一月ほど前、知人から一冊の本を頂いた。
「宝の海を取り戻せ~諫早湾干拓と有明海の未来~」(新日本出版社発行)
有明海をなんとか救いたいと、あるジャーナリストがまとめた渾身の一冊だった。
ギロチンと呼ばれた諫早湾潮受け堤防が閉め切られてから、もう12年が過ぎた。
あれほど連日TVで流された諫早干拓問題がその後どうなっていたのか、私は全く知らなかった。
知ろうともしなかった。
長崎県に越してきてやっと1年を過ぎたこの夏、ようやく知るきっかけが訪れた。
といっても、その知識はほんの少しの断片的なもので、全体像や経緯はまるでわかっていない。
そんな私のために送って下さった貴重な本なのだが、日々のあれこれに追われ、なかなか読み進めず、
やっと今日読み終えた。
そして、私にもようやくその全貌が見えてきた。
なぜ有明海は「宝の海」と呼ばれるのか。
あの広大な干潟がどれだけ優れた天然浄化処理施設であるか。
諫早湾干拓工事が始まって犠牲になったのはムツゴロウだけではない。
生物学的に貴重な特産種が絶滅の危機に瀕し、
漁民の生活を支える魚介類が減少、タイラギのように全く捕れなくなったものもある。
そしてノリの不作。
本の中で紹介されている映画『有明海に生きて 100人に聞く 海と漁の歴史と真実』の岩永監督は、
多くの漁民や研究者を取材して、その結果、「有明海は死の海になる可能性がある」と心配している。
『宝の海』が『死の海』に・・・。
なぜ、こんなことがおきるのだろう?
なぜ、こんな愚かなことを「公共事業」としてやってきたのだろう?
科学技術振興機構(JST)がまとめた『失敗百選』に諫早湾干拓事業が選ばれているという。
早速インターネットで検索したら、確かにあった。
JSTは文部科学省の外郭団体である。
その国の外郭団体が、国営事業の諫早湾干拓を「典型的な失敗事例」として紹介しているのだ。
事例名称=国営諫早湾干拓事業による漁業被害
事例概要=1997年4月14日、多くの漁業関係者、地元住民の反対を押し切り、
諫早湾潮受け堤防の水門が閉ざされた。
これにより、国営諌早湾干拓事業が開始され2004年現在既に9割以上の工事が終了している。
しかし、国営諫早湾干拓事業は、有明海異変に少なからず影響を与えたと言われ、
ノリを始めとする漁獲高の減少をはじめ、水産業振興の大きな妨げにもなっている。
国と長崎県には、この事業に対して適正な再評価を行い、その情報を公開するべきであり、
事業を中止することの検討も求められている。
漁業被害の原因として、次のように箇条書きされている。
・海砂採取のために掘った穴が、貧酸素水塊の温床となっている。
・潮受け堤防の存在は、潮流を弱くし潮位を上げる原因となっている。
・調整池から排出される「汚水」が、有明海全域を汚染している。
・潮受堤防が締め切られたことにより高い浄化機能を保持していた諫早干潟が減少し、
調整池からの排水のため、有機物やリン、窒素などの流れ出す量が増加している。
・穴、堤防、汚水、共に赤潮発生の要因となっている。
にも関わらず、2008年3月31日、干拓事業は終了した。
そして、現在では、
調整池の水質悪化、夏には有毒なアオコやユスリカが発生。
毎年30億円以上の経費をかけて対策を講じても、よくなる兆候はないらしい。
赤潮の発生は年々増加し、今年は養殖ハマチの大量死も発生した。
