みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

ハケンの反撃<1><2><3><4>中日新聞【暮らし】/『ワーキングプア』『下流社会』

2008-02-22 15:44:53 | ほん/新聞/ニュース
中日新聞は、1月1日に
「反貧困」に希望が見える 年のはじめに考えるという社説を掲載し、
わたしのブログにも紹介しました。

2月10日から「ハケンの反撃」という特集を掲載。
「ユニオン」を立ち上げ、現場でたたたかう人たちが紹介されてて、
すごくおもしろいシリーズで、毎回待ち遠しく読んでいました。

4回とも服部利崇記者が書いていらっしゃるのだけど、
2月17日に終了したので、4回分をまとめて紹介しますね。

【暮らし】ハケンの反撃<1> 広がる連帯の輪 武器はユニオン
中日新聞 2008年2月10日

 二重派遣などの違法派遣や劣悪な労働条件が問題になっている派遣労働者。パートなどを含めた立場の弱い非正規雇用労働者は、全労働者の三割を超える。一方、経営側は安価で使い勝手のいい労働者を求める姿勢を変えていない。「逆風をはねのけるには団結が必要」。“ハケン”の反撃が始まった。 (服部利崇)
 「下着と靴下以外、着ている服は息子のものです」。東京・永田町で行われた格差是正のシンポジウムで、派遣労働者の石神与志治さん(55)は、国会議員や報道陣ら約百五十人を前に窮状を訴えた。石神さんは物流関連派遣会社マイワークの労組(ユニオン)委員長だ。
 静岡県内で経営していた書店を閉め、東京に出てきたのが七年前。「拘束がイヤ」で派遣を選んだ。新宿の生協で週五日、早朝六時から商品の積み降ろしをしているが、年収は二百万円を切る。「ワーキングプアと言われる側に行っちゃった」
 派遣労働者は約三百二十一万人(二〇〇六年度厚生労働省調べ)。一昨年から昨年にかけて、日雇い派遣大手で、個人で加入できるユニオンが続々と誕生。半強制的に徴収されてきた不透明な給与天引きの返還要求を中心に、経営側への“反撃”が始まった。
 効果は出始めている。派遣大手のグッドウィルとフルキャストは天引きを相次いで廃止。マイワークも昨年七月、派遣一回あたり二百五十円の「安全協力費」名目の天引きをやめた。
 石神さんは昨年九月、「ちょろまかしたものはすべて返してもらう」と、わずか三カ月でユニオンを結成した。組合員は十二人。すべての派遣労働者へ創業時にさかのぼった天引き分全額返還を求め、五回重ねた団交は決裂。今後、労働基準監督署に申告して闘いを続ける。フルキャストユニオンは、全額返還を勝ち取っているからだ。
 「自分の子も非正規という友人が増えている」と石神さん。“階級”が固定される格差社会を肌身で感じ、十-二十代が多い組合員への思いを語る。「収入が安定せず家庭を持てない若者が増え、孫が抱けない同世代も増えるだろう。組合を立ち上げたのも行動で何かが変わることを若者に見せたかったから」
      ◇
 繰り返される禁止業務への派遣や二重派遣…。惨状に、連合は昨年十月、労働相談などの拠点として「非正規労働センター」を発足させた。同センターの龍井葉二総合局長(58)は「正社員中心の壁を越えていこうという連合の自己改革宣言」と、反省を込めて話した。連合は二年前から「非正規の処遇改善」を掲げてきたものの「かけ声だけで不十分だった」と認める。
 今年の春闘で、連合は「日雇い派遣禁止」の法改正など大幅な規制強化を訴える予定。だが、米サブプライム住宅ローン問題などの景気の先行き不安を背景に、経営側が軟化する兆候はない。

正社員も連帯を
 非正規の条件悪化に引きずられ「正社員もサービス残業や低賃金など労働条件が悪化している」と龍井さん。「自分たちを守るために正社員も派遣と連帯しなければならない」と訴える。
 連合系の全国ユニオンによると現在、個人加盟ユニオンは約三千三百団体まで増えている。
 製造業ユニオンを支える「ガテン系連帯」共同代表の木下武男昭和女子大教授(労働社会学)は「個人加盟ユニオンは芽が出たばかりで、大きく育つには肥料や水がいる。連合が資金面や動員面で支えれば、職種別ユニオンに発展し、業界全体の問題にも切り込める」と話す。
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【暮らし】ハケンの反撃<2> 『手口をあばく』 もう だまされない
中日新聞 2008年2月11日

