玄関のチャイムが鳴ったので出てみると、両手にいっぱいの野菜を抱えたご近所さんが立っていた。
「うちの家庭菜園で採れた野菜。新鮮だから生のまま食べられるよ」
そういって野菜を手渡してくれた。
採れたての春菊と小松菜が山盛り。
この方は前に新しい山道を教えてくれたご近所さんで、つい最近まで乳がんの再手術を受ける為に入院をされていた。
畑から帰ったままの泥の付いた長靴を履いて、手術を受けたばかりとはとても思えない。
「もう大丈夫なの?」と聞くと、「うん大丈夫!」と言って笑った。
「そう、よかった」と言うと、「食べて。じゃあね」と言って足早に去って行った。
退院して三日目で、もう庭仕事をやっているなんて彼女の体力には驚かされるが、元気そうな様子で本当によかった。
やっぱり大好きな庭仕事をしている時の彼女は、生き生きとしている。
「私いままで自分を押えて我慢ばかりして生きてきた気がするの。でも、もう我慢はしない。自分が好きなことをたくさんやりたい」
入院前に偶然会って話をした時、彼女が語った言葉だ。
自分の好きなことは大切にした方がいいと、最近つくづく思う。
じゃあ、私の好きなことは一体何だろうかと考える。
植物や自然。それから鳥や蛇以外の動物。料理、温泉、掃除、ピアノ、健康に関する事。
おっと、忘れてはいけないのが先祖供養に神祀り。
考え始めたらまだまだ出てくる・・・
これホント好きなんだよね~と、毎日思って生活しているわけではないが、考えてみたら特別なことではなく日常的に目にしたり行ったりしていることばかりだった。
昔は家事と子育て以外、何もせずに生きていていいのだろうか、打ち込める趣味や仕事を持たなきゃなどと焦ったこともあったが、今は無理して特別な何かを持たなくてもいい、自然体でいいと思うようになった。
自分以外の他人は、自分にはない特別なものを持ってキラキラ輝いているように見えるものだが、多分それはその人が好きな事を夢中でやっているから?
家庭菜園でも家事でも好きなことを楽しんでやっていたら、ご近所さんのようにキラキラ生き生きしてくるのかもしれない。
「楽しめ楽しめ」
またそんな声が聞こえた気がした。