いえ、日本政府による、嫌がらせ事件と言ったほうがよいと思います。
シンポジウムなどを企画した主催者側の研究者は、
政府に対し、抗議するとともに特別上陸許可要求の共同声明を発表しました。
「企画を予定通り成功させることが氏への応答だ」という言葉に強く共感しました。
恣意的で理不尽な妨害に屈しないで、予定通りイベントを開催し成功させること。
わたしが主催者でもそうしたことでしょう。
なら、一参加者としてわたしも、抗議の意思を込めて、
予定通り、シンポジウムに参加したいと思います。
主催者側の経緯説明については、以下で読めます。
【緊急報告】アントニオ・ネグリ氏来日中止の経緯説明会(UTCP BLOG)
市田、姜、木幡各氏へのインタヴュー映像
「ネグリ来日中止(イベントは予定通り)」はこちらから。
アントニオ・ネグリ氏とジュディット・ルヴェル氏の来日中止に関する共同声明 私たちは、哲学者アントニオ・ネグリ氏と彼のパートナーであるパリ第一大学准教授ジュディット・ルヴェル氏の来日を、ネグリ氏の招聘元である国際文化会館とともに準備し、それぞれの大学において両氏が参加する公開あるいは非公開での講演と討論を企画してきた者である。2008年3月20日から4月4日の日本滞在中、両氏は私たちをはじめ、さまざまな人々と思想的・学問的・文化的交流を行う予定であった。しかし両氏は、現在にいたるまで日本に入国していない。 私たちはその責任がひとえに日本政府にあると考える。外務省は入国予定の3日前、3月17日になって、それまで数ヶ月来国際文化会館とネグリ・ルヴェル両氏に伝えていた「入国査証は必要ない」との言を翻し、査証申請を行うよう要求してきた。そして、出発直前の極めて慌しいスケジュールの合間をぬって両氏から申請が行われるや、今度はネグリ氏に対し、自分が「政治犯」であった「書類上の根拠」を示せと要求したのである。入国管理法第5条4項「上陸の拒否」(「1年以上の懲役もしくは禁固またはこれらに相当する刑に処せられたことのある者」は「本邦に上陸することができない」)の但し書き(「政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りではない」)による「特別上陸許可」を認めるためである。 アントニオ・ネグリ氏が「政治犯」であることはすでに国際的に承認されている事実である。彼は欠席裁判により有罪を宣告された——これは刑事裁判にかんしては「国際人権規約」上無効である——うえ、「国家転覆罪」というまさに「政治犯罪」の廉により、実行行為をともなわない思想上の影響という「道義的責任」を問われて、有罪とされた。だからこそ、フランス政府は1983年から1997年の14年間にわたり、イタリア政府からの身柄引き渡し要求にもかかわらず、ネグリ氏を保護したのである。その際、ネグリ氏に対して「政治亡命者」の法的身分が与えられていなかったとしても、それはフランス政府独自の外交的判断にもとづくものであって、ネグリ氏が「政治犯罪により刑に処せられた」事実をいささかも揺るがすものではない。ネグリ氏は1997年7月、現在もなおイタリアに存在する近過去の「政治犯」問題に一石を投じるべく、フランスからイタリアに自発的に帰国し、服役するが、これは彼が「良心の囚人」となったことを示しているのであり、すべての刑期を終えて完全自由の身となった2003年10月以降は、現在まで22カ国を歴訪し、そのどこからも日本政府からのような要求を受けたことはない。 さらに私たちにとっては、もう一つ看過しえないことがある。ジュディット・ルヴェル氏は短期滞在の場合には査証を免除されるフランス人であり、かつ「上陸の拒否」を云々できるような前歴はないにもかかわらず、その彼女にまで、外務省が査証申請を要求したという事実である。 ネグリ・ルヴェル両氏の来日をめぐる以上のような経緯に鑑みれば、今回の日本政府の対応は、両氏に対する事実上の入国拒否を企図するものであったと判断せざるをえない。かくして私たちとネグリ、ルヴェル両氏は、世界の22カ国ですでに行われ、これからも増えていくにちがいない国境を越えた思想的・学問的・文化的交流の機会を奪われた。両氏の移動の自由が侵害され、関係者すべての思想信条・学問の自由が侵された。私たちは強く抗議するとともに以下の点を日本政府に求めるものである。 (1) 入国3日前に前言を翻して査証申請を求め、アントニオ・ネグリ氏とジュディット・ルヴェル氏に甚大なる精神的苦痛を与えた点について、外務省は彼らに謝罪せよ。 (2) 法務大臣は今回の事実上の入国拒否の非を認め、責任を持ってアントニオ・ネグリ氏の過去の罪状を入管法上の「政治犯罪」と認定し、すみやかに「特別上陸許可」を与えよ。 (3) 日本政府は署名各大学の事業当事者、学生、聴衆の研究・学習・知的 交流の機会を奪ったことを認め、謝罪せよ。 2008年3月24日 京都大学人文科学研究所・人文研アカデミー「アントニオ・ネグリ講演『大都市とマルチチュード』」(3月25日) 実行委員会:大浦康介、岡田暁生、小関隆、王寺賢太、久保昭博、藤原辰史、市田良彦(神戸大学)、廣瀬純(龍谷大学) 大阪大学GCOE「〈ジェンダーとコンフリクト〉プロジェクト」+大阪府立大学女性学研究センター「女性学コロキウム」(3月26日) 牟田和恵(大阪大学)、伊田久美子(大阪府立大学) 東京大学ネグリ講演会「新たなるコモンウェルスを求めて」(3月29日) 準備委員会:姜尚中、吉見俊哉、上野千鶴子 東京藝術大学「ネグリさんとデングリ対話」(3月29日/30日) 実行者会議:木幡和枝、坂口寛敏、毛利嘉孝、桂英史 お茶の水女子大学「ルヴェル・コロキュアム」(3月31日) 戒能民江、竹村和子 |
