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中田秀夫監督『クロユリ団地』その1

2014-06-15 12:25:00 | ノンジャンル
 中田秀夫監督の'13年作品『クロユリ団地』をWOWOWシネマで見ました。
 “二宮”の表札。飛鳥(前田敦子)は引越しの荷ほどきを両親と弟とともにします。母に隣の部屋に挨拶の届け物をするように言われますが、隣のドアは少し開くものの無言のまま閉じられます。飛鳥はドアノブに届け物をぶらさげ、散歩に出ると、砂場で泥団子を作っている少年に声を掛けますが、少年は逃げてしまいます。飛鳥が帰ってくると、隣の部屋のドアノブにぶらさげた届け物はなくなっています。
 夜中に隣の部屋から物を引っ掻くような音がして、ベランダに出る飛鳥。
 朝の5時半には隣から目覚まし時計の音が聞こえてきて、鳴り止みません。スーツ姿の飛鳥に両親は腕時計をプレゼントしてくれます。
 介護の専門学校の同級生にクロユリ団地に引越して来た話をすると、同級生の1人はその団地に幽霊が出るという話をします。
 翌朝、昨日の朝と同じ会話をする両親。飛鳥は砂場で泥団子を作っていた少年ミノルと親しくなり、今度から1人で遊んじゃダメと言いますが、ミノルは飛鳥の隣室に住んでいるお爺ちゃんと知り合いだと言い、飛鳥にまた遊んでと言います。その夜、悪夢にうなされる飛鳥。
 翌日、授業で老夫婦の遺体が死後2週間経って発見されたと聞いた飛鳥は、隣室のドアを開き、暗い部屋に入っていきます。灯りはつかず、携帯の灯りで照らしながら奥へ入っていくと、先日飛鳥が届けた届け物は開かれていました。異臭に鼻を押さえる飛鳥。やがて飛鳥は老人の死体を見つけます。
 刑事は飛鳥に、老人の奥さんは大分前に亡くなっていて、子供もいなかったと伝えます。飛鳥に手を振るミノル。
 夜中にまた隣の部屋から物を引っ掻くような音がし、飛鳥が隣の部屋のドアの覗き窓から中を見ると、人影が見えます。
 翌朝、そのことを飛鳥は家族に言いますが、家族は信じません。両親はまた同じ会話をします。明るくなった隣室を訪れた飛鳥は、そこで清掃作業員の笠原と知り合います。笠原は遺体発見現場の清掃を専門にしていて、人影を見たり、誰かに呼ばれたりするのはしょっちゅうだと言い、死んだ人間の時間は止まっているので関わらない方がいいと言います。
 飛鳥を訪ねてきた刑事は、老人は心臓発作による自然死で、死後3日経っていたと言って去ると、その直後にミノルが訪ねてきます。夜の公園にミノルと出た飛鳥は、ミノルが「友達は皆引越したが、新しい友達ができた」と言って、飛鳥を指差すと、「自分のことを嫌いになっていた」と言って飛鳥はうれし泣きします。今度はお姉ちゃんちで遊びたいと言うミノル。
 翌日介護実習をしていると、飛鳥が抱えていた同級生が老人に姿を変え、「お前、死ぬ」と耳許でささやき、飛鳥は驚いてその同級生を突き飛ばしてしまい、周囲の白い目に耐えかねて、教室を飛び出します。
 飛鳥は笠原を訪ねると、笠原は老人の部屋ではクリーナーやスチームが突然動かなくなり、そういう場合はロクなことがないと言い、知人の霊媒師を紹介します。
 飛鳥が家に帰ると、家の中は空っぽで、家族もいません。父への電話も繋がらず、笠原に電話すると電波障害が起こり、老人の声で「お前、死ぬ」と聞こえてきます。隣の部屋を訪れた飛鳥は、老人が発見された場所の壁を老人が爪で削っていたのを発見します。飛鳥に迫る老人。恐怖に震える飛鳥。
 飛鳥の両親と弟の仏壇。飛鳥の伯父はツアーバスの転落で弟夫婦が亡くなってから飛鳥と一緒に住んでいたが、今の飛鳥は1人暮らしだと言います。
 自分の部屋で目覚める飛鳥は、自分が幼い頃の家族が朝食を取っているのを見ます。両親は幼い飛鳥に腕時計を贈り、幼い飛鳥は旅行に絶対連れてってと言います。それを止めようとする飛鳥。家族は消え、笠原が駆けつけてきます。(明日へ続きます‥‥)

