御影のブログ

企画/シナリオライター御影のブログ。

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「御影新作プレゼンのサンプルシナリオ_01」の4

2014年01月25日 13時11分01秒 | 新作プレゼンのサンプルシナリオ
;■屋敷・サロン(12時半)
;■ 雪村陣(私服
;■ 御蔵姫子(メイド服
;■ ピリッタ・マキネン(制服
;■ 黒崎今日香(制服
;■ 黒崎明日香(制服
;■ 比良坂小夜(制服
;
;■同背景だが区切りのために一応。
;
壁の柱時計が正午を知らせると、ピリが用意したサンドイッチが運びこまれて昼食になった。

1時までは、外の学校でいうところの昼休みらしい。

俺の伝えた話を肴にして、屋敷の少女たちはサンドイッチを手にしながら和気あいあいと雑談を続けている。

逆に俺は、朝の9時から話の中心にいた反動か、ひとりで黙々と食事をとり終えてしまった。

【 陣 】「まあ、女子の食事は遅いしな」

【姫 子】「いい雰囲気でしたね」

授業の間はひっそりと様子を観察していた姫子が、俺を褒めるように声をかけてくれる。

【 陣 】「こんなんでいいのか?」

一応でも雇い主である彼女に、お伺いを立てる。

;■笑顔
【姫 子】「もちろん改善していく点は多々あるでしょうが、そもそも教師役は副次的なものですからね。私の求めているものと大きなズレはありません」

【 陣 】「姫子の求めているものって?」

【姫 子】「ふむ」

;■考えこみ
【姫 子】「人間の言葉で言うなら『ありのままに』、というのが――いえ、これは少しニュアンスが違いますね」

【姫 子】「『人が人らしくある』こと?」

;■にっこり
【姫 子】「『可能性の成長』が一番的確かもしれません」

【 陣 】「いや……どんどん分かりづらくなってないか、それ?」

哲学すぎて理解できない。

【 陣 】「まあ、悪くなかったのならいいけど。このペースじゃ、あと1日か2日で俺が話すネタなんてなくなるぞ?」

【姫 子】「明日香の言った通り、本質的に必要なものは『情報』ではなく、陣くんの『感性』であれば、話はどんなものでも問題ないでしょう」

【 陣 】「適当だな」

そう言いながら、サロンを出て行くことにする。

【姫 子】「どちらへ?」

【 陣 】「ちょっとその辺を歩いてくるよ」

昨日からひとりの時間をとれず、明るいうちに屋敷の中や裏手がどうなっているのかを見ておきたかった。

【姫 子】「それでは、最後にひとつだけ」

【 陣 】「なんだ?」

【姫 子】「これまでに、あなたは彼女たちの基本的な性格などを知ったと思いますが、ひとりだけ意識から外されている子がいますよ」

【 陣 】「は?」

【姫 子】「少し考えればわかります」

【姫 子】「それでは、私もそろそろ食事にしましょう」

【 陣 】「サンドイッチを真っ先に食べてなかったか?」

【姫 子】「あれは前菜です。メインディッシュはキッチンにいます」

唐突に、宣戦布告文章を読み上げるような真剣さで姫子が宣言し、彼女は俺よりも先にサロンを出て行ってしまった。

意識から外されてる?

つい、部屋に残っている小夜、ピリ、明日香と今日香を眺めてしまう。

別に無視している子なんていないはず……

……いや、そうか。

今日香だ。

明日香の影に隠れていたり、無邪気すぎて裏表もないだろうと感じていたが――

そうやって、昨日から今日香個人のことをまったく意識していなかった。

“双子のひとり”ではなく、今日香という少女は、どんな子なのだろう?

姫子が指摘しなければ、それこそ疑問にも思わなかっただろう。

よく考えれば、先ほどの授業中、今日香だけは途中から一切口を閉ざしていたではないか。

……これはどういうことだ?