 「過労死基準を超えて働かないと月額三十二万円は稼げない。完ぺきにだましてやがった」
 大手日雇い派遣「フルキャスト」が出資する自動車製造請負・派遣会社「フルキャストセントラル」の元派遣労働者・小谷誠さん(47)は憤る。
 「月収三十二万円以上」-。厚遇をうたう派遣会社の広告にひかれ、二〇〇六年一月、宮城県石巻市から上京。派遣先の東京都日野市の日野自動車で働き始めた。時給千二百円。昼勤だった最初の一カ月は、広告にあった残業がなく、額面二十万円を切った。「子どもに不自由させたくなくて、東京に来たのに」と唇をかんだ。
 職場には「だまされた」地方出身者が大勢いた。「東北や九州などは仕事がない。仕事があっても時給は高くて八百-九百円。千二百円なら飛びつきますよ」と小谷さん。
 雇用情勢が厳しい地方から来て、好景気の大都市圏で働く派遣労働者が増加している。大都市と地方、正社員と派遣労働者。二重の格差に苦しむ地方出身者は多い。
 格差につけこむ手口は「厚遇広告」だけではない。派遣会社は最初の給料までお金がないことを見透かし、派遣先までの交通費を支給、前借りも世話してくれた。「派遣会社も最初はやさしい」と小谷さん。しかし給与は広告通り支払われず返済は難しい。結局会社に縛り付けられる。
 小谷さんは、その境遇を逆手にとり、ユニオンを立ち上げ委員長として募集広告問題などで経営側を責め立てた。「『(募集広告の)根拠はない』という発言も引き出し、労働条件を細かく提示することも認めさせた」
 職業安定法は虚偽広告の場合、六月以下の懲役、三十万円以下の罰金を定めるが、誇大広告や紛らわしい広告の規制はない。この件も虚偽とまでいえない“グレーゾーン”だった。
 昨年八月、小谷さんは日野自動車から直接雇用され期間工になった。有期雇用で身分は不安定だが、年収が約百五十万円上がった。「闘えば勝てることが分かった。苦しむ派遣労働者を助けるために、これからも、派遣業界の矛盾を暴いていく」
    ◇
 「派遣労働者は低賃金なのに、正社員より課税範囲が広い。不公平だ」
 東京ユニオン執行委員長の渡辺秀雄さん(60)はみけんに鋭いしわを寄せて訴える。
 正社員は交通費が給与と別に支給され、月十万円まで非課税。一方、派遣労働者は交通費が支給されない場合が多い。支給されても「勤務地が転々として捕捉しにくい」などの理由で所得に含めて計上され課税される。年十七万円の交通費がかかった派遣社員の場合、九千四百円も余分に納税することになる。
 東京ユニオンは二〇〇〇年から「取られすぎた税金を取り戻そう」と確定申告の時期に税還付キャンペーンを展開。今月一日、二十人が参加し確定申告書の書き方を教わった。各自が地元の税務署に申告するという。
 しかし、国税庁は一般的な正社員が得る「通勤手当」以外は交通費非課税を認めない方針。それでも渡辺さんは「大勢で請求すれば国税庁を動かす力になる」と、運動を続ける考えだ。
 渡辺さんは「正社員を前提に法律が解釈され、派遣労働者は無視されている」と、法の機能不全を指摘。小谷さんも「派遣法改正だけでは救えない問題もある。職業安定法を改正し、誇大広告取り締まりを強化してほしい」と訴える。 (服部利崇)
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【暮らし】ハケンの反撃<3> “サイバー連帯”進化 
中日新聞 2008年2月14日