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奥田英朗『ここが青山』

2014-06-14 09:04:00 | ノンジャンル
 '12年に刊行されたアンソロジー『短編工場』に収められた、奥田英朗さんの作品『ここが青山』を読みました。
 14年間勤めた会社が倒産した。36歳の湯村裕輔は、それを遅刻した朝礼で社長の口から知らされた。コンピューター関連ということで将来性を謳っていたが、実際の仕事は広告営業だった。36歳で年収600万円は、まあ普通だろう。結婚して6年の妻と、4歳の息子がいる。マンションのローンがあと30年残っている。だから会社の倒産は笑い事ではない。裕輔はとりあえず妻のケータイにメールを打った。電話だとどういう声を出していいのかわからなかったからだ。《ビッグなサプライズ。本日当社倒産!》妻の厚子からはすぐに電話がかかってきた。「これ、ほんと?」「そう。朝礼でいきなり言われちゃった。今日から失業者」「ふうん。わかった。今夜、何食べる?」「すき焼きってわけにはいかないだろうね」「いいじゃない。安い肉なら」妻への電話を終えると、同僚が麻雀をやろうと言い出した。「社長のハゲ頭を粉飾した頃からおれは危ないと思ってたんだよ」最後だからみんなで好きなことを言った。午前中からビールも飲んだ。気前よく大三元も振り込んだ。なんとなくほどけてしまったのだ。
 夕方帰宅すると、妻の厚子が美容体操をしていた。「昔のスーツ引っ張り出して着てみたら、入んなかったの。だからシェイプアップ」「ふうん」「あのね、わたし、明日から働くことにした」「えっ、どこで?」「前の職場に電話したの。アテナ経済研究所。そしたら社長が『亭主が失業? だったら君がうちに職場復帰しろ』って。それで行くことになった。給料、それなりにくれるって」裕輔は背広を脱ぎ、襟からネクタイを引き抜き、エプロンをまとった。冷蔵庫から野菜と肉を取り出した。手を洗った。ザクザクとネギと白菜を切った。明日からの一家の門出を祝うように、野菜が瑞々しかった。
 翌朝は6時に起きた。厚子が働きに出る以上、家事は自分がやらねばならないと思った。親子3人での朝食が始まった。厚子は最初に味噌汁に口をつけると、「うん、おいしい」と微笑んで言った。「昇太、おいしいよね」続けて息子に聞く。裕輔は妻のやさしさに感謝した。初めて作った味噌汁は、全然おいしくなかったのだ。食べながら、だんだんへこんでいった。自分の供した料理がおいしくないというのは、身の置き場がない。世の女たちは、自分の料理に審判が下されることに、どうやって耐えているのだろう。朝食を終えると、厚子は念入りに化粧を始め、裕輔は幼稚園に行く昇太の身支度をした。しまった。息子の弁当を作り忘れた――。膝が震えた。どうしようかと妻に相談すると、厚子は「あとで届ければいいじゃん」と実に冷静なサジェスチョンを与えてくれた。そうか。あわてて損をした。
 帰ってまず弁当を作った。どうせ昇太は食べないだろうなと思いつつ、青物が欲しかったのでブロッコリーを一房だけ塩茹でした。そのあと掃除と洗濯をした。始めると、意外と手間だった。厚子からメールがあり、夜は歓迎会で遅くなるとのことだった。よかった。家族的な職場のようだ。となると晩御飯は昇太と2人きりである。献立はカレーにするか。そうだ、昇太を迎えに行く前に料理の本を買いに行こう。裕輔は思わず手を打っていた。先は長いのだ。上達だってしたい。なにやらウキウキする感じがあった。家にいるのはいい。リビングに寝転がり、大の字になった。
 3日もすると、家事をする日常にすっかり慣れた。とりわけ闘志を燃やしたのは昇太の弁当作りだった。子供は気遣いをしない生き物なので、おいしくないと一口かじっただけで残す。案の定、初日のブロッコリーは小さな歯の跡がついていただけだった。ところが2日目、同じブロッコリーにマヨネーズをかけてやると、その部分だけかじっていた。作り手としては、「おおー」という感じだった‥‥。

 会社が倒産し、主夫になるというだけの話ですが、面白く読ませてもらいました。なお上記以降のあらすじについては、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「奥田英朗」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

