緑川鷲羽(改名、上杉(長尾)景虎) 上杉奇兵隊日記「草莽崛起」<上杉松下村塾>

政治経済教育から文化マスメディアまでインテリジェンティズム日記

沙弥さや・AKB大島優子主演nhk朝ドラ原作アンコール連載小説5

2013年06月19日 03時06分51秒 | 日記
         緑川沙弥の苦悩




「つらい日々だった。なにをしてもダメで、モラトリアムじゃないか?なんて思った。しかし、その前に賞を一応取ってたので慰めにはなったな。あとはベストセラー出して印税生活だ!っても考えてた。とにかくそのためにはクオリティの高い作品を執筆しなくては!っても思ったな」
 だって。
 まぁ、楽観主義っていえばいいのかどうか…とにかく好ましいスタンスではある。
 はっきりいって、日本はマンガ天国で、活字離れが進んでいる。なんと、一か月に一冊も活字本を読まないという人間が圧倒的だという。だから、出版社もマンガとアイドルのヘア・ヌード以外は出版しないように努めているともきく。活字本は、ビック・ネームの作家やタレントなどの本以外はめったに売れないのだ。だから、執筆の仕事がまったく来ないのは、なにも沙弥のせいじゃない。
 思えば、日本の出版社は勘とアンケートだけで出版するかどうか決める。だから、勢い、絶対に売れるアイドルのヘア・ヌードやコストの安いマンガばかりが出版されるようになるのだ。これは少し情ないことでもある。20才くらいの馬鹿のアイドルのヘア・ヌードなどどうでもいいし、くだらんタレントの暴露本など読むだけ時間のムダというものなのに、それさえ平和ボケの日本人にはわからないのだろうか?
 とにかく、その間、沙弥は新作の執筆を続けたが、鳴かず飛ばず、だったようだ。

  春が近付き、ぽかぽかと暖かくなってくると、桜が満開に咲いて、とても幻想的な雰囲気にもなるしウットリとした気持ちにもなるものだ。
 そういえば、私が田舎から引っ越す前にはよく緑川家の飼い犬「ルーカス」を散歩に連れていったものだ。そして、私が去ると、その散歩の勤めはあの緑川沙弥の役目となっていたようだ。でも、あの強烈な性格の沙弥のことだから、またルーカスをいじめてるのかな?少しそこら辺が、私には心配だったのをおぼえている。いや、真剣にルーカスの身を心配した。
 のちに弟子・銀音寺さやかの話しによると、
「仕事の依頼のない日々は、緑川先生は、いやがる犬を連れて散歩するかワープロに向かってました。その合間に食事するか情報収集、って感じでした」
 と、いう。やはり、ルーカスは散歩にいやいや付き合わされていたようだ。
(ちなみに「ルーカス」はセントバーナードのオスで、真っ白で優しい性格の犬である) 散歩は早朝にいくことが多かったという。銀音寺さやかも沙弥に付き合って早起きしてやってきていた。早朝の湖はきらりと輝いてみえたという。きらきらと朝日が差込んで、春風に湖の波間が幾重にもできて、ハレーションをおこす。どこまでも続くような静寂、それはしんとした感傷にも似ていた。
 緑川沙弥は早朝に起き出して、自分の運動がてらルーカスを連れて散歩にいく。それは私が考えるにいいことだと思う。部屋でじっと寝ているよりは散歩でもしていた方がいいに決まっている。特に、沙弥のような病気がちの人間にとっては。
  ある日の朝の散歩でのことだ。
 雲ひとつなく晴れ上がり、湖も山々もきらきらと輝いても見えた。
「こら、ルーカス!あんまり早く歩くな!」
 沙弥は皮ひもを持って歩きながら、言った。
「あの……沙弥」
「なんだ?ブスありさ」
「作家になるためにはどんなことをしたらいいの?」
「なんだよ、突然に」
「お願い。教えて!」
 私は歩きながらいった。それに対して、沙弥は、
「そうだな。努力しろ」
「……努力…?」
「あぁ。後、作品イコール商品だから商品をいっぱいもて!で、その自分の作品のクオリティ(品質)を限界まで高めて……それで文学賞に郵送しろ」
「持ち込みは?」
「そりゃあダメだな。はっきり言って、日本の出版社は『持ち込みの作品』はまともに読まないんだ。結局、期待して郵送してもボツになるのがオチだぜ」
「そう?」
「それと…」沙弥は心臓が二回打ってから続けた。「ぜったいにコピーをとっておけよ。出版社が作品を返却しない…連絡もしない…まったくの無視ってことも多いからな」
「そんなものなの?…知らなかった」
「まぁ、現実は厳しいってことだな。どっかの脳天気なアニメとかみたいに処女作がいきなり文学新人賞とかとって作家デビュー…大活躍!…なんていうのはフィクションで、いきなり作家になれる訳じゃないんだ。ぜったい賞に10回以上は落ちるって」
「……そう」
「だから……諦めるな。一度や十度くらい文学賞に落ちたってな。…私のいう努力っていうのはそういう意味さ」
 私と沙弥は湖の砂辺に腰をおろした。
 ルーカスはワンワンと吠えながら、遠くまで走っていってしまった。
「で………文学賞に何回くらい落ちたの?」
「そうだな。百回ぐらいだな」
 沙弥は愛嬌たっぷりにそういってアハハと笑った。もちろん百回は冗談だろう。でも、どうも五〇回くらいは落ちたようだ。それでも諦めなかったところが沙弥らしい。
 私もつられて笑った。
「こら、ルーカス!もどってこい!」
「……犬が大好きなのね」ほんわりいった。
「まさか、大嫌いさ」
 沙弥は愛嬌たっぷりの横顔のまま、にやりと微笑んだ。それは、とてもほのぼのとした平和な一日の出来事だった。とにもかくにも、緑川沙弥と銀音寺さやかはこうしたほんわりとした感じの毎日を過ごしていたのであった。
「大嫌いだよ………犬なんて、さ」
 沙弥は平然とひとりごとをぼそぼそ言ってから、湖を見ていた。細い前髪がそよ風にさらさらとゆれていた。少し肌寒いためか赤くなった頬は血管が透けるようにみえ、瞳がきらきらと光を反射して輝いてみえた、という。
 それにしてもこの時、彼女はなにを思っていたのだろう?