 「携帯電話メールで誰でも簡単に入会できます。解雇された当日に入った人も結構います」
 インターネット上の労働組合サイバーユニオンの草分け、ジャパンユニオン=http://www.jca.apc.org/j-union/=の石川源嗣副執行委員長(65)は説明する。
 石川さんらを役員に一九九九年に発足。サイバーユニオンでも、未払い残業代を満額獲得した実績もある正真正銘の労組だ。地域や産別という「境界」を飛び越え、注目を浴びた。
 しかし、労組専従歴二十七年の石川さんは、顔が見えないメールや電話だけのやりとりに抵抗があった。実際、顔を合わせないまま、問題が解決すると去っていく組合員も。関係労組への応援などで忙殺され、腰が引け気味になっていた。
 一方で、非正規社員の待遇悪化は加速。石川さんは「地方では労組の空白地帯も広がっている。サイバーユニオンなら埋められるはず」と思い直した。手始めに昨年十一月、サイトを手直しし、自らの手で情報を毎日更新している。すると、月四、五人だった加入者が、先月は十五人に増えた。
 組合員は北海道から沖縄まで、派遣社員や正社員ら約四百五十人。解雇など緊急対応が必要な場合は、その地域担当の組合に引き継いでいる。「労使関係の緊張が高まった際の保険」で加入する例が多いという。
 劣悪な条件が問題化している「日雇い派遣」で、雇用側が労働者への連絡手段で使う携帯メール。それを逆手に取り、メールやネットで加入できる労組が力をつけている。匿名性や双方向性というサイバーの特徴で、労組加入の垣根が低くなっているからだ。
 石川さんが理事長のNPO法人「労働相談センター」のブログが縁で誕生した、紳士服販売大手コナカの労組も一例。
 「長時間労働なのに残業代が制限される」「有給休暇が取りづらい」。全国に散らばるコナカ社員らが匿名でブログに書き込み、連帯の輪が育った。その流れで昨年二月、組合を結成。管理職扱いの店長を労働者と認めさせ、社員の未払い残業代九億円を返還させるなど、着実な成果を上げている。
 同労組委員長で茨城・鹿島店副主任の渡辺輝(ひかる)さん(26)は「組合員が増えず、孤立の不安もあったが、他社や取引先からの応援コメントが支えになった」と感謝する。
    ◇
 ネット映像で労働運動を盛り上げる動きも出ている。首都圏青年ユニオン委員長の武田敦さん(28)は、ユニオン発足の二〇〇〇年から映像作りに取り組み今まで六作品を作った。「言葉より情報量が多く労組が何をしているか分かって加入しやすくなる」。愛用のハンディーカメラで撮影、自ら編集する。ネット映像のほか、新人組合員の教材やプロモーション用にも使う。
 最新作は、長時間労働で椎間板(ついかんばん)ヘルニアを患った男性美容師(23)の団交の模様だ。アングルをほぼ固定。やりとりを冷静に追い、効果音や字幕も控えめだ。武田さんは「ドキュメンタリー風の方が実態を訴える力がある。弱い者の立場から、生きづらい日本社会の今を暴きたい」と語る。
 昨年九月、労働組合専門の動画投稿サイト「ユニオンチューブ」=http://video.labornetjp.org/=も誕生。武田さんも投稿の常連だ。運営するレイバーネットの松原明副代表(57)は「ネット動画なら若者に労組の等身大の姿を伝えられる。ネットカフェ難民も見られる」と話す。現在、約百作品がアップされている。  (服部利崇)

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【暮らし】ハケンの反撃<4> 勤務記録で対抗 
中日新聞 2008年2月17日