ネグりを歓待しなかった日本政府(池田信夫blog)
以下は、関連の新聞報道です。
(今日25日の朝刊各紙)
姜尚中・東大教授ら、ネグリ氏来日中止で政府に抗議声明 朝日新聞 2008年03月24日16時21分 イタリア人哲学者アントニオ・ネグリ氏(74)の初来日が中止になった問題で、予定していた講演会などの企画にかかわった大学教授ら19人が24日、日本政府に対し共同声明を発表した。来日直前にビザ申請などを要求したのは「事実上の入国拒否」であり、自由の侵害だとしている。 声明を出したのは、ネグリ氏の講演会でパネリストとして参加する予定だった東大の姜尚中教授や市田良彦神戸大教授のほか、東京芸大、京大、阪大、お茶の水女子大など計8大学の研究者ら。 日本政府は、ネグリ氏の来日直前、ビザ申請に加え、入管法上の「特別上陸許可」を出すために、過去に受けた有罪判決が、政治犯罪によるものだとする証拠を書類で示すよう要求。ネグリ氏側は時間的に無理として来日を断念した。 声明文は、ネグリ氏が政治犯であることはすでに国際的に承認され、釈放後の4年半にネグリ氏が訪れた22カ国では今回のような書類提出を求められていないとし、来日中止で「思想的・学問的交流の機会を奪われ」「思想信条・学問の自由が侵された」と抗議。速やかに特別上陸許可を出すよう求めている。 東大、東京芸大、京大の3大学は、ネグリ氏不在のまま、討論会などを予定通り開くという。 (2008.3.24 朝日新聞) ------------------------------------------------------------------- ネグリ氏:入国許可求め大学教授らが共同声明 イタリアの政治哲学者、アントニオ・ネグリ氏(74)らの来日中止問題で、同氏の講演会を主催した東大や東京芸大の教授ら約20人が24日、日本政府に対し「入国拒否を企図するものだった」として、同氏への謝罪と入国許可を求める共同声明を発表した。 東大であった会見によると、日本政府はネグリ氏が入国を予定した3日前の今月17日になって、それまでの説明を翻し、政治的経歴に関する元政治犯だと証明する資料の提出とビザ取得を求めてきたという。 毎日新聞 2008年3月24日 19時42分 |
グローバル・アイ:ネグリ氏の訪日中止 ビザ発給はより柔軟に=西川恵 毎日新聞.jp 今月20日から予定されていたイタリアの政治哲学者、アントニオ・ネグリ氏(74)の訪日が、直前に中止になった。招へい元の国際文化会館によると、過去にイタリアでの政治運動に絡み同氏が有罪判決を受けたことがネックになったというが、残念だ。 ネグリ氏はデカルト、スピノザの研究で知られた世界的な知性で、日本でも話題を呼んだ「帝国」の共著者である。私はローマ特派員時代の10年前、ローマ・レビッビア刑務所内で同氏に獄中インタビューしている(98年6月2日付朝刊掲載)。 同氏はイタリアの極左テロ組織「赤い旅団」の理論的指導者だった79年、国家に対する武力蜂起、テロなどを計画・扇動した容疑(本人は否定)で逮捕された。禁固30年の実刑判決を受けて服役していた83年、総選挙に獄中から立候補して当選し、出獄した。 しかし下院が議員免責特権はく奪を決議したためフランスに亡命。フランス政府は滞在許可を与え、同氏はパリ第8大学教授となった。その後、ベルリン、チューリヒ、ケンブリッジなど各大学の客員教授も務めた。 パリでの14年間の亡命生活を捨て、逮捕覚悟で帰国したのは「日独と違って、イタリアではテロの時代の清算が終わっていない。その解決のための起爆剤になろうと考えた」と私に語っている。 欧州諸国にはイタリアの元過激派メンバー数百人が亡命している。当時、イタリア政府は恩赦法案を審議中で、これを後押しする気持ちもあったという。同氏は03年に釈放された。 予定だと、同氏は4月4日まで滞在し、京大、東大、国際文化会館などで講演することになっていた。関係者によると、来日3日前の17日、法務省から「政治犯だったと証明する資料を出してほしい」と要求された。 出入国管理法は1年以上の懲役か禁固刑を受けた人物の日本入国を禁じているが、政治犯は例外として認めている。ただ同氏の場合、政治犯だったという明確な証明は難しい。欧州各国政府はイタリア政府との関係に配慮して、政治犯とは認定していないからだ。訪日直前の同省の要求には、入国させたくないとの意図も感じられる。 同省は「個別案件には答えられない。ビザ申請を取り下げたと聞いている」と語るが、もっと柔軟であるべきだと私は思う。フランスでの実績、欧州各国政府が受け入れてきた事実を見れば、この世界的な知性が好ましからぬ人物かどうかは明らかだ。実体を見ないしゃくし定規な姿勢は、豊かな知的交流を妨げている。(専門編集委員) 毎日新聞 2008年3月22日 東京朝刊 |
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