この本の著者は言う。
「事業が終わったからといって、その巨大な爪痕が消えるわけではなく、
被害はますます深刻になるばかりです。
2500億円余の巨費をつぎ込んで、有明海漁業を衰退させ、
地域社会を崩壊させる公共事業の公共性とは何なのか。
私は、まやかしの公共事業を二度と許してはならないという気持ちを込めて
本書を書いてきました」と。
「まやかしの公共事業」のツケは大きい。
漁民の生活を苦しめ、有明の海を苦しめ続けている。
しかし、その漁民たちは言う。
「開門すれば、有明海は必ず再生します」と。
昨年7月、原告漁民の一人、松永さんは法廷でこう述べた。
海の回復力は本当にすごいものです。
一時的に水揚げが悪くなっても、環境が少しでも良くなれば、シャコなどの小さな生き物が爆発的に
発生し、海は一気に回復します。
平成14年の短期開門調査の時も、その急激な海の回復が起こりました。
開門調査の次の年、水揚げが格段に増えました。短期開門だけでも、海は回復したのです。
私たち漁民は、そのことを肌で強く感じています。
国は、漁業被害対策を行ってきました。しかし、何の効果もありません。どんな小細工も通じません。
国の対策はすべて失敗だったじゃないですか。
開門しかないのです。開門すれば何もしなくても海は急激に回復します。
この漁民の声が、新政府に届くことを祈っている。
新農水大臣は、開門を迫る佐賀県と拒む長崎県の陳情を受け、「地元の皆さんで話し合ってください」
などと逃げ腰になっているが、それはおかしいと思う。
国の事業の後始末は、国が責任を持ってやってほしい。
『失敗百選』に選ばれるほどの不名誉な事業をやってしまったのだから。
公正に科学的に有明海の現実を直視し、最良の道を選択する決断を一日も早く…と願っている。
「宝の海を取り戻せ~諫早湾干拓と有明海の未来~」(新日本出版社発行)
有明海をなんとか救いたいと、あるジャーナリストがまとめた渾身の一冊だった。
ギロチンと呼ばれた諫早湾潮受け堤防が閉め切られてから、もう12年が過ぎた。
あれほど連日TVで流された諫早干拓問題がその後どうなっていたのか、私は全く知らなかった。
知ろうともしなかった。
長崎県に越してきてやっと1年を過ぎたこの夏、ようやく知るきっかけが訪れた。
といっても、その知識はほんの少しの断片的なもので、全体像や経緯はまるでわかっていない。
そんな私のために送って下さった貴重な本なのだが、日々のあれこれに追われ、なかなか読み進めず、
やっと今日読み終えた。
そして、私にもようやくその全貌が見えてきた。
なぜ有明海は「宝の海」と呼ばれるのか。
あの広大な干潟がどれだけ優れた天然浄化処理施設であるか。
諫早湾干拓工事が始まって犠牲になったのはムツゴロウだけではない。
生物学的に貴重な特産種が絶滅の危機に瀕し、
漁民の生活を支える魚介類が減少、タイラギのように全く捕れなくなったものもある。
そしてノリの不作。
本の中で紹介されている映画『有明海に生きて 100人に聞く 海と漁の歴史と真実』の岩永監督は、
多くの漁民や研究者を取材して、その結果、「有明海は死の海になる可能性がある」と心配している。
『宝の海』が『死の海』に・・・。
なぜ、こんなことがおきるのだろう?
なぜ、こんな愚かなことを「公共事業」としてやってきたのだろう?
