ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

日本オオカミ協会は道を踏み外した

2011-07-05 22:39:04 | 再導入
 数日前にこのような記事がありました。

白鵬に仰天要請「オオカミを復活させて」

最初に見たときは絶句しました。そして、次に思ったことは「ああ、オオカミ協会は科学をやる気はないんだな」ということです。
オオカミ協会の欺瞞や知識不足については過去にいくつか「再導入」や「保全生態学」カテゴリで書いていますのでそれをお読みください。
梨のお勧めとしては以下の3つを推奨します。

「僕がオオカミ再導入を支持しないわけ
オオカミ協会がオオカミによる人身事故を意図的に無視しているのではないかという記事。

「オオカミ再導入に対する簡潔な反論」
法的側面から再導入はほぼ不可能ではないかという指摘。

「日本オオカミ協会は明らかに獣害問題の専門家でない」
個人的には極め付けと思っている記事。これ以上ないほどわかりやすく彼らに獣害の知識がないことがわかります。
さて、3つ目の記事から内容を抜粋します。

11.オオカミは人を襲うのでは?
人が、オオカミに正しく接しているならば襲われることはありません。もしもオオカミが人を日常的に襲う習性を持っているならば、北米やヨーロッパ、アジアなどオオカミが生息する地域では、毎日多くの人が襲われて、大きな社会問題になっていることでしょう(ちょうど、日本でクマやイノシシが日常的に人を襲っているように)。


もう、これで十分に彼らが獣害を語るに値しないことがわかります。クマによる人身事故は環境省のHPでまとめられています。それによれば、多い年でも全国で100件前後です。県単位だと一年に数~十数件です(多い年でね?)本当に呆れます。オオカミ協会のこの見解を支持する人は環境省の統計を否定できるだけの根拠を持ってきてください。
 彼らがやろうとしていることは、動物の再導入という保全生態でも非常に難しい分野です。それもオオカミのような大型動物ともなれば、世界の最前線クラスでしょう。しかし、悲しいことに彼らには目標を成し遂げるだけの地力がありません。
そもそも、基礎知識すらない人間に応用ができるわけないでしょう?
九九もできない人間が二次関数や微分できると普通思います?
オオカミ協会のやろうとしていることははっきり言って無謀です。
 さらに言えば、オオカミ再導入は広く専門家の支持を受けているわけでもありません。
オオカミ協会があんな体たらくですから取り合う価値も本来はありません。「戯言乙」で終わり。
学問的に相手にされるほどの質がないから著名人を取り込んで一般に向けた既成事実を作ろうとしているのでしょう。
そしてこのような方法はニセ科学やニセ医療が取ってきた方法です。専門家には相手にされないから知識のない人を巻き込んで勢力拡大を図る下劣な手段です。オオカミ協会がここまで堕ちたことは残念です。

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6 コメント

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批判の方針 (complex_cat)
2011-07-06 09:22:19
急いで書かれているのだと思いますが、オオカミ協会は、日本での「熊や猪」のようにオオカミは人を襲わないと言っているので、日本におけるクマの人的被害統計を出すのではなく、EU~アジア圏のオオカミによる被害状況を検索して伝える必要があると思います。特に人口密集度が日本波に高い国のデータが重要です。

家畜被害は、現在検証中ですので、ここでは出せません。webではこういう状況のがヒットしますがhttp://homepage2.nifty.com/~wolf/wolf/spain.html
一次情報でも人的被害状況でもありません。ただし、家畜被害が出ると人間との直接干渉的トラブルも発生すると見たほうが良いでしょう。

biosis等で検索するといくつかヒットしてくるはずです。

 ただ、地域住民がそれを被害としてみない場合は、鳥獣被害は成立しません。そのことは重要な視点ですが、残念ながら、日本の場合は人口が密集しており、大陸のデータはあてになりません。良い話だけして導入誘導するのは、地元にとってもリスキーで、しかも専門的知識が怪しい人達が旗振りをやっているのも危ない状況だと思います。

 ここでいくつか考察されていることもご存知だと思いますが、
http://shir-etok.myftp.org/_media/shuppan/kempo/2607_kameyama-etal.pdf
 この論文でのオオカミ導入の問題の検証では、日本という島に適応したニホンオオカミ(現存標本等推定体重など重要)のニッチェが、果たして大陸産のオオカミを導入した場合、ずれることはないのかという視点が欠損しているのがものすごく気にまります。同じ「オオカミ」前提で考え過ぎに見えます。
 何世代も生息させていたら小型のものだけ選別される可能性とか言い出す前に、多分、里の家畜や犬猫を襲わないと個体は自らを維持できなくなると思っています。個体群管理はむちゃくちゃになるでしょう。

