ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

ネイチャー・ボーイズ (Nature Boys)

2008年04月19日 | 名盤


 小曽根真といえば、日本が世界に誇るミュージシャンのひとりです。
 彼の活躍する場は、ジャズのフィールドだけにとどまるものではなく、演劇とコラボレイトしたり、クラシックに取り組んで交響楽団と共演するなど、とても幅が広いですね。最近ではドラマ「あしたの、喜多善男」の音楽も担当しています。



小曽根 真


 ジャズの世界の小曽根氏を見ても、ピアノ・トリオを始め、ヴォーカルやヴィブラフォーンとのデュオ、ピアノ2台によるデュオ、ビッグ・バンドなど、あらゆる可能性にトライしています。
 その中で、ありそうでなかなか見つからないのが小曽根氏によるスタンダード集でした。彼がリーダーを務めるバンドでは、歌モノを除き、ほとんどが彼自身によるオリジナルを演奏しています。ぼく自身、小曽根氏に対して、「オリジナル曲を追求してゆく人」、みたいなイメージを持っていました。そんな中で見つけたのが、この『ネイチャー・ボーイズ』です。


 なんでも巷では一時、「小曽根にバップができるはずがない」という評もあったそうです。このアルバムの録音には、そういう風評を吹き飛ばす、という目的もあったらしいです。
 しかしスタンダード集といっても、小曽根氏の場合、通りいっぺんの演奏で終わるはずもありません。どの曲にも小曽根流のスパイスがふりかけられています。といっても奇をてらったアレンジではありません。そしてそのアレンジによって「アメリカン・クラシック・ポピュラー・ソングス」が新たな光をもって蘇っているのです。
 バックを務めるのはジョン・パティトゥッチとピーター・アースキン。いずれも一騎当千のツワモノです。



ジョン・パティトゥッチ


 全9曲のうち、4曲目の「ビフォー・アイ・ワズ・ボーン」だけが小曽根氏のオリジナル。残りは「オール・オブ・ユー」「バット・ビューティフル」「恋人よ我に帰れ」「ゴージャス」「クリスマス・ソング」「オーニソロジー」、ニール・セダカのカヴァー「雨に微笑を」、最後にピアノ・ソロで「ネイチャー・ボーイズ」が収録されています。


 1曲目の「オール・オブ・ユー」、イントロから実に躍動的です。テーマに入ると2ビートでパティトゥッチのベースが絡み、2コーラス目からは三者がよくスウィングしながら軽快に曲が進んでゆきます。シンコペーションをうまく使ったブリッジがとても印象的。
 「バット・ビューティフル」は、もともとはバラード・ナンバーですが、小曽根氏はこれをジャズ・ワルツに再構築しています。
 「恋人よ我に帰れ」はアースキンの刻むシンバルで始まります。テーマは小節数と休符の数を増やし、ゆったり聴こえるように演奏していますが、サビに入ったところから一転して全員が超高速4ビートになだれこむのがスリリング。
 「ビフォー・アイ・ワズ・ボーン」は小曽根氏のオリジナル。音がきらめくようなバラードです。



ピーター・アースキン


 「雨に微笑を」は、もともと小曽根氏の演奏がテレビのCFに使われていたのですが、このアルバムの録音のためにさらに小曽根氏自身が手を加えています。美しいイントロに続いて現れるのがスピーディーなジャズ・ワルツ。静と動を併せ持っているような曲です。
 「ゴージャス」と「クリスマス・ソング」は極上のバラード。美しいメロディーを持っている「ゴージャス」は、一種神々しささえ感じます。
 「クリスマス・ソング」は、ぼくが最も好きなクリスマス・ソングで、いろんなヴァージョンがありますが、これにはリハーモナイズ(コード進行の再現)が施してあったり、エンディングでは3連になるなど、また違った味わいを楽しむことができます。
 「オーニソロジー」は「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」のコードを元にした、チャーリー・パーカーの愛奏曲です。バップの香りが漂う、軽快な4ビートです。
 「ネイチャー・ボーイズ」はタイトル曲。マイナー調の哀愁漂うスタンダード・ナンバーで、ソロ・ピアノで演奏されています。


 流麗なパティトゥッチのベース、タイトでメリハリの利いたアースキンのドラムを従えた小曽根氏のピアノ、端正で知的な雰囲気がよりいっそう引き立っているような気がします。この三者がブレンドされたサウンド、まるでレギュラー・トリオのようにアグレッシヴで、意思のあるまとまりを見せていると思います。
 でも、驚くことにパティトゥッチもアースキンも、初見の状態で録音に臨んだそうで、それでもこれだけ綿密にコラボレイトできるということは、三人の並外れた力量をも物語っているとも言えるでしょう。