科学技術振興機構(JST)がまとめた『失敗百選』に諫早湾干拓事業が選ばれているという。
早速インターネットで検索したら、確かにあった。
JSTは文部科学省の外郭団体である。
その国の外郭団体が、国営事業の諫早湾干拓を「典型的な失敗事例」として紹介しているのだ。
事例名称=国営諫早湾干拓事業による漁業被害
事例概要=1997年4月14日、多くの漁業関係者、地元住民の反対を押し切り、
諫早湾潮受け堤防の水門が閉ざされた。
これにより、国営諌早湾干拓事業が開始され2004年現在既に9割以上の工事が終了している。
しかし、国営諫早湾干拓事業は、有明海異変に少なからず影響を与えたと言われ、
ノリを始めとする漁獲高の減少をはじめ、水産業振興の大きな妨げにもなっている。
国と長崎県には、この事業に対して適正な再評価を行い、その情報を公開するべきであり、
事業を中止することの検討も求められている。
漁業被害の原因として、次のように箇条書きされている。
・海砂採取のために掘った穴が、貧酸素水塊の温床となっている。
・潮受け堤防の存在は、潮流を弱くし潮位を上げる原因となっている。
・調整池から排出される「汚水」が、有明海全域を汚染している。
・潮受堤防が締め切られたことにより高い浄化機能を保持していた諫早干潟が減少し、
調整池からの排水のため、有機物やリン、窒素などの流れ出す量が増加している。
・穴、堤防、汚水、共に赤潮発生の要因となっている。
にも関わらず、2008年3月31日、干拓事業は終了した。
そして、現在では、
調整池の水質悪化、夏には有毒なアオコやユスリカが発生。
毎年30億円以上の経費をかけて対策を講じても、よくなる兆候はないらしい。
赤潮の発生は年々増加し、今年は養殖ハマチの大量死も発生した。
この本の著者は言う。
「事業が終わったからといって、その巨大な爪痕が消えるわけではなく、
被害はますます深刻になるばかりです。
2500億円余の巨費をつぎ込んで、有明海漁業を衰退させ、
地域社会を崩壊させる公共事業の公共性とは何なのか。
私は、まやかしの公共事業を二度と許してはならないという気持ちを込めて
本書を書いてきました」と。
「まやかしの公共事業」のツケは大きい。
漁民の生活を苦しめ、有明の海を苦しめ続けている。
しかし、その漁民たちは言う。
「開門すれば、有明海は必ず再生します」と。
昨年7月、原告漁民の一人、松永さんは法廷でこう述べた。
海の回復力は本当にすごいものです。
一時的に水揚げが悪くなっても、環境が少しでも良くなれば、シャコなどの小さな生き物が爆発的に
発生し、海は一気に回復します。
平成14年の短期開門調査の時も、その急激な海の回復が起こりました。
開門調査の次の年、水揚げが格段に増えました。短期開門だけでも、海は回復したのです。
私たち漁民は、そのことを肌で強く感じています。
国は、漁業被害対策を行ってきました。しかし、何の効果もありません。どんな小細工も通じません。
国の対策はすべて失敗だったじゃないですか。
開門しかないのです。開門すれば何もしなくても海は急激に回復します。
この漁民の声が、新政府に届くことを祈っている。
新農水大臣は、開門を迫る佐賀県と拒む長崎県の陳情を受け、「地元の皆さんで話し合ってください」
などと逃げ腰になっているが、それはおかしいと思う。
国の事業の後始末は、国が責任を持ってやってほしい。
『失敗百選』に選ばれるほどの不名誉な事業をやってしまったのだから。
公正に科学的に有明海の現実を直視し、最良の道を選択する決断を一日も早く…と願っている。
いま、東京から、元衆議院議員の保坂展人さんが長崎に来ています。つい3か月ほど前まで、「公共事業チェック議員の会」の事務局長をなさってた方で、今はジャーナリストとしても大活躍。
今回は、公共事業の原点とも言うべき「諫早の失敗」を再検証してみようという強い意気込みで取材なさっています。
八ッ場ダムのときのように、世論を動かすような記事を書いていただけるかも…と期待しています。
じじょさんの故郷でしたか、諫早の海は。
全国各地で干潟を守る運動が活発化していますが、諫早のガタは日本最大の干潟なんですね。
ガタの素晴らしさ、ガタの浄化作用の威力は驚きです。
こういうこと、学校でももっとしっかり教えてほしいし、マスコミでも報道してほしいですよね。
そして、海の再生に向かって、一日も早く開門されるように・・・
私も署名活動、ほんの少しですが、参加しています。
あきらめずに、願い続けましょう。