【小 夜】「どうしたの?」

俺の視線に気づいた小夜が声をかけてくる。

【 陣 】「ああ、いや……ちょっとそのへんを散歩してくる」

【小 夜】「案内しようか?」

【 陣 】「まだ小夜は食事中だろ」

そこで、都合のよいことに、今日香が他の3人よりも早く食べ終わっていることに気づく。

【 陣 】「今日香」

【今日香】「なーに、せんせ?」

【 陣 】「食べ終わってるなら今日香が案内してくれるか?」

【今日香】「ん」

今日香が思案するように指をくわえて、妹である明日香のほうへ目をやる。

;■少し考えながら
【明日香】「……行ってきなさい。明日香も食べ終わったら行くから」

;■にっこり
【今日香】「わかった」

【明日香】「……気をつけるのよ」

【今日香】「うん。気をつける」

明日香は嬉しそうにうなずくと、スキップするように俺の前にやってくる。

;■えへへ
【今日香】「明日香ちゃんが行ってきなさいって、せんせー♪」

【 陣 】「ああ、頼むよ」

こうして見ると、なんの裏もないように思えるが、一度気になってしまったので注意しておこう。

俺は今日香のためにサロンの扉を開いてあげた。


;■屋敷・廊下(右翼)(12時半)
;■ 雪村陣(私服
;■ 黒崎今日香(制服
;
;■にこにこ
【今日香】「せんせー、どこに行きたいの?」

【 陣 】「そうだな。本当はドームをぐるっと周ってみたいけど、1時までそんなに時間はないな」

外は後回しにして、屋内の見ていないところを回ろう。

【 陣 】「2階ってみんなの部屋があるんだろうけど、俺が上がったらまずいかな?」

今日香に話しかけるときは、どうも子どもに話しかけるようになってしまう。

【今日香】「え? どうだろ?」

【 陣 】「今までにそういう決まりってあった?」

【今日香】「ううん。そんなのなかったよ」

【 陣 】「まあ、誰かの部屋に入りたいってわけじゃないし、気にしすぎか」

【今日香】「じゃあ、上だね」

ふいに、右手があたたかいものに包まれ、身体が引っ張られた。

今日香の小さな手が、俺の手を握っている。

子どものようではあるが――実際は同年代の少女と手をつなぐというのは、猛烈に照れくさい。

【 陣 】「……まあ、悪い気分じゃないからいいか」

【今日香】「どうしたの?」

【 陣 】「なんでもない」


;■屋敷・玄関ホール(12時半)
;■ 雪村陣(私服
;■ 黒崎今日香(制服
;
【今日香】「でも、せんせーは、やっぱり大きいねー」

ホールに出たところで、今日香が俺の手を強く握りながら、感心するように言う。

【 陣 】「今日香の手は柔らかいけどな」

【今日香】「あー、せんせーは硬いね。うん。硬い硬い」

【 陣 】「階段をのぼるから、余所見してると危ないよ」

【今日香】「うん」

注意はしたが、やはり、ふらふらとしている。

手をつないでいるとよくわかるが、今日香はとにかくまっすぐ歩けないようだ。

それでもバランス感覚がいいのか、よろけたり躓{つまず}いたりすることはない。

明日香と違って運動神経はよさそうだ――と、ひとつ今日香のことを知る。


;■屋敷・2階廊下(12時半)
;■ 雪村陣(私服
;■ 黒崎今日香(制服
;
ホールの脇からゆるやかな曲線を描く階段をのぼり、2階にあがる。

部屋には入れないので、目的もなく廊下を進む。

左右の端までを行き来してみたが、雰囲気は1階とほぼ変わらないらしい。

しかし、いい加減に見慣れたので驚くことはないが、本当に映画やドラマのセットみたいな屋敷だ。

【 陣 】「2階には部屋はどのくらいあるんだ?」

【今日香】「8つ」

【 陣 】「俺以外に5人だから、半分くらい空き部屋なのか――というか、この広さで8室か」

俺の部屋が特別豪華なのかと思っていたが、どうやらどこも変わらないらしい。

いや、こういう屋敷の2階は来客用だろうから、こちらのほうが造りがいいのかもしれない。

;■にっこり
【今日香】「今日香と明日香ちゃんは同じ部屋だよ」

【 陣 】「せっかく部屋が余ってるんだし、別でもいいんじゃないか?」

何気なさを装って口にしたが、これは半分、カマをかけていた。

仲の良い姉妹で相部屋というのは特に問題のあることではないだろうが――今日香がどう反応するか気になった。

;■普通に
【今日香】「今日香は明日香ちゃんと同じ部屋がいい」

【 陣 】「そっか。やっぱり家族だもんな」

【今日香】「せんせーも、お父さんもお母さんがいないんだよね」

【 陣 】「ああ。でも、妹ならいるよ」

【今日香】「そうなの?」

自分にも妹がいるからか、今日香が大げさに食いついてくる。

;■にっこり
【今日香】「明日香ちゃんみたいな子?」

【 陣 】「いや、明日香とは正反対」

妹と明日香が顔を合わせたら喧嘩になりそうだと、思わず笑ってしまう。

【 陣 】「この屋敷の中なら小夜が一番近いと思うけど、それともちょっと違うんだよな」

【今日香】「どんな感じ?」

【 陣 】「本人に言うと怒るけど、直情というか猪突猛進って感じ」

【今日香】「いのしし?」

【 陣 】「中身はちゃんと女の子だから、ハムスターとか子犬かな」

【今日香】「そっか。会いたいねぇ♪」

【 陣 】「今日香や明日香がこの屋敷を出たら、かな」

そう言ってから、彼女たちはこの屋敷を出ることが出来るのだろうかと考えてしまう。

全員が自主的にここにいると言っていたが――それは本当なのだろうか?

【 陣 】「なあ、今日香はここにずっといてもいいのか?」

【今日香】「明日香ちゃんがいるなら、今日香もここにいるよ」

【 陣 】「じゃあ、明日香が出るなら出てもいいんだ」

【今日香】「うん。明日香ちゃんが出るなら、今日香も出るよ」

ふいに、今日香の話し方に違和感を覚えた。

やはり依存、か?

