インドで作家業

ベンガル湾と犀川をこよなく愛するプリー⇔金沢往還作家、李耶シャンカール(モハンティ三智江)の公式ブログ

カシミール民話/奇跡の指輪2

2008-03-07 01:24:38 | 現地語&民話
それから、みんなで丘の近くまで行きました。ふもとに泉が湧き上げて
いるのを見た犬と猫は言いました。
「ぼくたちは、ここで何をすればいいんですか」
若者は申しました。
「自分が戻ってくるまで、そこで待ちなさい。そう遠くには行かないか
ら」
このように申して、蛇と共に泉に飛び込み、目に水を撒き散らし消えま
した。彼らが去ったあと、犬が言いました。
「ぼくたちはこれから、どうすればいいの」
猫が答えました。
「ご主人がここで待ってなさいと言ったのだから、この場を離れてどこ
かに行くのはよくない。でも、おなかがとっても空いたなあ、おまえ、
ここにいろよ。おれ、ちょっくら村の近くまで行って、二人分の食料を
調達してくるから」
猫はしばらくして戻ってきて、二人は思う存分飲み食いし、飼い主が
戻ってくるのを待ちました。

            

若者と蛇は、無事に父王のそばにたどり着きました。父王はわが子とそ
の客人に、自分のそばに来るように申しました。しかし、息子は言いま
した。
「彼は私の命の恩人です。よって、彼のそばに奴隷のようにお仕えして
いるのです、おそばを離れることはできません」
で、父王は自ら、彼らの元に赴き、息子を抱擁し、客人を歓迎し、王宮
に連れて行くと告げました。
若者は王宮で何日も楽しく過ごしました。王は息子を戻してくれたお礼
に、右手の指輪と、貴重な皿とスプーンをギフトとして与えました。

                        

若者が戻ってきました。犬と猫はご主人を見て、大喜びしました。みな
で連れ立って、川へ行くことにしました。若者は、指輪と皿やスプーン
の魔術を試してみたかったのです。指輪に命令を与えるや否や、一軒の
美しい宮殿が出現しました。皿とスプーンにも命令すると同時に、あり
とあらゆるおいしいご馳走が目の前に現われました。すばらしい宮殿
と、美しく気の利いた妻と共に、何年も幸福な歳月が流れていきまし
た。

               

ある日、新妻は朝の沐浴時、髪の一部を切り取って、竹筒に詰め、窓か
ら川に投げ入れました。竹筒は流れに乗りながら、はるか遠くのもうひ
とつの州へたどり着きました。
そのとき、その州の王子が川岸を訪れました。竹筒を見て、水をこぼし
ながら開けると、非常に美しい一塊の金髪が漏れ出てきました。これ
は、どこかの州の王女のものにちがいないとつれづれに思いを巡らしま
した。
彼は王女を手中にするまでは、飲み食いはじめ、公務は一切できないと
告げて、自室のドアを閉め切って臥せってしまいました。王子は深い恋
患いをしておりました。王女を手に入れなければ、断食の果てにいずれ
は死に直面し、おのれの系譜は途絶えてしまうだろうと大いに悩み、周
章狼狽しておりました。

           

この王子には、遠縁のおばがおりました、彼女は実は、さまざまに姿形
を変えることのできる怪物でした。王は、おばの助けを借りるために、
呼びにやり、一切合財打ち明けました。
怪物は、助力を与えることに同意し、一羽のミツバチに変身し、あちこ
ちに飛び交い、鋭い嗅覚によって、美しい人妻を発見しました。次に老
女に姿を変えると、杖をこつこつ突いて、美貌の新妻のそばにたどり着
き、あなたの伯母ですよと自己紹介しました。
何年か後、新妻に女児が授かりました。国外へ出て、老婆からさまざま
に魅力的な言葉をかけられたものの、幼女はすべて忘れてしまいまし
た。美貌の新妻も、老女を頭から信じ切り、自室に連れて行き、世話を
焼きました。老女はこの家に三日間居座ったあげくに、奇跡の指輪の匂
いを嗅ぎつけました。そのときには、新妻とは非常に親しい間柄になっ
ていました。
この機会をすかさずとらえて、老女は言いました。
「指輪はあなたの手元にありますが、いつ何時、森に狩猟に出かけたご
主人が危険に遭遇しないとも限りませんよ」
新妻は老女の言葉を真に受けて、夫に指輪を渡すように申しました。

                       

狡猾な怪物は指輪を見て、矢庭に手でつかみ、突然ミツバチに姿を変
え、飛び去りました。怪物はまっすぐ宮殿に向かいました。そのとき、
王の息子は飲み食いできず、完全に弱っていました。怪物は指輪の魔術
について王子に話しました。王子がとっさにつかみ命令を下すや、宮殿
と美しい花嫁が現れ、園におりました。王子は美しい花嫁を見て、うろ
たえました。結婚したいとすぐさまプロポーズしました。美貌の人妻は
一月待ってくださいというより他に、どんな言い逃れの手段も見つける
ことはできませんでした。

                                 (つづく)
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