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サム・ライミ監督『オズ はじまりの戦い』その2

2014-06-13 10:58:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 士気を奮い立たせるために、偉大な指導者らしく振舞ってほしいとオズに頼むグリンダは、町の人々をオズに紹介します。ガトリング族は農民たちばかり、ティンカー族はハゲで長い顎髭を伸ばす老人ばかり、マンチキンの人々は長身の兵隊でしたが、「服を作れ、歌える」と言ってガウンを脱ぐと、小人3人が肩車をしていました。彼らには殺しは許されていないとグリンダは言い、オズは途方に暮れます。やがて空にまがまがしい雲が現れ、火の玉が降って来ます。着弾した場所から現れたセオドラは、オズを操って空中に投げ飛ばします。セオドラは手の平から火の玉を放とうとしますが、グリンダがそれを消し、エヴァノラがあなたを操っていると言います。セオドラはオズが嘘つきのただの男だと言って、箒に乗って黒い煙を残し、去っていきます。
 「敵は軍隊と魔女でとても適わない」と言うオズに、グリンダは「あなたが思う以上にあなたには力があるかもしれない」と言いますが、オズは「君が望む男にはなれない」と言います。しかしオズはやがて「敵を打ち負かす方法が見つかった」と言って、『奇術のやり方』という本をグリンダに差し出します。オズは「最大のトリックを実現してやる」と言い、空間に映像を映す機械を作り、黒色火薬を大量に生産させます。一方、ウィンキー族の兵士に「容赦なくやっつけろ」と檄を飛ばすエヴァノラ。オズはティンカー族の長老に、秘かに熱気球を作るように命じます。
 出撃したオズらは、グリンダの城からエメラルド・シティに向かいます。ナックはエメラルド・シティの門番の頭を棒で何回も叩き、馬車を中に入れさせることに成功します。ケシ畑にはグリンダが霧を発生させ、その中をグリンダ側の兵士が進んでいきます。エヴァノラに命じられ、その兵士たちに襲いかかる飛ぶヒヒでしたが、兵士たちはワラ人形で、それにヒヒたちが気づいた頃には霧が晴れ、ケシ畑から発生するガスでヒヒたちは永遠の眠りに付いてしまいます。悔しがるエヴァノラとセオドラは、ケシ畑の端から森の中に退避しようとしていたグリンダを飛ぶヒヒによって捕まえ、エメラルド・シティに連れてきます。グリンダの杖を拾った陶器の娘はそれを追います。
 エメラルド・シティの中に馬車で侵入したナックは、地下組織の同志たちに行動の指図をし、やはり馬車とともに侵入したオズも所定の位置に付きます。エヴァノラはグリンダに「そのきれいな顔が我慢できない。あなたの“光”を消し、私の“闇”だけにする」と言います。オズは熱気球に黄金を積み、逃げ出し、それを見ている人々は落胆します。グリンダは火の玉を放ち、熱気球を落とします。オズの死を嘆くフィンリー。「予言は葬られた。グリンダも死ぬ」とエヴァノラはグリンダにとどめを刺そうとしますが、松明の火が次々に消え、爆発とともに現れた煙の中にオズは復活します。「星を解き放ってみせよう」と言って、花火を次々に打ち上げるオズ。エヴァノラは逃げ出します。グリンダは陶器の娘に杖をもらって脱出し、セオドラは箒に乗って逃げ出します。逃げ出そうとしていたエヴァノラを捕まえて、グリンダは戦いを臨み、戦いに負けたエヴァノラは老女に姿を変え、グリンダに父の名の下に追放されます。ヒヒに連れていかれるエヴァノラ。
 「オズの国は永遠に自由になった」というオズからの伝言を受け、喜ぶオズの人々。オズは贈り物として、ナックには笑顔の面、フィンリーには友情の証しとして自分の帽子、家族を欲しがっていた陶器の娘には、新しい家族としてここにいる皆、グリンダにはカーテンの後ろの世界と言い、カーテンの後ろにグリンダを連れていきます。グリンダはオズにもともと善良な心があったと言い、2人がキスすると、それがカーテンに影を作り、それを見たフィンリーらは2人を祝福して映画は終わります。