そこで、あの授業中に今日香が口を閉ざしていた理由がわかった気がした。

【 陣 】「なあ、今日香」

【今日香】「なあに、せんせー?」

【 陣 】「さっきの勉強の時間に黙ってたのって、なんでだ?」

;■微笑み
【今日香】「えーとね、明日香ちゃんが『しばらく黙ってなさい』って言ったから」

それが自然なことだというように今日香が答えた。

【 陣 】「今日香、それは――」

【今日香】「あ、明日香ちゃんだ」

ふいっと窓のほうに目をやった今日香が、嬉しそうに声をあげた。

つられて視線を向けると、確かに窓の外――ドームの草原を明日香が歩いている。

彼女はきょろきょろと辺りを見渡し、首をかしげると、重そうな足取りで屋敷の裏手に回ってしまった。

【今日香】「あー、明日香ちゃん、せんせーと今日香がお外にいると思ってるんだね」

【 陣 】「こういうとき、携帯があれば呼び止められるんだけどな」

いつもの癖で、使い道のない携帯をポケットから出してしまっていた。

【今日香】「呼んでこなきゃ」

【 陣 】「ああ、そろそろ1時になるか」

今日香の依存しきった言動は気になったが、今すぐになにかという話ではないし、明日香を交えて今夜こそ話をすればいいだろう。

それより明日香を迎えに行くべきだと、1階に戻ろうとしたところで――

今日香が窓を開けた。

もう届きそうにないが、声でもかけるのだろうか。

【今日香】「あ、せんせー、窓閉めておいてね」

【 陣 】「窓? 自分で閉めればいいだろ?」

【今日香】「自分じゃできないから」

【 陣 】「ん? なんで?」

【今日香】「今日香はここからいなくなるからだよ?」

俺のほうがおかしなことを言ったというように答えて――

今日香は窓枠に手をつき、そのまま、身軽な動きで窓の向こうに身を投げだした。

【 陣 】「っ……おい!?」

背筋に寒気を覚えながら窓に駆け寄る。

【今日香】「明日香ちゃーん」

何事もなかったかのような明るい声が聞こえてすぐ、今日香の姿は見える範囲から消えてしまった。

【 陣 】「…………」

【 陣 】「……飛び降り、た?」

信じられなかったが、目の前で起こった事実だ。

屋敷の2階――普通の建物より1階が高い分、地上までは5、6メートルくらいあるだろうか。

確かに、高所恐怖症でもなければ目をくらますような高さではないし、地面は草土だから絶対に怪我をするとか死ぬような高さでもない。

それでも、飛び降りれるかどうかは別だ。

【 陣 】「……なんだ、あの子は?」

………………

…………

……


;■屋敷・サロン(15時)
;■ 雪村陣(私服
;■ 御蔵姫子(メイド服
;■ ピリッタ・マキネン(制服
;■ 黒崎今日香(制服
;■ 黒崎明日香(制服
;■ 比良坂小夜(制服
;
今日香と明日香がサロンに戻ってきたのは午後の授業の直前で、声をかけることが出来なかった。

