ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

遺伝子撹乱を進化生物学から考える

2009-05-17 22:11:22 | 遺伝的多様性
 まだまだ未完成ですが試験的に公開します。
 外来生物問題のひとつに外来生物とその外来生物に近縁な在来生物とが交雑することで起きる遺伝子撹乱というものがあります。全国的に有名なものに和歌山県のタイワンザル問題があります。近年では渓流魚の放流なども問題視されています。では、この遺伝子撹乱は何故問題視されるのでしょう?遺伝的な固有性が失われるというのがよくある説明ですがかなり具体性がなくわかりにくい気がします。単純に考えれば交雑したことにより遺伝的多様性は増すように思われるし事実そう思っている人も見受けられます。この疑問に進化生物学的な視点から答えてみようというのが今回の趣旨です。
 まず、交雑するほど近縁ということはその外来生物は在来生物とほぼ同じ資源を必要としている場合が多いです(ここでいう資源には餌や生息地だけでなく産卵場所や配偶者といったものも含みます)。タイワンザルとニホンザルはほぼ同じものを食べますし、ニホンバラタナゴとタイリクバラタナゴは同じような餌や環境、産卵場所を好みます。この結果、外来生物と在来生物の間に強い自然淘汰が働きます。自然淘汰とはおおざっぱに言って、自身の生存と次世代に残す子孫の数で争う生物間の競争です。この競争には、餌や住処をめぐる争いのほか、配偶者をめぐる争いも含まれます。自然淘汰に敗れた場合、敗れた方は子孫の数が少なくなってゆき、やがて絶滅します。絶滅すれば、遺伝的多様性も失われます。これらのことから、在来生物のことを考慮しない近縁な外来生物の侵入は、在来生物を絶滅しやすくさせているだけといえます。
 交雑するほど近縁な外来生物を持ってくるということは在来生物が遺伝子を残しにくい環境をわざわざ作っているということです。たとえばシナイモツゴでは近縁種のモツゴが侵入したことでシナイモツゴのオスが遺伝子を残す機会が失われています。モツゴのオスがシナイモツゴや同種のメスと交配できるのに対し、シナイモツゴのオスはモツゴのメスと交配することはほとんどありません。つまりシナイモツゴのオスが遺伝子を残すには同種のメスと交配するしかなく、さらにその配偶者はモツゴにとられて数少なくなっているのです。
 遺伝子撹乱の問題は“何を残すのか?”という視点をしっかり持っていないと誤解しやすいのかもしれません。また、生物多様性という言葉の“多様性”という部分も誤解を招いている一因なのでしょう。ここについてはまた今度。


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