「くだらん本だ!」
 沙弥は吐き捨てるように言った。それは、嫉妬ではなかったように私は思う。きっと、朱美里の本のことではなく、マンガ雑誌やヘア・ヌードの氾濫する日本という国自体を、「くだらん!」と言っていたのかも知れない。私は今、そう思う。
 とにかくも、こうして沙弥のライバル・朱美里は大活躍し、緑川沙弥は『鳴かず飛ばず』という結果になり、それがかなり続いた。『緑川沙弥は爪を研ぐ日々を…』と言えば聞えはいいが、単に、仕事の依頼もなく陰鬱に暮らしていた、というのが真実だった。
 これじゃあ、司馬仲達vs諸葛孔明、どころではない。アリとキリギリスだ。でも、結局、蟻が勝つんだけど、ね。


  話しは違うが、私の故郷米沢の湖はすべてを受け止めて、包み込み、許してくれるような感じがする。朝は朝日を浴びて波間がきらきらと輝いて、夕方にはオレンジ色というかセピア色というか、とにかく眩いばかりに美しく輝く。ほんわりとした様な、ふわふわとしたような湖を、私はよく思い出す。そして、むしょうに故郷に帰りたくなる。それはきっと、しんとした感傷というものだろう。あの頃の、沙弥がいた頃の故郷に帰りたい、そして、彼女の顔が見たい。なんともいいようのない感傷だ。きらきらとした思い、だ。

「なんだか嫌な天気になってきたわね」
 ペンション『ジェラ』に向かって歩いていた時、私が、雨でも降りだしそうなグレーの曇り空を見上げて、そう言った。
「あ。雨」
 やがてやっぱりポツンポツンと雨が降り出してきた。薄暗い灰色の雲の隙間から透明な雨のしずくがパラパラと落ちて、まわりの道路も何もかもを濡らしていく。私は急いでペンションに駆け込むと、
「良子おばさん、雨!」と、言った。おばさん、こと、沙弥の母親の良子おばさんは「あら、本当!」と呑気にいうと、大慌てで洗濯物のシーツやらを取り込み始めた。それに、私も「私も手伝います」といって手伝った。
 …やがて雨はどんどん激しくなっていく。空も湖もかすみ、なにか湿ったような匂いだけが辺りにただよっていた。雨で髪の毛が濡れたので、私はタオルで拭きつつ、ロビーの椅子に腰掛けた。
「ありがとね、ありさちゃん。助かったわ」
 良子おばさんはそういってニコリとした。
「いいえ。あら?……沙弥はどこですか?」
「沙弥?……あの子は確か、散歩に行ったようね。また羽黒神社におまいりにでもいったのかしらね」
「おまいり……ですか?」
「そう」
 おっとりとおばさんは言った。そして、「そういえば…沙弥、傘持っていかなかったわ」と続けた。「大変だ!それじゃあ、濡れちゃいますね?」
「そうね、雨に濡れるのはあの娘の病気によくないわ」
 私は「じゃあ、私、先生の迎えにいきます!」と言った。そして、傘を二本持って、とにかく外へと駆け出した。
 雨はやがて強くなり、ザアザアと音をたてて降りつけてきた。薄暗い灰色の雲から大粒の雨が落ちてくる。それは何か、空が泣いている、ようにも思えたという。
 彼女は帰宅した。すると仙台でコンビニを経営している筈の「猿男」こと沙弥の実兄の緑川和宏が来た。とたんに沙弥にしたり顔で説教しだす。自分を「成功者」だと勘違いしているのだ。「なあ沙弥…人間万事塞翁が馬、背水の陣、脳ある鷹は爪隠すって」猿はもっともらしい顔で「釈迦に説法」をする。「いらねえよ、猿!糞説教など…金のほうがありがたい」「金欲しいのか?」「…当たり前だろう?」「お母さんやお父さんはお前のことを大人だと認めているけど…俺はお前を大人だと認めてない」和宏はしたり顔で言った。彼女の病気の症状どころか病名さえ知らぬ無知・猿だった。
、沙弥は「お前はばばあに借金しにきたんだろう?どっちが子供だ!」と怒鳴った。灰皿を投げつけ、猿の額にヒットする。和宏は「ちくしょう」と額を手で抑え逃げ去った。そのまま仙台に遁走したのだ。
「俺はなんでもできるんだ!俺中心に世界が回ってるんだ!」
 そう笑ったとき、この男は地獄へ向かって、すべりおちていった。


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