 「勤務時間の記録を残していたから未払いの残業代を取り戻せた。メモの効果は大きかった」
 男子大学生Aさん(23)は学費を稼ぐために、弁当店でアルバイトをしている。深夜から早朝にかけて働き、休憩一時間を含む八時間勤務のシフト。「百種類もある仕事」は規定時間内に終わらず、残業は日常的だ。
 しかし勤務時間を管理するパソコンには、残業時間を含まないシフト通りの時刻を入力する「暗黙のルール」がある。一度実際の退勤時刻を入力したが、いつの間にか修正されていた。
 「半強制的なサービス残業。納得できなかった」。法学部のゼミの先輩に相談すると「出退勤時刻を毎回メモし、経営側に見せたら」。アドバイスに従って、手帳に分単位で記録するようにした。仕事内容や経営側の発言まで詳細に書き留めた二カ月分のメモを突きつけたところ、昨年末、未払い残業代の一部約五千円が戻ってきた。
 「法律違反を認めさせた。メモすれば一人でも勝てる」。従来の手法に縛られず“若者の感性”で非正規問題に取り組むNPO法人「POSSE(ポッセ)」代表の今野晴貴さん(24)=一橋大大学院社会学研究科=は、してやったりの表情。アドバイスしたAさんの先輩も中心メンバーだ。
 POSSEは二年前に発足した。会員は学生や若年労働者ら約百六十人。昨秋、勤務時間など詳細なメモを記入しやすいミニ手帳「しごとダイアリー」(定価三百円、問い合わせは合同出版=電03・3294・3506)を発刊した。うたい文句は「書き込むだけで法的証拠」。
 「しごとダイアリー」監修者の笹山尚人弁護士は「勤務記録などのメモ類は、裁判での証拠になり、経営側へのプレッシャーになる」。派遣労働者の闘争にも有効でパワハラ、セクハラへの対抗手段にもなるという。
 さらに「驚くべきことに残業代の支払い義務を知らない使用者も多い」と指摘。「政府は労働法の周知に熱心ではない。労働者の権利を守るために政府は率先して、使用者向けセミナーを増やしていくべきだ」
 「ガテン系連帯」共同代表の木下武男昭和女子大教授(労働社会学)は「大学でも、労働基準法などの『労働法』は必修ではなくなっている」と憂える。
 「労働者の権利は生きていくための基礎知識。遅くとも高校生で身につけるべきだ。社会に出てからだと、組合も教えてくれない」と訴える北海道大大学院法学研究科教授の道幸(どうこう)哲也さん(60)は一年前、「15歳のワークルール」(旬報社)を出版。昨秋には、高校生やフリーターに労働法や労働者の権利を教えるNPO「職場の権利教育ネットワーク」を設立した。労働問題に詳しい学者や弁護士、社会保険労務士など三十人規模の講師ネットワークを構築中で、春から北海道内の高校などで「出前講座」を始める予定だ。
 行政・使用者側も建前上、労働法教育の必要性は認めているが、本音は違う。道幸さんが道労働審議会会長だった当時、労働教育の義務化を答申にまとめたが、審議会メンバーだった使用者側は「労働者の権利ばかり訴え、働く義務の視点がない」と渋り気味だった。結局、答申を受け道庁が作成した冊子は「“修学旅行のしおり”みたいな体裁で配布しただけで終わり」(道幸さん)になった。
 道幸さんは「日雇い派遣や偽装請負などは、典型的な労働者の無知に乗じたビジネス。それを改めない使用者、労働法教育に不熱心な行政に対しては、NPO法人のような市民レベルからの発言システムを地道に拡大していくことが必要」と話す。
  (服部利崇)  =おわり
(2008.2.17 中日新聞)



ついでに、以下の本も紹介します。

『下流社会 新たな階層集団の出現』(三浦展著/光文社新書)
『下流社会 第2章 なぜ男は女に”負けた”のか』


三浦展さんは昨年4月、上野千鶴子さんと共著で、
『消費社会から格差社会へ―中流団塊と下流ジュニアの未来 』
(河出書房新社)という単行本も出しています。

話題のNHKスペシャルも単行本に。
『ワーキングプア 日本を蝕む病』
 NHKスペシャル『ワーキングプア』取材班・編(ポプラ社)


最後に、
NHK岐阜放送局で長良川河口堰問題などの市民運動でお世話になった、
中嶋太一さんが書かれたこの本の「おわりに」のむすびを紹介します。

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・・・・・・・ 今の日本の社会では「自己責任」が強調されている。そして、自助努力する人を支援する「自立支援」の大切さが盛んに言われている。本当にそれでよいのだろうか。わたしたちが取材で出会った人たちは皆、家族の病気や、リストラ、それに社会保障費の削減など、誰の身にも降りかかりかねない出来事をきっかけに、「ワーキングプア」に陥っていた。
 それを「個人」の生き方の過ちとして片付けてしまってよいのだろうか。政府によって、一刻も早く、有効な手立てが取られることを願わずにはいられない。そして、わたしたち自身もこの問題から目をそらさず、真剣に考えなければならない。「ワーキングプア」は労働や雇用の問題というだけでなく、日本という「国」のあり方、わたしたち日本人一人一人の生き方の問題だから。
「ただ普通の暮らしがしたい」としぼり出すような声で話した児童養護施設の子ども。「自助努力が足りないのでしょうか」と涙を流して訴えたダブルワーキングの母親。「ワーキングプア」の問題をどうすれば解決できるのか。すべての国民に保障されているはずの憲法25条の生存権の精神をどうすれば現実のものとすることができるのか。
 わたしたち取材班は、いま新たな取材を始めている。
 中嶋太一(NHK報道局社会部副部長 当時警視庁キャップ)
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最後まで読んでくださってありがとう
2008年も遊びに来てね 
 また明日ね
 


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