俺の話すネタが尽きたため、午後は最初に説明された通り、各自が自分の学力に合わせた教科書を手に自習をしている。

静か過ぎて迂闊に声をあげられない。

意外にも、全員が真面目に勉強していた。

手持ち無沙汰だったので、俺は3時までの2時間を、図書室から持ってきた本を読んで過ごした。

そして――

【姫 子】「お腹がすきました」

姫子の妙なつぶやきを合図に、全員が「3時か」と手を止めた。

【姫 子】「皆さん、オヤツにいたしましょう♪」

【ピ リ】「姫子さん、さっきご飯を食べたばかりですよ?」

【姫 子】「あれは昼食用の胃を満たしたに過ぎず、今はオヤツ用の胃が空腹を訴えているのです」

;■ぼそりと、きょとん
【明日香】「……牛?」

;■軽い不満
【ピ リ】「むー。そんなに食べて、よく太らないですよね」

【姫 子】「人間はそういうところが不便ですね」

;■くすくす
【小 夜】「そのうち、他の子たちからの憎しみで殺されるわよ」

活気の戻ってきたサロンの空気に、ほっと息をつく。

【 陣 】「……ようやく喋れるな」

【小 夜】「ん? 陣くん、なんか緊張するようなことあった?」

【 陣 】「いや、みんな、意外と真面目に勉強してるんだな。もっと適当にやってるのかと思ってた」

;■微笑み
【小 夜】「やることないし、勉強も暇つぶしにはちょうどいいって言ったでしょ」

【小 夜】「遊びだから真剣にやってるだけ」

【 陣 】「なるほど」

;■疲れた、ため息
【明日香】「……明日香は別に楽しくないし、疲れた」

;■笑顔
【ピ リ】「疲れた頭には甘いものです。オヤツを準備しますので、ちょっと待っててください」

【明日香】「……なんだか、姫子と同じように扱われてる気がする」

最後の明日香のぼやきは、そばにいる俺だけに聞こえたものだった。

【小 夜】「あ、ピリさん、お茶をいれるなら手伝うよ」

【ピ リ】「お願いしました」

【姫 子】「飢え死にしそうです」

食い意地のはった姫子も2人のあとを追っていったので、サロンに残ったのは明日香と今日香の双子だけだった。

【明日香】「……で、陣はなんの用?」

【 陣 】「よくわかったな」

【明日香】「……午後に入ってから、ずっと、ちらちらこっちを見てたでしょ」

【 陣 】「明日香じゃなくて、用があるのは今日香なんだけど」

;■いぶかしみ
【明日香】「……今日香?」

【今日香】「ん?」

妹に名前を呼ばれたことで、当人が顔をあげる。

【今日香】「どうしたの明日香ちゃん?」

;■怪訝
【明日香】「……今日香、陣と2人きりのときに、なにか変なことした?」

【今日香】「ううん。ちゃんとなにもしてないよ」

【 陣 】「いや、足とか、大丈夫か?」

【今日香】「足?」

【 陣 】「2階の窓から飛び降りただろ」

【今日香】「あんなのぜんぜん平気だよ♪」

【 陣 】「平気なのか?」

いまだに信じられない。

見ると、明日香も俺と同じような顔で呆れていた。

【明日香】「……2階から飛び降りた? 今日香がそんなことしたの?」

【 陣 】「むしろ、あんなこといつもしてるのか?」

【明日香】「……思い当たる節はあるけど、窓からの飛び降りは初めて」

【明日香】「……今日香、ちゃんとしてないじゃない」

【今日香】「え? 今日香は、ちゃんといつもよりバカみたいにしてたよ?」

;■ため息
【明日香】「……窓から飛び降りるなんてバカそのものだけど、融通ってものがあるでしょ」

【 陣 】「おい待て」

その言い方では、まるで今日香が演技をしているかのような……

【明日香】「……陣、今日香の話をするなら散歩に行きましょ」

扉のほうを気にしながら明日香が言う。

【 陣 】「みんなの前じゃ話せないのか?」

【明日香】「……オヤツと今日香の秘密、どっちが大事?」

【 陣 】「わかったよ」

さすがに、その2つは比べられない。

【今日香】「なんの話?」

話の中心であるはずの今日香だけが、不思議そうな顔をしていた。



;■屋敷・ドーム内草原(15時半)
;■ 雪村陣(私服
;■ 黒崎今日香(制服
;■ 黒崎明日香(制服
;
双子と一緒にドーム内の草原をぶらつく。

いい天気だ。

それが例え空調だとしても、春めいた陽気と風は心地よかった。

【 陣 】「ここは春なんだな」

作り物の青空を見上げながらつぶやくと、明日香がつられて遠い目をする。

【明日香】「……ああ、そういえば“外”には季節があるんだ」

【 陣 】「忘れてたのか?」

【明日香】「……別に忘れてはいないけど、ここに来てから季節なんて意識してなかった」

【明日香】「……今は12月だから、冬ね」

【 陣 】「昨日は雪が降ってたよ」

;■微笑み
【明日香】「……うん。雪は好き」

;■笑顔
【今日香】「今日香は夏が好き!」

;■くすくす
【明日香】「……夏はお化けが出るわよ」

【今日香】「わ、あ! お化けなんていないよ!」

【 陣 】「なんだ? 今日香はお化けが嫌いなのか?」

【今日香】「お化けなんていないもん!」

【明日香】「……仲がいい」

【 陣 】「そんなことより、もういいだろ」

屋敷からはだいぶ離れた。

位置を測定するセンサーはあるものの、盗聴器の類はないはずだ。ここなら誰にも話を聞かれることはない。

【明日香】「……そうね」

【明日香】「……陣は、今日香に優しいし、昨日の夜、明日香になにもしなかった」

【明日香】「……なにかをするそ{・}ぶ{・}り{・}もなかったのは、ちょっとどうかと思うけど」

【 陣 】「な、なんだよ急に」

【明日香】「……少しだけ信用してあげるってこと」

珍しく明日香が笑った。

【今日香】「せんせーは女の子に興味ないの?」

べったりと俺の腕にはりつき、今日香が見上げてくる。

【 陣 】「やめろ、それは誤解だ」

小夜もそうだが、どうもこの子たちの恋愛観と男への警戒心はズレてるな。

まあ、思春期をこんなところで過ごしていれば歪みもするか。

【明日香】「……今日香、TPPってなんだかわかる?」

【今日香】「ん、うーん……せんせーの前で言っちゃっていいの?」

【明日香】「……今はいい」

【今日香】「TPPはトランス・パシフィック・パートナーシップ。環太平洋戦略的経済連携協定だね」

突然あがった声が、一瞬、誰のものかわからなかった。

【 陣 】「……今のは、今日香か?」

【今日香】「そうだよ」

今日香は笑顔でうなずいてから、俺の反応に「あれ?」と首をかしげながら指をくわえた。

【今日香】「2006年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドが結んだ経済連携協定のことでしょ?」

それが正解なのかと聞かれているのだろうが、わからない。

【 陣 】「……午後の自習のときに調べたのか?」

【今日香】「ううん。今日香は最初から知ってたよ。せんせーに教わった日本とかアメリカが参加してないときの話だけど」

2006年の知識なら、この屋敷に来る前の話か……。

【 陣 】「もしかして、今日香は天才ってやつなのか?」

【明日香】「……天才とは、ちょっと違う」

【明日香】「……今日香は壊れてるの」

【明日香】「…………」

【明日香】「……わかりづらい?」

ピンときていない俺の反応に、明日香が子どもっぽく首をかしげる。

【 陣 】「いまいち」

【明日香】「……今日香、昨日、先生のお部屋に行ったときに話したことを、最初のほうだけでいいから繰り返してみなさい」

;■ごく普通に
【今日香】「『あ、せんせー』『今日香?』『ピーちゃんと姫子ちゃんは?』『2人とももう出て行ったけど。どっちかに用事だったのか?』『ううん。あのね。明日香ちゃんがせんせーとお話をして――』」

