その男の表情ときたら、
悲劇的なまでに哲学的だった。
いや、
哲学的なまでに悲劇的だったというべきか。
まぁとにかく、
そんな悲壮な雰囲気が漂ってたんだ、
大体はわかるだろう?
それで俺は
哲学なんかもちろん、知ったことではないのだけれど、
偶然ではないにしろ(偶然など、この世のどこにもない。)
久しぶりに会ったのだし、
話をしてみるくらいはいいかなと思ったんだ。
あとから考えると・・・・
まぁそれはそれでいいさ。
それでその男が俺に、何て言ったと思う?
っていうか、何を語ったと思う?
「万物の不死性について」だと。
俺は思わず、尋ねない訳にはいかなかったね。
「あんた、どうかしてるんじゃないのか?」ってさ。
そいつは、暗い眼をしていた。
髪の毛は長くてくしゃくしゃ、
無精髭が少し伸びている。
長い手足、くたびれた、どぶねずみ色のスーツ。
その次に奴は言ったんだ、
「あんたとは友達になれたかも知れないのにな」って。
それ以上に哀しい言葉って、なかなかないと思ったね。
俺はその時の事を決して忘れはしないだろう。
いや、明日にはもう忘れているかもしれないけど。
気がついてみれば
夏なんてとっくに過ぎ去ってしまっていたし、
華やかだった季節のことなんて
俺には知る手がかりもない。
だけど・・・。
とりあえずは、そういうことだ。
今のところ、それがすべて。
それで、俺としては未だに考えあぐねてるんだ。
「万物は不死」なのかどうか。