 「スタンダード集」だとはいえ、「小曽根流のスパイス」がよく利いていて、小曽根氏のオリジナル作品と言ってもよいくらい、彼の味・雰囲気に満ちているアルバムではないでしょうか。






◆ネイチャー・ボーイズ/Nature Boys
  ■演奏・プロデュース
    小曽根真
  ■アルバム・リリース
    1995年12月1日
  ■レコーディング
    1995年10月4日~5日 ハッター・スタジオ(ロサンゼルス)
  ■レコーディング・エンジニア
    バーニー・カーシュ/Bernie Kirsh
  ■収録曲
    ① オール・オブ・ユー/All Of You (Cole Porter)
    ② バット・ビューティフル/But Beautiful (Jimmy Van Heusen, Johnny Burke)
    ③ 恋人よ我に帰れ/Lover Come Back To Me (Sigmund Romberg, Oscar HammersteinⅡ)
    ④ ビフォー・アイ・ウォズ・ボーン/Before I Was Born (小曽根真)
    ⑤ 雨に微笑みを/Laughter In The Rain (Neil Sedaka, Philip Cody)
    ⑥ ゴージャス/Gorgeous (Mitchell Forman)
    ⑦ クリスマス・ソング/The Christmas Song (Mel Torme, Robert Wells)
    ⑧ オーニソロジー/Ornithology (Charlie Parker, Benny Harris)
    ⑨ ネイチャー・ボーイ/Nature Boy (Eden Ahbez)
  ■録音メンバー
    小曽根真 (piano)
    ジョン・パティトゥッチ/John Patitucci (bass)
    ピーター・アースキン/Peter Erskine (drums)
  ■レーベル
    VERVE


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6 コメント

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おこんばんわん (Nob)
2008-04-20 22:41:37
そう!小曽根さん、聴かなくちゃ♪
持っているアルバムは未だに塩谷さんとの 「DUET」だけなのです(汗)
あとは、葉加瀬さんのアルバムに入っていた1曲,「WE ARE ALL ALONE」。
やはり初心者としてはスタンダードから入りたいですね。
「雨に微笑を」を聴いてみたいですが、この曲ってジャズの人が弾くのは珍しくないですか?
Unknown (Anne)
2008-04-21 01:11:49
小曽根真・・・
わたしの知らない日本のミュージシャンは
まだまだ五万といそうです
色んな人を紹介してくださいね~
Nobさん (MINAGI)
2008-04-21 08:37:57
おはようごじゃります~
塩谷哲さんとの「DUET」、ぼくは未聴なんですよ。たしか別売の2枚組ですよね。評判良さそうなのでいずれ聴いてみたいと思っております。
小曽根トリオなどを聴いてみると、あんまりスタンダード集はなさそうなので、このアルバムなんか聴くにはいいかもですよ。
「雨に微笑を」、ジャズでは聴いたことないですね。小曽根さん自身もライナーで「ノーマークの曲だった」と書いてましたよ。
Anneさん (MINAGI)
2008-04-21 08:43:18
小曽根さんは、今、ニューヨークを拠点に活動されているのかな。日本が世界に誇れるジャズ・マンのひとりです。
あ、逆に最近のミュージシャンはぼくよりAnneさんの方がよく知っているかも。
了解いたしました~ 結構ぼくも聴くものが偏っているのですが、その中でも好きなものを書いてゆきたいと思います。(^^)
 
Unknown (Anne)
2008-04-21 23:59:28
>最近のミュージシャンはぼくよりAnneさんの方がよく知っているかも

そんな事はないですよ~
いつも私は出遅れみたい(笑)
日本の最近のミュージシャンもネット友達が
これいいよ!って教えてくれて初めて知るから
2年後くらい遅い?
Anneさん (MINAGI)
2008-04-22 11:09:58
「出遅れ」のAnneさんよりさらに出遅れているぼく・・・(笑)
たまに音楽番組を見るんだけど、知らない曲ばかり。
2年前の曲もほとんど知らないんですよ~
後追い、後追いで聴いていってるけれど、なかなか時代に追いつけません。
いつだったかAnneさんが好きな曲をズラッと挙げてたでしょう? あれ、ぼくが知っている曲半分もなかったんですよ(^^;)
あ~、自分が年寄りのような気がしてきた(笑)

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