 原色を使ったCGが美しい映画でした。

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サム・ライミ監督『オズ はじまりの戦い』その1

2014-06-12 08:58:00 | ノンジャンル
 サム・ライミ監督の'13年作品『オズ はじまりの戦い』をWOWOWシネマで見ました。
 “1905年 カンザス州”の字幕。奇術師のオズは助手の女性に祖父の形見だというオルゴールを贈り物として渡しますが、前任者にも同じオルゴールを渡していることが分かります。空中浮揚の奇術に感激して「私を歩かせて」と言う下半身マヒの少女に「今はできない」と言うと、騒ぎ出す観客。逃げ出したオズは熱気球に乗りますが、竜巻に巻き込まれ、目覚めると光の粒が落ちてきます。(ここまでは白黒、ここからはカラーになります。)気球が激流に落ちると、滝から落ち、巨大な花や色とりどりの魚や蝶、植物があり、女性が現れ、「ここはオズの国だ」と言い、「王の予言の通り、私たちを救う魔法使いが王になるために空からやって来た」と言います。彼女はセオドラと名乗り、良い魔女だと言いますが、彼らを飛ぶヒヒの集団が襲って来ると、オズは鳩を飛ばし、ヒヒの集団をやり過ごします。セオドラは姉がエメラルド・シティから悪い魔女を追放したと言い、オズから贈り物としてオルゴールをもらい、生まれて初めてのダンスをオズから習います。
 ひまわり畑を通り、お互いに運命の相手だと言い合う2人。ベルボーイの格好をした喋る猿を助けたオズは、その猿フィンリーに一生召使いとして仕えると言われます。黄色いレンガの道を行けばエメラルド・シティに着くと教わったオズは、セオドラから今までで一番いい王になると言われます。オズは自分は魔法使いではないと言いますが、セオドラは大丈夫だと答えます。小人のナックが出迎えに来て、オズは馬車に乗り、大勢の護衛兵とともにエメラルド・シティに到着します。
 セオドラの姉のエヴァノラは王の相談役をしてきたと言い、オズが別室に行くとセオドラに、「あんなバカを連れてきちゃダメ。悪い魔女の手下かもしれない。魔法使いの証拠がほしい」と言います。
 エヴァノラはオズに、オズの国の宝が眠る部屋を見せると、そこには黄金が山と積まれ、オズは感激しますが、それを手に入れるのは暗い森にいる悪い魔女を退治した後だとエヴァノラは言います。
 暗い森を目指して出発したオズとフィンリーは、途中廃墟と化した陶器の町に差しかかり、そこで足を折られた陶器の娘に出会い、オズは接着剤で彼女の足をくっつけてやります。オズは彼女にエメラルド・シティに行くように言いますが、陶器の娘は悪い魔女を倒してやりたいので一緒に行くと言って聞きません。やがて暗い森に着くと、光る目の植物が襲ってきます。それから逃れると、悪い魔女が杖を置くのが見えます。フィンリーに魔女の気をそらさせ、その間にオズは杖を奪って折ろうとしますが、悪い魔女はガウンを取ると、美女が現れ、自分は南の良い魔女のグリンダだと言います。エヴァノラが悪い魔女で、皆を騙しているのだと言うと、その様子を水晶玉で見ていたエヴァノラは「グリンダがまだ生きているなんて」と言います。エヴァノラはオズからもらった贈り物をセオドラに見せ、彼と過ごした昨晩のことを話すと、セオドラは「何て愚かな私」と言って怒り出し、エヴァノラは飛ぶヒヒと兵士にオズとグリンダを殺すように命じます。
 「エヴァノラは私が真実を知ったと気づいたようだ」とグリンダは言い、オズに「今魔法を使って」と言いますが、オズは「逃げよう」と言います。グリンダは魔法で霧を起こし、兵士の進撃を止めますが、飛ぶヒヒに追いつめられ、グリンダを先頭にオズらは崖から飛び降ります。グリンダのシャボン玉の中に入り、助かるオズら。やがて魔法の壁が近づき、「良い心の者は通れる」とグリンダが言うと、オズは「私はダメだ!」と叫びます。グリンダらが次々と壁を通り抜けるのに対し、オズは一旦は壁に押し返されますが、何とか壁を通り抜けることに成功します。
 グリンダの城の町に着いたオズは町の人々に歓迎されます。オズは自分が魔法使いではないことをグリンダに告白しますが、グリンダは助けを求めている町の人々は知らないので、信じさせてあげてほしいと言います。一方、エヴァノラは青いリンゴを一口かじれば何も感じなくなり、美しき悪意だけが残ると言うと、セオドラは一口かじり、忌わしい姿の魔女となり、この姿はオズのせいだと言うことを思い知らせてやると言います。(明日へ続きます‥‥)