【明日香】「……そこまででいい」

明日香の言葉で、ピタリと今日香の声が止まる。

【明日香】「……こんな感じ」

;■笑顔、どやっ
【今日香】「ね、せんせー、あってるよね?」

【 陣 】「…………」

そんな話をしていたような気はするが、わけがわからず、すぐには声が出なかった。

【明日香】「……今日香はどんなことでも覚えてる」

【 陣 】「いや、待て、なんだ? 2階から飛び降りたこととか、記憶力がいいとか、どういうことの説明なんだこれ?」

【明日香】「……ああ」

【明日香】「…………」

;■可愛く、しゅん。演技
【明日香】「……明日香は話が上手くないの、ごめんね」

【 陣 】「いや、ここまできて、その言い訳はどうなんだ? 可愛く言えばなんでも許されるわけじゃないからな?」

さすがにツッコミをいれてしまう。

【今日香】「2人とも今日香のことお話してるの?」

自分のことだと言うのに、ぼーっと聞いているだけだった今日香が、指をくわえながら言う。

まるで動じていない。

【今日香】「ねえ、明日香ちゃん。今日香のことをせんせーに教えちゃっていいんだよね?」

;■ため息
【明日香】「……そうね、任せる」

自分には向いていないと諦めたのか、明日香がため息をつきながら場を譲った。

【今日香】「せんせーが最初に気にしてたのは、今日香が飛び降りたことだよね」

【 陣 】「ああ」

【今日香】「今日香は他の子と比べて運動神経がいいのもあるけど、もっと単純に、あのくらいの高さなら大丈夫だってわ{・}か{・}っ{・}て{・}た{・}だけ」

【 陣 】「わかってた、っていうのは、どういうことだ?」

【今日香】「うーん、例えば、せんせーが1メートルの高さから飛び降りるとき、あんまり注意しないよね?」

【 陣 】「それくらいなら」

【今日香】「じゃあ、2メートルは?」

【 陣 】「2メートルか……」

つまり、自分の背よりも高い場所。

【 陣 】「まあ、ちょっと気をつければ平気だな」

【今日香】「3メートルは?」

【 陣 】「それは……飛び降りれなくはないだろうけど、必要がないならやめておきたい」

【今日香】「つまり、せんせーは2メートルは安全だけど、3メートルは危ないなって思うんだよね」

【 陣 】「ああ、なるほど」

今日香の言わんとしていることを理解した。

【 陣 】「俺の『ちょっと気をつければいいや』って2メートルと、今日香の5、6メートルが同じ感覚なのか」

;■にっこり
【今日香】「そうそう」

今日香が、へにゃっと笑う。

『できるから、やった』

聞けば単純な話だが――話し方も雰囲気もいつも通りなのに、今日香の説明は本当に要領を得ている。

【今日香】「でもね、勉強も運動も出来すぎると嫌われるし、周りを油断させておくほうがいいからって、明日香ちゃんに『バカみたいにしてなさい』って言われてるの」

【今日香】「特に昨日からは、せんせーが来たから『いつもより注意しなさい』って」

自慢にしか聞こえない内容だが、あまりにも他人事すぎて薄ら寒いほどだった。

能ある鷹は爪を隠す――というより、これは擬態か。

【明日香】「……一応だけど、演技って言っても、今日香の性格はこのまま」

【 陣 】「ああ、これは素なんだ」

それは少しだけ安心した。

【 陣 】「それで、これのなにが問題なんだ?」

話の通りなら、今日香の学力と運動能力は、明日香の否定した天才そのものだ。

だが、なにが壊れているんだ?