 結果的にクマ以上の捕食者を放獣する可能性を私は危惧します。また、クマは果実、堅果類を利用できますが、彼らにはそれが困難であること。日本の哺乳類の場合、雑食性が強くないと、多分この生態系環境では苦しいのではないかという気がしています。雑食性でむしろそれにより増加でき、結果的に競争圧力をかけてくるような肉食獣が少なかった二つの島嶼のみで、中型の肉食獣であるベンガル系ヤマネコが生き残ったことから、そのことを仮説として考えたいと思っています。
 あまり知られていませんが、島だから大丈夫だと言い出して、対馬をオオカミ放獣実験地にしようと丸山さんが言い出したことがあって九大の哺乳類グループが必死で批判して、退けた経緯があります。現地を研究フィールドにしている哺乳類研究者がいなかったら、危なかったかも。まあ、最小被害でもツシマヤマネコは終わったでしょう。そういった、粗い考えが先行する方が、これに関わっているということも恐怖です。
complex_catさん (梨(管理人))
2011-07-07 01:43:14
いつも的確な突っ込みと重要な論点の提示ありがとうございます。
亀山氏らの論文は恥ずかしながら知りませんでした。
イエローストーンの再導入に関しては、シカなどの個体群管理が主目的ではなく、単純にその地域に過去に存在した生物を導入しようとしたという理解でいいのでしょうか?
アメリカの大型草食獣の管理についての本を読んでもオオカミが個体群の減少に関与しないという話は控えめに見ても関与するという話と同じくらいありますね。彼らがあそこまで都合の悪いケースを無視するのを見ると科学者としての能力があるのかなと疑問に思います。
僕自身、当初は熊森よりはましだろうと甘く考えていましたが、見誤りました。
Unknown (complex_cat)
2011-07-07 08:15:04
イエローストーンの場合は、生態系機能回復ということで、鹿の個体数が落ちるとか落ちないとかいう以上の意味があります。鹿個体数制御にオオカミの生態系における価値の矮小化、機能確定みたいな話ではないですね。
 あそこのオオカミ導入は、古い生物防除の観念以上のところに立っていません。そこのところも幼い部分が透けて見えるように感じています。

>僕自身、当初は熊森よりはましだろうと甘く考えていましたが、見誤りました。

これはブコメでもツッコミが入っていましたが、でも、いやしくも専門分野のはずの元大学教官が関わっているわけだから、そこに軸足を置いての批判から始めないといけなかったというのはあると思います。批判論考のスタートの前提として間違っていません。
 ある意味、とても残念です。
オオカミ協会にびっくり (stoneware)
2011-09-02 23:04:37
はじめまして。

外来生物に多少なりとも関わっている生態学者です。ブログを大変興味深く読ませていただきました。

以前、日本にオオカミを導入しようとしている人達がいるという話はたびたび聞き、その人たちの存在は知ってはいましたが、この様な組織(日本オオカミ協会)を作っていたとは知りませんでした。早速、彼らのHPを見てみました。私が真っ先に思い浮かんだ質問がQ&Aにあったので、まずはそこから読んでみました。

7.日本に生息していたオオカミは日本だけの固有種なのではありませんか?

私はオオカミに詳しくないのですが、なんとなく、本州に生息していたオオカミは、系統的にあまりはっきりしていない…!?ぐらいのイメージしかなかったので、「いいえ、日本に生息していたオオカミは日本だけに生息していた固有種ではありません。北海道に生息していたエゾオオカミも本州以南に生息していたニホンオオカミも、北半球の広い地域に分布するハイイロオオカミ(Canis lupus)なのです。」という、歯切れの良い回答を読み、素直に、「そ~だったんだ。DNA解析をしていたんだ!それは知らなかった。」と感心!

ところが、続いて読んでみますと、「ニホンオオカミを固有種としたのは、伝統的な形態分類学によるものでした。しかし、この分類は研究者の恣意的要素が強く、信頼性が低いことがわかっています。日本産オオカミについては、適当な検体が存在しないなどの理由から、信頼できるDNA分析が行われていませんが、もし行われるならば、これまでの分類は見直される可能性があります。」

とあり、えええ!???DNA解析やってないのに、どうして、ハイイロオオカミって断定できるのだろうか?と驚き!

続いて、「DNA分析によると、北海道のオオカミは北米のハイイロオオカミと似ているという結果が報告されているくらいです。」という記述に、北海道のオオカミがハイイロオオカミに近いから、本州のオオカミもそれに違いないとは、なんと乱暴な…と、驚きを超えて呆れ!

本州と北海道のファウナの違いが大きいことぐらい常識なのに。

結局、論理的に説明をすることもできない人達が、何を主張しているのだろう?と思いました。

このオオカミ導入の中心人物は、野生生物管理学を学部で学んだと言っていますが、あっという間にドロップアウトしており、卒業していません。だから彼らの言っていることは間違えているというつもりはありませんが、野生動物管理学の専門家でもありません。むしろ、そのあたりを多めに見てあげて(?)、一つの面白いアイデアとして受け止めてあげればいいのかなあ…と思ってもみました。

しかし、大学教授(元ですか?)が関わっているとなると、やはり専門家達となるのでしょうかねえ…。

すみません、思ったことをいろいろ書いてしまいました。

大変勉強になるブログですので、また寄らせていただきます。

訂正 (stoneware)
2011-09-03 00:01:04
その後、日本オオカミ協会についてもう少し調べてみました。上記で述べました、「中心人物」は、「オオカミを放つ」の執筆者の一人になっていますが、「中心」ではなかった様です。失礼しました。
stonewareさん (梨(管理人))
2011-09-04 16:26:55
 お返事が遅くなりすみません。
中途半端に生物地理学や保全生態学をかじっている感じはしますね。だから知識のない人には専門家に見えてしまうのでしょうが……。
僕は、彼らは結論ありきだからあそこまでねじ曲がったのだろうと思います。最近は白鵬関を巻き込んで広報活動に励んでいるようで、研究者としての姿勢はどこへやらです。
http://sankei.jp.msn.com/sports/news/110822/mrt11082218430002-n1.htm