カルメン・マキが、アンダーグラウンド・フォークからロックに転じて、初めて発表したのがこのアルバムです。
ブルース・クリエイションは、人気グループ・サウンズ、ジャガーズの弟分的バンドだったビッキーズを母体として生まれました。そのサウンドは、当初はブルース・ロックでしたが、次第にハードなものへとシフトしてゆきます。このアルバムあたりは、まだハード・ロックへの過渡期にあるようです。
カルメン・マキ
ヴォーカルも演奏も若々しい! とくにブルース・クリエイションの演奏、荒削りながら若さいっぱいで、とてもみずみずしいです。この時、看板ギタリスト・竹田和夫の年齢が弱冠18歳。すでに「天才ギタリスト」と評されていました。
マキのヴォーカルは、のちのOZ時代に比べておとなしめ、というか、やや抑え気味ですが、伸びやかでメタリックなハイ・トーン・ヴォイスはこの頃から健在です。一語一語に感情をこめて大切に歌っていて、ハードというより美しさを感じる歌声です。
全8曲中、カヴァーが3曲、竹田和夫のペンによるものが5曲。しかも全曲英語詞です。当時は『日本語はロックにのるかどうか』という論争の真っ只中で、このアルバムはその討論に対するブルース・クリエイション側からのひとつの回答と見ていいでしょう。ブルース・クリエイションは「英語派」の内田裕也と近かったことを考えると、全編英詞だというのはある意味当然だと思われます。事実、のちのクリエイションも積極的に英語で歌い、ある時期には海外進出まで目論んでいました。しかしマキは、このアルバムでは英語で歌っていますが、対照的にOZでは日本語詞でロックし続けることに成功、「ロックは日本語で歌えるか」という命題にマキなりの答えを出しています。
カルメン・マキ
1曲目の「Understand」、いきなりスピーディーでゴツゴツしたギター・リフが飛び出してきます。この曲は「ファンタジー」というアメリカのハード・ロック・バンドのカヴァーです。挨拶がわりにいきなりハード・パンチをお見舞いされた、という感じでしょうか。
3曲目の「Lord, I Can't Be Going No More」は、レッド・ツェッペリンの「貴方を愛し続けて」を彷彿とさせるマイナー・ブルースです。
5曲目はトラッド・フォークの名曲、「Motherless Child」です。ディストーションのかかったベースにハードなギターが被り、曲は一転ブレイクしてマキのアカペラに引き継がれます。元はフォーク・ナンバーですが、見事にブリティッシュ・ハード・ロック風味を出していると思います。
「Mean Old Boogie」はブギーとハードなエイト・ビートをメドレーっぽく繋いでいます。
「St. James Infirmary」は古いスタンダードで、マイナー・ブルース。この曲も、クリエイション風ブリティッシュ・ブルース・ロックに生まれ変っています。
バックの演奏は、レッド・ツェッペリンを始めとするブリティッシュ・ロックの影響を色濃く受けているように思えます。サウンドの鍵はやはり竹田和夫が握っていますね。ブリティッシュ・ロックを彼らなりにうまく消化しているので、ブルース・ロック好きにはこたえられないアルバムに仕上がっているのではないでしょうか。また、のちのクリエイションへ繋がるサウンドも、既にこのアルバムから聴くことができます。
マキのヴォーカルは、よく「和製ジャニス・ジョプリン」などと言われますが、このアルバムではグレイス・スリック(ジェファーソン・エアプレイン)からも影響されている部分があるのが窺えます。
ブルース・クリエイション
このアルバムを出したのち、ブルース・クリエイションは解散。その後竹田和夫はクリエイションを結成し、日本のロック界の屋台骨を支えることになります。
マキは、春日博文らとカルメン・マキ&OZを結成、ハード・ロックバンドとしてロック界の一方の旗手となりました。とくにマキの女性ロッカーとしての存在は広く支持され、多くのフォロワーを生みました。
このアルバムは、日本のハード・ロック界の黎明期に、これだけ質の高いサウンドを出せるミュージシャンが存在したことの証明になるでしょう。
◆カルメン・マキ/ブルース・クリエイション Carmen Maki/Blues Creation
■リリ-ス
1971年8月25日
■録音メンバー
カルメン・マキ(vo)
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ブルース・クリエイション
竹田和夫(g)
佐伯正志(b)
樋口晶之(drs)
■収録曲
① アンダースタンド/Understand (Lydia J. Miller)
② アンド・ユー/And You (竹田和夫)
③ ロード、アイ・キャント・ビー・ゴーイング・ノー・モア/Lord, I Can't Be Going No More (竹田和夫)
④ 空しい心/Empty Heart (竹田和夫)
⑤ 母のない子/Motherless Child (traditional)
⑥ 今日を生きられない/I Can't Live For Today (竹田和夫)
⑦ ミーン・オールド・ブギー/Mean Old Boogie (竹田和夫)
⑧ セント・ジェイムス病院/ST. James Infirmary (J. Primrose)