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西加奈子『立夏』

2014-06-11 11:11:00 | ノンジャンル
 '12年刊行のアンソロジー『君と過ごす季節 春から夏へ、12の暦物語』の中に収録されている、西加奈子さんの『立夏』を読みました。
 道草辰雄は、リース会社に勤めている。部署は主にフォークリフトなどの建設機器を扱っている。道草は営業職である。営業職なら外回りだけでいいはずなのだが、人員削減のため、審査もせねばならず、残業は深夜に及ぶ。道草の朝は、布団の上での腹筋運動から始まる。トーストと紅茶の簡単な朝食を食べ、歯を磨き、顔を洗って、背広と言った方がしっくりくるスーツを着る。
 「橋元が逃げた!」出社した道草は、上司である蝶田係長がデスクで叫んでいるのを見た。橋元は、この春入社した新入社員である。道草の部署に、新入社員は2人いた。橋元と諏訪である。が、諏訪は短いゴールデンウィークが明けると、出社してこなくなった。橋元も同じパターンであろう。昨日、連絡もなしに会社を休んだのだ。新たに自分の仕事が増えることを予測し、胃を執拗に撫でる者、えずく者、あああああ、と言い続けるもの、部署中の人間が絶望している。道草は五月病などとは無縁であった。販売会社から「はよ審査してくれや」のクレーム、ユーザーからは「金利が高い」のクレーム、職場の人間からも多々お叱りを受けることはあったが、橋元や諏訪のような五月病にはならなかった。それどころか、夏を迎える準備を始めた若葉や、遅ればせながら芽吹き始めた木々を愛でている際、うっかり時が過ぎるのを忘れてしまうことがあり、これが世に言う五月病か、なんと風流な、と思った次第である。「リチャードさん、二番に土方さんから電話です。」事務の琴山みづえが声をかけてきた。土方というのは道草が取り引きをしている、建設機器の製造販売会社社長である。「こらリチャードはよ審査せんかいこないだの件やどないなっとんねん!」「吉川工業様の件ですね。先日お話しした通り、頂戴した書類に記入漏れがございまして、改めてそちらに記入していただいてからの審査になります。」(中略)「こっちの無理を聞いてくれて金利が高いとはいえそれ以上のサービスをしてくれるのんも知っとる。」「ええ、ええ。」「いつもありがとう!」電話を切って、琴山みづえをちらりと見ると、山のような書類にホッチキス止めをしている最中であった。逆三白眼になった目、赤みを帯びた皮膚、道草と同じような天パの頭、道草がリチャードと言われるように、琴山みづえは赤鬼と呼ばれている。よく泣く。
 その日は取り引き先を7軒回った。効率よく回ったつもりであったが、2件ほど愚痴やクレームに付き合い、社に戻ったのは夜の23時だった。戻ってからも、数件仕事が残っている。社に戻ったら、吉川工業から書類が届いていた。土方のためにも、今日中に審査せねばなるまい。道草は社でできる限りのことをし、あとは家に持ち帰って作業をすることに決めた。部署には、道草の他に植田という男が残っていた。「リチャード、お前まさか、帰るんか。」「はい、終電もありますし、残りは家で作業をしようと思いまして。」「知ってる、お前が眠る時間を削って家で作業してるんは知ってる。俺が言うとるんはお前この薄暗い社内に、娘に2ヶ月も会えていない俺を残して帰るんかいう、こ、と!」(中略)「植田さん、僕、終電も逃したようですし、残ります。」「知ってるお前リチャードやったらそう言うてくれること知ってる!」「ええ、残りましょう」「いつもありがとう!」道草は植田と共に会社近くのコンビニに行き、夜食を購入した。植田は道草が残ったのが嬉しいのか、きゃーきゃー言いながらおにぎりを選んでいた。だが、自ら残れと言った植田は、2時頃になると「しんどい」と言い残し、タクシーで帰って行った。道草は仕方なく、会社から6駅の自宅まで、歩いて帰ることにした。この半年ほど、部署の電気を消すのは、いつも道草の役目である。街路の木々はしんと静まり返り、ぽっかり浮かんだ月が、優しく目を射す‥‥。

 テンポのよい独特の会話が魅力的でした。西さんのいい面が出た短篇だと思います。なお上記以降のあらすじは、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「西加奈子」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

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