【明日香】「……陣」

考えこんでいた俺に、明日香が真剣な様子でつぶやいた。

【明日香】「……今日香の頭がいいこととかは隠してるけど、それはバレてもいい秘密なの。本当の問題はそこじゃないの」

【明日香】「……これから話すことは、みんなには内緒にしてね。絶対」

あまりにも必死な――そう感じさせないように振舞っているが、にじみ出る雰囲気だけでも懇願するような言葉だった。

【明日香】「……今日香には自分の意思なんてないの」

【明日香】「……依存してるって思われてるだろうけど、もっと壊れてて、本当に誰かに言われたことしかできない」

【明日香】「……生きてる人形でしかないの」

【 陣 】「え?」

すぐには、その意味がわからなかった。

だが、一瞬の後、背筋に寒気が走る。

春の陽気に設定されているはずのドームの中で、ぞっとした。

【明日香】「……誰かが『しゃべるな』と言えばずっと黙ってるし、『靴を舐めろ』と言えば本当にそうする」

【明日香】「……『死ね』と命じれば、今日香はなんの躊躇いもなく自殺するでしょうね」

【明日香】「……そうよね、今日香」

;■ごく普通に、笑顔
【今日香】「うん。明日香ちゃんが今日香は死んじゃったほうがいいなら、そうするよ」

【明日香】「……今のは確認しただけ。やめなさい」

【今日香】「わかった」

明日香は冗談を言っている雰囲気ではないし、今日香はいつも通りの顔をしていた。

【 陣 】「今日香は……そんなんでいいのか?」

【今日香】「え、なにが?」

【 陣 】「いや、だから、人の言うことだけ聞いてていいのか……?」

【今日香】「うん」

今日香は屈託なくうなずく。

;■笑顔
【今日香】「だって、今日香、わ{・}か{・}ら{・}な{・}い{・}もん」

【 陣 】「…………」

【明日香】「……今日香がこれほど可愛くて有能じゃなければ、まだマシだったのにね」

明日香が皮肉げに笑う。

他人に言われたままに、なんでもしてしまうお人形。

ゲスな想像だとわかっていても、今日香に性的な命令をするイメージを無意識に浮かべてしまう。

いや、だからこそか。

初日に俺の部屋に今日香を寄越したのは、まだ俺が遠慮している間に――絶対に手を出さないうちに、今日香を近寄らせてもよい相手か測っていたのか。

そうでなくても、今日香がこれだけ優秀ならば、使いようはいくらでもある。

【 陣 】「明日香……なんで俺に今日香のことを話した?」

気がつくと、口元を手で押さえながら明日香を睨んでいた。

明日香の言うとおり、これは良い悪いという話ではなく、なるべく他人には秘密にしておくべきことだ。

だからこそ、屋敷の他の住人ではなく、昨日会ったばかりの男である俺に打ち明けた意味がわからなかった。

【 陣 】「自分が悪い人間だとは言わないが、俺は聖人君子でもねえぞ?」

思わず威嚇するような言い方になってしまう。

;■自嘲
【明日香】「……明日香は悪い子よ」

明日香が自嘲気味に笑った。

【明日香】「……陣に、味方になって欲しいだけ」

【 陣 】「信用できるほどお互いのことを知らないだろ。そもそも、俺が世話役を続けるかもわからないんだぞ?」

【明日香】「……信用は買える」

【明日香】「……それに、あの屋敷じゃ選べるほど味方になりえる人はいない。陣にはこれからも世話役をして欲しいから教えたの」

【今日香】「手札を伏せすぎると交渉に不利だからだね」

そこで、気づいた。

信用は買える――それはつまり、今日香の秘密を売ったということか。

【明日香】「……明日香がいるうちは大丈夫。最優先で『明日香以外の命令は可能な限り聞き流せ』って言ってあるから」

【 陣 】「可能な限り?」

【明日香】「……逐一なにをするのか聞きにこられるのも面倒だし」

【 陣 】「確かに悪人だ」

思わずぼやいてしまう。

ふざけるな、と言わなかっただけ、まだ冷静か。

【明日香】「……そろそろ戻らないと、さすがにあやしまれるかな」

話が済んだのか、明日香が屋敷のほうに目をやる。

【今日香】「ねえ、明日香ちゃん。今日香はせんせーの言うことも聞く?」

;■流し目
【明日香】「……そうね、陣はどうしたい?」

【 陣 】「やめておく」

こんなことで理性を試されても面白くない。

;■くすり
【明日香】「……もったいない」

【明日香】「……今日香、先生に秘密を教える時間は終わり。いつも通りに『バカみたいにしてなさい』」

【今日香】「うん」

【明日香】「……あと、もし明日香がいなくなったら陣を頼りなさい」

【今日香】「うん、わかった」

ぴたっと、今日香が俺の腕にはりついてきた。

【今日香】「だって、せんせー♪」

今日香が満面の笑みを浮かべる。

この無垢な少女に、一体なにが詰まっているのかと考えてしまう。

いや……なにも詰まっていないのか。

【 陣 】「……俺の出番がないことを祈っておくよ。明日香と今日香はずっと一緒だろ」

【今日香】「あはは、そうだね♪」

今日香は楽しそうに笑うと、俺の腕を軸に、くるりと回転して、そのまま屋敷のほうに走っていく。

【明日香】「……陣」

【 陣 】「どうした?」

今日香のあとを追おうとした俺を、明日香が呼び止める。

;■すまなそうに
【明日香】「……その、明日香は謝らないから」

なにに対しての謝罪だろうと思ったが、おそらく、明日香自身もよくわかっていないだろう。

困りきったその顔は、ほとんど「ごめんなさい」と言っているのと同じようなものだった。

俺はニヤリと笑ってしまう。

【 陣 】「そういうときは、『ありがとう』って言っておけばいいんだよ。そう言われてイヤな気分になるやつはいないだろ」

【明日香】「……覚えておく」

【 陣 】「やり方はともかく、結果的に、明日香は今日香を守ってるんだしな」

【明日香】「……べ、別にそんなんじゃない」

明日香が照れたように早足になるが、すぐに歩調が遅くなり、俺に追いつかれてしまう。

わずかな距離でも、明日香は息を乱していた。

【明日香】「……こんな遠くまで、来なきゃ、よかった」

【 陣 】「明日香のほうは、本当に体力ないな」

可愛いものだと笑ってしまう。

【明日香】「……むぅ」

じっと睨まれたが、それすらも可愛らしい。

そんな妹に比べて、今日香は俺たちの前を元気いっぱいに走りまわり、ふいに立ち止まっては、こちらを待ってくれていた。

【 陣 】「ほら」

俺は明日香に手をさしだす。

他意は――まあ、あるようなないような感じだが、ひとりで歩くのもつらそうだ。

;■照れ、ぼそりと
【明日香】「……ありがとう」

明日香は少しだけ戸惑ったが、素直に俺の手をとった。

今日香とは違い、体温の低い手だ。

俺たちは手を繋ぎながら、のんびりと春の草原を歩く。

【明日香】「……時々、今日香が憎くなる」

ぽつりと、明日香が暗い声をもらした。

【明日香】「……考えすぎだってわかってるけど、双子だから、どうしても考えちゃうの」

【明日香】「……明日香には、なにもない」

【明日香】「……あの子が、明日香の分まで、頭のよさとか体力とか愛想のよさをもって生まれてきたんだって」

けほけほ、と明日香が小さく咳きこむ。

そして皮肉げに笑った。

【明日香】「……きっと、明日香と今日香は、元はひとりの完璧な人間だったのよ」

【 陣 】「…………」

俺はなにもフォローできなかった。

明日香も返事が欲しくて口にしたことではないのだろう。

一方的に今日香が明日香に『依存』していると思っていたが、そうではなかった。

この双子は、利害関係の一致した『共生関係』にあるのだ。

………………

…………

……


;■屋敷・外観(16時)
;■ 雪村陣(私服
;■ ピリッタ・マキネン(制服
;■ 黒崎今日香(制服
;■ 黒崎明日香(制服
;
;■むっ、可愛く軽い怒り
【ピ リ】「というか、陣くん、オヤツのあとはお掃除とお洗濯なのに、どこに行きましたか!?」

