ月」

【 陣 】「話せればでいいけど、明日香や今日香は、それまで家族と暮らしてたのか?」

ちょうどいい機会なので、質問してみる。

【明日香】「…………」

【今日香】「明日香ちゃんどうする? 今日香が話す?」

【明日香】「……明日香が話す。今日香だと余計なことまで話しちゃいそうだから、しばらく黙っていなさい」

【明日香】「……明日香たちは子どもの頃に親に捨てられて、ここじゃない施設にいたけど、そこが火事になって閉鎖されたからこの屋敷に来た」

ほとんど感情を漏らさず、明日香が淡々と生い立ちを口にする。

説明としては要点を押さえているが――だからこそ、必要最小限に情報を伏せた物言いだ。

だが、明日香は静かに俺を見つめている。

どうやら、よほど姫子や他のメンバーの前では言えないことがあるようだ。

【 陣 】「まあ、そのうちだな」

これは独り言。

姫子の言葉ではないが、出会って1日の人間に、いきなり心を開けというのも無茶な話だ。

【 陣 】「じゃあ、ここ3年くらいの“外”の大きな出来事を話すから、なにか詳しく聞きたい話題があれば個別に声をかけてくれ」

【 陣 】「まず、一番大きいのは東日本大震災だな」

;■ちょっと困り
【ピ リ】「あー、ありました」

【小 夜】「さすがにそれはわかるよ」

【姫 子】「ここもかなり揺れましたからね。あの時は、なにが起こったのかを私から皆さんに伝えさせて頂きました」

【 陣 】「なるほど」

都内のビルの中なら、体感的には震度4か5くらいあっただろう。

【 陣 】「じゃあ、地震の話は飛ばそう」

【 陣 】「他に国内での出来事だと、スマートフォンの普及とゆとり教育からの方針転換、経済的にはTPP関係と、芸能だとAKBとジャニーズの台頭とかかな」

ある程度、頭の中でまとめていた内容を口にする。

世の中ではもっと多くのことが起こっているのだろうが、なにも調べずに、ぱっと思いついたのはこのあたりだ。

【小 夜】「……スマートフォンとTPPとAKB?」

【 陣 】「小夜には聞きなれない単語だろうな」

その3つの物事は、おそらく今日香や明日香がギリギリの既知の世代だろう。

【 陣 】「スマートフォンは、まあ、携帯電話にパソコンの機能を追加したみたいなものだと思えばいい」

【小 夜】「それってノートパソコンじゃないの?」

【ピ リ】「もっと小さいですね。本当に携帯と同じサイズです」

【小 夜】「へー。SFみたい」

小夜自身は否定したが、まさに冷凍睡眠されていた浦島太郎のような反応で、少し面白い。

;■内心で興味
【明日香】「……スマートフォンって、そんなに流行ってるの?」

【 陣 】「今は携帯よりも売れてるよ。実物を頼んであるから届いたら見せる」

【明日香】「……そう」

表面的には冷静なままだが、うなずいた明日香はどこかそわそわしている。

意外と機械的なものが好きなタイプらしい。

【明日香】「……じゃあ、芸能は興味ないけど、TPPってなに?」

【 陣 】「あー、環太平洋なんちゃら協定で、要するに太平洋に面してる国の貿易とかについての……」

【 陣 】「詳しいことはピリに説明してもらおう」

【ピ リ】「なぜそこでわたしに振りますか!?」

どうやらピリも詳細は知らないらしい。

【明日香】「……わからないの?」

【 陣 】「ニュースにはなってるけど、なんか小難しい話が多くて俺も細かいところまでわからないんだ。すまん、今度調べてくる」

正直に降伏して、思わずため息をついてしまう。

【 陣 】「……なんか、役に立ってないな、俺」

【ピ リ】「じ、陣くんはがんばってます!」

【明日香】「……別に責めてるわけじゃないし、それでいい」

ぽつりと、明日香が穏やかな口調で言った。

【 陣 】「慰められてる、というより、元からあんまり期待されてなかったか?」

俺と目が合うと、明日香は急に照れくさそうに眉を寄せる。

【明日香】「……そうじゃなくて。明日香が知りたいのは、そういう社会の勉強みたいなことじゃなくて、外のことだから」

【 陣 】「だから、うまく教えられてないだろう?」

【明日香】「……違う」

違う?

意味がわからなかったので続きを待ってみたが、明日香は本格的に表情を曇らせてしまう。

;■困り
【明日香】「……そういう、勉強じゃ、ない、の」

言葉は後ろにいくほど、すぼんでいく。

どうやら、本当に話をするのが苦手らしい。

;■苦笑
【小 夜】「明日香さんは、陣くんの“よく耳にするけど詳しく知らない”ということが、外の一般的な感覚なんだね、って言ってるんだよ」

【 陣 】「ああ、なるほど」

屋敷で暮らしている人間からは、そういう捉え方になるのか。

しかし、ピリのときといい明日香といい、小夜は相手の心情を拾うのが上手い。

【 陣 】「そういうことなら、ピリからでも十分に話を聞けると思うけどな」

;■軽い呆れ
【明日香】「……ピリが一般的だとはとても思えない」

【ピ リ】「どういうことですか!?」

【明日香】「……そのまんま」

;■えっへん
【ピ リ】「わたしはとてもとても一般的です。みんなにはよく『独創的だよね』と言われる一般人に過ぎません」

;■頭痛
【明日香】「……一般的と独創的、どっちなのよ」

【ピ リ】「う?」

【小 夜】「ふふ」

可愛らしい2人の言い合いに、思わず周囲の口元もゆるんでしまう。

そんな気軽さや、素のままの知識でかまわないと言われたことで、俺の気持ちも軽くなる。

その後も、国内での政治から始まり、映画や音楽の話、国外のギリシャから始まったEUの経済問題や中国との緊張状態のことなどを話すことになった。

もちろん、俺の知識でわかる範囲の内容であり、それにピリや明日香や小夜が反応するという――授業というより、ほとんど雑談でしかなかった。

中には、俺にはどうやっても考えつかない質問もあった。

例えば――

【明日香】「……ファッションはどうなの?」

【 陣 】「ファッション?」

【明日香】「……今年の流行とか色とか」

【 陣 】「あー、しばらく不況で地味だったらしいけど、なんか最近は派手な色とか、足を出すのも流行ってたかな?」

テレビや妹からの又聞きの情報を、なんとかひねりだせた。

これにはピリのほうが反応してくれる。

;■微笑み
【ピ リ】「わたしが屋敷に来る前なら、服は柄物、小物や鞄はクリアなものが流行ってましたですよ」

【小 夜】「クリアなものって?」

【ピ リ】「透明なやつです」

【明日香】「……中身が見えちゃうじゃない」

【ピ リ】「それがお姉さんっぽくてお洒落なんですよ」

【明日香】「ふうん……ファッションは季節ごとでも変わるから、“今”の話は参考にならないかも」

;■うんうん
【ピ リ】「確かに」

【 陣 】「…………」

正直、この手の話題で女子についていける自信はなかったので、目立たないように無言を貫いた。

男からしたら、ファッションなんて『かわいい』とか『生足はいいよな』くらいのものである。

とまあ、午前中はそんな感じで時間が過ぎていった。



「御影新作プレゼンのサンプルシナリオ_01」の4へ続く
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