WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『年の残り』(著者:丸谷 才一)

2013-11-01 17:04:15 | 本と雑誌
年の残り (文春文庫)年の残り (文春文庫)
価格:¥ 520(税込)
発売日:1975-04-25


パリの休暇から帰り、シャワーを浴びて夕方、冷蔵庫の中身を補充しにスーパーマーケットに行く。朝の太陽がまぶしいモンパルナスの石畳を歩いてホテルを出たのが、今朝の記憶のようだけれど、不思議なことにそのあいだには16時間も経過している。一日に昼がまるごと欠落して、朝の次はすとんと夜になった、変な感じ。スーツケースを片付けてトマトジュースを飲みながら、丸谷才一氏の本の続きを読んで、あ、これは時差ぼけに似ていると思う。



若い始まりと、老年の終わりが一直線につながっているところ、友人も友人の妻も、生まれた子供も、そしてまた別の友人が、次々と彼岸に往ってしまう静かな寂しさ。熟したオリーブが大地に感謝しつつ枝から落ちていく自然な死の例え。本当にこの人は日本語というものを知り尽くして、言葉に少しの隙もない、下手な言い回しもセンスに欠ける構造も一つとしてない。そして行間から美しい抒情が漂う、名作である。



名作といえば、パリも素晴らしかったが、発つ前夜にサントリー・ホールで聴いたファジル・サイのラヴェルも魔法みたいに素敵だった。ステージに近い席だったので、太くてしっかりした指が鍵盤を駆け回るのをずっとわくわくしながら見惚れていた。大歓声の中をお辞儀するきらきらした目も、アンコールを弾きに戻ってくるときのちょっと疲れて不機嫌そうな表情との落差も最高。(そういえば、どこかのコンサートで、アンコールに興がのってベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」を一曲まるごと弾いたらしい。いいなぁ)



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