【 陣 】「あ、そうだった」

屋敷の前で小さく仁王立ちしていたピリを目にして、そういえばと予定を思い出す。

ピリも本気で怒っているわけではないだろうが、仕事として請け負っているのだから反省しよう。

【 陣 】「悪い、忘れてた。気をつける」

【ピ リ】「まったく。オヤツも姫子さんが食べてしまいましたですよ?」

【今日香】「えー、今日香のも?」

;■えっへん
【ピ リ】「今日香ちゃんと明日香ちゃんの分は守り抜きました」

俺だけオヤツ抜きか。

【明日香】「……じゃあ、明日香と今日香は行く」

【今日香】「ピーちゃん、せんせー、がんばってねー♪」

双子が相変わらず落差の大きいテンションで去っていく。

【 陣 】「それじゃあなにをする?」

【ピ リ】「あー、お洗濯は昨日してしまいましたのでまた明日です。今日はお掃除だけですね」

【 陣 】「了解」

それにしても、重い話を聞いたばかりだから、ピリの存在はありがたいくらいに軽い。

彼女のいない頃の屋敷というのはおそろしく静かだったのだろうと、容易に想像できた。



;■屋敷・玄関ホール(16時)
;■ 雪村陣(私服
;■ ピリッタ・マキネン(制服
;■ 御蔵姫子(メイド服
;
ピリと一緒に屋敷のホールまで戻る。

【 陣 】「さて、掃除か」

俺が担当するのは、なるべく力仕事になる部分がいいだろう。

屋敷の各所のことを思い浮かべ、俺は一番面倒な場所に思い当たった。

【 陣 】「分担なら、俺はあの温泉の掃除でもするか?」

露天風呂の掃除などしたこともないが、お湯を抜いてブラシをかけてと、考えるだけでも女の子にとっては重労働だ。

【ピ リ】「あ、お風呂とホールだけは大変だからと、姫子さんが掃除してくれてます」

【 陣 】「……姫子が、掃除なんてするのか?」

思わず真顔で聞き返してしまう。

メイドが掃除をしていることに驚くというのもよくわからないが、とにかく驚いた。

;■苦笑
【ピ リ】「姫子さんのは掃除という感じではないですね」

【 陣 】「なんだそれ?」

【ピ リ】「神様の力で、こう、見渡すだけで汚れの元になるものを消してしまえるんだそうです」

【 陣 】「……あれが神様っぽいことをしてるのって、話でも初めてだな」

;■普通に
【姫 子】「皮脂や落ち葉などの自然物であれば私の範疇ですから分解・再構築できますよ。プラスチックや鋼は無理ですがね」

【 陣 】「どこから出てきた?」

;■笑顔
【姫 子】「噂をすればなんとやら」

ひょっこりと隣にいた姫子が、素敵な笑顔を浮かべる。

;■うんうん
【ピ リ】「火のないところは燃やせ、というやつでございますね」

【 陣 】「犯罪だからやめろ」

自分で口にしていて、よくピリは疑問に思わないな。

【 陣 】「それより、風呂場じゃなければ俺はどうする?」

【ピ リ】「どうしましょうか?」

【姫 子】「あの、威勢良く登場した私を無視されるのですか? ついでに、燃やせという言葉を耳にすると焼き芋がしたくなりませんか?」

【 陣 】「……無視したくなる話だな」

これで館の主なのだから、無視もできないというのが面倒だ。

【 陣 】「せっかくだし姫子も掃除するか?」

【姫 子】「まっぴらごめんです」

【姫 子】「そしてピリ、陣くんは場合によっては明日までしか滞在できないかもしれませんし、手伝ってもらう場所は選んだほうがいいですよ」

【ピ リ】「あー、そういえばそうでしたね」

【 陣 】「まあ、なにもなければこの仕事を続けたいけどな」

可能性という話なら、俺が自主的に辞めるより、誰かの地雷でも踏んで拒否されるほうが高いだろう。

【ピ リ】「おお! わたしは思いつきました! 天才です!」

【 陣 】「ろくでもなさそうだが、どこだ?」

;■にっこり
【ピ リ】「高いところを掃除しましょう」

【 陣 】「あ、本当に考えたな」

確かに、ピリの背では手の届かない場所を重点的にやってしまうのは、ありかもしれない。

【ピ リ】「このお屋敷、天井が高くて、明かりとかに手が届きませんことですよ」

【 陣 】「脚立かハシゴが必要だろうけど――」

ピリの身長だと、それでも厳しいだろう。

;■笑顔
【ピ リ】「それじゃあ、一番みんなの使ってるサロンの明かりからいきましょう」



;■屋敷・サロン(16時)
;■ 雪村陣(私服
;■ 御蔵姫子(メイド服
;■ ピリッタ・マキネン(制服
;■ 黒崎今日香(制服
;■ 黒崎明日香(制服
;
サロンに向かうと、今日香と明日香がのんびりしているところだった。

【今日香】「あれ、たくさん来た」

;■真剣
【姫 子】「明日香ちゃん、オヤツわけてください」

【明日香】「……お断りよ」

姫子の魔の手を恐れたのか、明日香が手元の皿に乗っていたクッキーを慌てて口に放りこむ。

リスのようだ――というか、キャラぶれ過ぎだろう。

【姫 子】「じゃあ、今日香ちゃん、オヤツわけてください」

【今日香】「ん、1個だけならいいよ」

【明日香】「……はぁ」

姫子はぶれないな。

【ピ リ】「ちょっと2人とも、天井のお掃除しますのでテーブルから離れてもらっていいですか?」

【明日香】「……今日香、離れるわよ」

【今日香】「はーい」

姫子と今日香と明日香が、揃って部屋の中央をあける。

【 陣 】「で」

ピリと並んで天井を見上げる。

;■一応、描写は後で背景合わせ。
サロンの天井には、小型のシャンデリアが吊るされている。

【 陣 】「そういえば、シャンデリアって普通はどうやって掃除するんだ?」

【姫 子】「本格的にやるなら、天井や壁から取り外して、分解したものを専用の洗剤に浸けるんですよ」

【 陣 】「そうなのか」

【姫 子】「素人にやれることではないですけどね」

【ピ リ】「とりあえず、埃を落とせればよいことでしょう」

俺は掃除用具入れから持ってきたハタキと雑巾に視線をおろす。

天井までの高さ-(俺の身長+手の長さ+ハタキの長さ)

