創作「それはそこにある」

2010-09-29 11:20:48 | Weblog



その男の表情ときたら、

悲劇的なまでに哲学的だった。

いや、

哲学的なまでに悲劇的だったというべきか。


まぁとにかく、

そんな悲壮な雰囲気が漂ってたんだ、

大体はわかるだろう?


それで俺は

哲学なんかもちろん、知ったことではないのだけれど、

偶然ではないにしろ(偶然など、この世のどこにもない。)

久しぶりに会ったのだし、

話をしてみるくらいはいいかなと思ったんだ。

あとから考えると・・・・

まぁそれはそれでいいさ。


それでその男が俺に、何て言ったと思う?

っていうか、何を語ったと思う?


「万物の不死性について」だと。


俺は思わず、尋ねない訳にはいかなかったね。

「あんた、どうかしてるんじゃないのか?」ってさ。


そいつは、暗い眼をしていた。

髪の毛は長くてくしゃくしゃ、

無精髭が少し伸びている。

長い手足、くたびれた、どぶねずみ色のスーツ。


その次に奴は言ったんだ、

「あんたとは友達になれたかも知れないのにな」って。


それ以上に哀しい言葉って、なかなかないと思ったね。


俺はその時の事を決して忘れはしないだろう。

いや、明日にはもう忘れているかもしれないけど。


気がついてみれば

夏なんてとっくに過ぎ去ってしまっていたし、

華やかだった季節のことなんて

俺には知る手がかりもない。


だけど・・・。


とりあえずは、そういうことだ。

今のところ、それがすべて。


それで、俺としては未だに考えあぐねてるんだ。


「万物は不死」なのかどうか。










コメント
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