【 陣 】「うーん。ハタキを使っても、これは俺でも届かないな」

足場に椅子を使ってギリギリかもしれないが、繊細そうなシャンデリアが相手では、ギリギリというのはちょっと怖い。

;■ぼんやりと
【ピ リ】「思ったよりも高いことですね」

【 陣 】「脚立は?」

【ピ リ】「ハシゴなら倉庫にありましたですよ?」

【 陣 】「部屋の真ん中じゃ、立てかける場所がないし危ないな。脚立を守屋さんに頼んでおいて、今日は別の場所にしておくか?」

【ピ リ】「うむむ、口寂しいですね」

【明日香】「……口惜しい」

【 陣 】「だな」

;■きょとん
【今日香】「肩車すれば届くと思うよ?」

【 陣 】「ああ、なるほど」

今日香の指摘にうなずく。

;■笑い
【ピ リ】「あっはっは、ご冗談を。さすがのわたしでも、陣くんを抱えるのはできませんことですよ?」

【 陣 】「いや、どう考えたって逆だろう」

さすがのわたしでも、って、なんだ。

;■はっと、真剣
【ピ リ】「おお! 確かに、わたしを陣くんがかざぐるますれば届きそうです!」

【ピ リ】「今日香ちゃん、さてはあなた天才ですな!?」

;■ジト目
【明日香】「……今日香がどうこうじゃなくて、ピリがお馬鹿なだけよ」

;■軽い怒り
【ピ リ】「わたしはお馬鹿ではありません。ちょっとそそっかしいだけです」

【 陣 】「いいからやるぞ」

俺はなるべく首が低くなるように屈みこむ。

【ピ リ】「それでは、失礼します」

ピリが俺の肩を越えるように足を――

【 陣 】「……う」

【ピ リ】「どうしましたか、陣くん? どこか痛かったですか?」

【 陣 】「いや……なんでもない」

視界の間近に映るピリの足が――スカートの裾が俺の頭にひっかかるから当然だろうが、生足だった。

肩車なんて小さい子相手にしかしたことがなかったので、考えていなかった。

【 陣 】「立つぞ」

照れくささを隠すように、俺はピリが安定するのを待って立ち上がる。

念のため立ち上がるのに気合を入れてみたが、予想以上に軽くて、逆に勢いがつきすぎてしまった。

;■最初は軽い驚きとわくわく、後半はわくわくのみ。
【ピ リ】「おお、おおお!」

;■笑いながら
【ピ リ】「高い! 怖い!」

【 陣 】「あんまり暴れて落ちるなよ。それより、届くか?」

【ピ リ】「えーと、あ、いけます」

少しぐらついたが、小柄なピリが相手なので問題なさそうだ。

【ピ リ】「埃が落ちてくることですし、陣くんは目を閉じてるほうがいいかもですよ?」

【 陣 】「あー、うん、まあ」

自分でも笑えるほど歯切れが悪い。

;■ジト目、軽い嫉妬まじりの呆れ
【明日香】「……あれ、意識してるわよね」

;■にこにこ
【今日香】「うん。すごくめくれてるし」

;■真剣
【姫 子】「クッキー1枚とか余計に小腹が空くだけでしたね」

【ピ リ】「う?」

3人(内1人はどうでもいいが)のつぶやきに、ピリが首をかしげる。

【ピ リ】「あ」

さすがに気づいたか。

;■照れ困り
【ピ リ】「じ、陣くん、あまり膝とかももとか見ないでくださいませんか?」

【 陣 】「……無茶言うな。あと、気にしすぎだ」

少し、ぶっきらぼうな物言いになってしまう。

正直、俺も意識しだしてしまった。

今日香や小夜と違い、ピリの反応はあまりにも普通の女の子すぎて、こちらまで照れてしまう。

足の白さは――実は、それはまだいい。

プニプニとしたふとももで挟まれた頬と、後頭部に感じるピリの柔らかさと体温が、とにかくヤバイ。

【ピ リ】「わ、わわ」

【 陣 】「……俺が言うのもなんだが、早く片付けたほうがいいと思うぞ」

【明日香】「……誤魔化してるわよね、あれ」

【今日香】「うん。口元がゆるんですから間違いないよ」

【姫 子】「ちょっと台所へ行ってきます」

;■照れつつ怒り
【ピ リ】「姫子さん、どさくさにまぎれて夕飯の下ごしらえしたものを食べてはなりません!」

【姫 子】「ちっ……気づきましたか」

俺の頭上と地面で、妙なコントが繰り広げられている。

なんだかなー。

【 陣 】「1度おろそうか?」

【ピ リ】「い、いえ、こんなの、す、すぐに終わるのですが……」

どう考えても、言うほどには、はかどっていない。

それが微妙なような、嬉しいような。

いい加減、目だけでも閉じてやろうとしたとき――

【ピ リ】「おお、名案が浮かびました! やはりわたしは天才です!」

ピリの嬉しそうな声とともに、俺の視界が真っ暗になった。

【 陣 】「…………?」

鼻の頭に感じる布地の感触。

妙に生暖かくなった空気と、強くなったピリの匂い。

これは……スカート、か?

【ピ リ】「これで陣くんからはなにも見えません♪」

【 陣 】「…………」

嬉しそうな声に、俺はなにも言わないでおこうと決めた。

多分、外野の3人も黙っているからには、同じことを考えていることだろう。

役得だと感じるよりも先に――ああ、本当にピリはお馬鹿なんだなと、思ってしまった。



「御影新作プレゼンのサンプルシナリオ_01」の5へ続く
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