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マキノ雅弘監督『恋山彦』

2013-11-20 10:04:00 | ノンジャンル
 今日は『イワンの馬鹿』で知られるトルストイの104回忌です。ガンジーらとともに無抵抗主義を唱えたトルストイを称えて、改めてご冥福をお祈り申し上げます。

 さて、マキノ雅弘監督の'59年作品『恋山彦』をスカパーの東映チャンネルで見ました。
 「時 元禄九年 此処 飯田領伊那村」の字幕。神主たちの神輿で神社の前に人身御供にされたお品が運ばれてきますが、鳥の声に驚いて皆逃げ出します。やがて神社の扉が開き、面をつけた伊那の小源太(大川橋蔵)が舞い出てきて、お品が伊那の村の娘でないことを知ると、神輿を斬り捨てます。
 お品を優しくかばいながら、自分の村に彼女を連れていく小源太。彼の村は壇の浦の戦いで生き延びた平家の一族の村で、世俗と離れて暮らせねばならないことから、伊那の村の娘を嫁として人身御供で差し出してもらうことが掟となっていました。小源太はお品を嫁にもらうことを決めます。お品は請われて三味線を弾きますが、その三味線は山彦と呼ばれる名品でした。お品は身の上話をします。現在江戸では5代将軍の綱吉が幼いため大老の柳沢が実権を握り、享楽の毎日を過ごし、芸人を贔屓にして名のある者は絶えず下屋敷に置いていました。柳川流三弦の名人と言われたお品の父も気に入られますが、柳沢に山彦を譲れと言われて断り、殺されてしまいます。その際、山彦はお品が何とか持ち出したのでした。そして伊那村に至ったお品は、絶望的になり、自ら人身御供になることを言い出したということでした。
 江戸の柳沢を討ちたいと言う小源太に、お品はここまで優しく連れてきてくれた彼のことが愛しいと言います。
 柳沢の追っ手2人が江戸を発ち、飯田藩を味方にして、小源太の村を襲い、全滅させ、山彦を手にいれます。それと入れ違いに出発していた小源太は飯田藩を味方にして、江戸へ向かい、柳沢の前で、帝への国土返上、綱吉謹慎蟄居、国造山一帯を伊那兵士の領土とすること、柳沢隠居を命じます。一旦はそれらの要求を飲んだ柳沢でしたが、その夜、小源太を襲い、小源太は城の屋根からお堀に落ち、行方不明になります。柳沢側に奪われる山彦。
 翌日に町角に立つ小源太の人相書には百両の賞金が賭けられていました。小源太と瓜二つの無二斉(大川橋蔵2役)は、スリのおむら(丘さとみ)に小遣いをもらっています。無二斉に言い寄るおむら。一方、絵師の一長(伊藤雄之助)は、奥の部屋に小源太を匿っていました。無二斉はそれを知り、一長のことを見直し、おむらに一長は好きな女ができたようだから、しばらく静かにしといてやろうと言い、お前はいい娘だと言います。
 夜、山彦の音につられて町に出た小源太は、あっという間に御用堤灯に囲まれ、一長の部屋に戻ります。無二斉は彼の身代わりになると言い出し、おむらには惚れていたと言い残して、町に飛び出していきます。結局御用堤灯に囲まれ、橋の上で切腹して橋から落ちる無二斉。一長の元を訪れたお品は村は全滅し、山彦も奪われたことを教えますが、伊那の小源太は生きていることを教えられます。柳沢は小源太を殺した祝宴を催すとして、踊り手を屋敷に入れますが、そこに小源太も紛れ込み、江戸城で言った4つの条件を言った後に、短剣を柳沢の腹に投げて、柳沢を刺し殺し、お品とともに馬で逃げおおせます。
 そして緑深い山々をめざして、2人は旅を続けるのでした。

 前半部分は今一つストーリーが分かりにくかったりしましたが、丘さとみと大川橋蔵のからみは、まさにマキノ節でした。

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三崎亜記『玉磨き』

2013-11-19 10:01:00 | ノンジャンル
 6つの短編からなる本です。
 『玉磨き』は、石の玉を両手で磨く動作をし、そこに宿ってこられたモノを玉と同時に磨き、納めるという「玉磨き」という伝統行事を一人で続けている老人と、それを家業として継ごうと思っている一人娘の話。
 『只見通観株式会社』は、通勤を「させられる」ものから「する」ものへと意識転換するために、通勤観覧車というものを考えだし、実際に会社としても軌道に乗せている社長へのインタビュー。
 『古川世代』は、現在三十八歳の人が二十二歳の時、ある週刊誌が「今現在二十二歳の人達は古川という姓を持つ人たちによって牽引されている優秀な世代」という特集記事を組んで以来、古川という姓を持つ二十二歳の人が世間でもてはやされ、やがてネットでその優れた古川が5人に絞られるのですが、彼らが二十五歳になった時に起こった2つの事件により、古川姓を持つ人たちは逆にバッシングを受けることとなり、優れた5人のうち俳優になっていた1人が自殺するに当たって、政府は古川姓を名乗ることを禁止し、ネットからも“古川世代”という言葉をフィルタリングで排除し、十年たって事態も沈静化してから古川姓に戻ることを許すようになったという話。
 『ガミ追い』は、以前、近くを通ると身体に不調を感じるガミという存在が信じられていて、定められた方法で追い師がガミを追い詰め、捕まえたガミは“ご寝所”に収められ、そこで“お成り代わり”されたガミは、氏切によって切り分けられ、“ワガチガミ”として求める人のところへ届けられていましたが、郊外の急速な宅地化で六十年前に「ガミ追い」は消滅していました。しかし、SNSが盛んになり、ネット上に書き込んだ感情を視覚化してみた結果、『不安』や『悪寒』、『頭痛』などのキーワードの色分けだけ、発生源が一カ所に集中し、しかも時間を追うごとに移動していくことに気付いた小早川は、「ガミ追い」の知識も得て、十一人の仲間を従えて、ガミを捕まえることを始めます。捕まえたガミはアクリル樹脂のパッケージに小分けし、ネットオークションで売りました。しかし、ガミ追いにはたまに「崩れ」が生じ、追い師たちの多くが命を落とすことが報告されていました。小早川はガミに異変が起こった際、すぐに追い師たちに緊急警報を鳴らすシステムを構築していたのですが、それでも5年の間に小早川はじめメンバーの皆が病死し、それは六十年前に崩れで死んだ追い師たちの死に様と酷似していました。
 『分業』は、引きこもりの人々を「作業員」にして、絵画や楽譜、写真、小説や医学の専門書、コンピューターのプログラミング言語などを仕様書として提示し、それから何らかの「部品」を作ってもらい、必要に応じてまたその「部品」に、他の「作業員」に手を加えてもらい、それを何度か繰り返し、完成した「部品」となるのを私は見学させてもらいます。最初の女性が作ったものと、それに手を加えて作られたものはまったく異なるもので、最終的に完成したのは、単なる直方体でした。私は「これはどういった形で社会の役に立つのでしょう?」と訊くと、社員の人は「私たちの生活を支える大切なものとしか、お答えできません。あなたもどこかで目にしているはずですよ。必ず」と答えるのでした。
 『新坂町商店街組合』では、5年前から急に発生するようになった海の突然の盛り上がりによって、町が海中に沈んだままになった商店街組合の会長へのインタビューから、歩くことによって道を公認する「歩行技師」が密かに遊覧船をチャーターして、海の底の町の道を公認すること、海の上から金属の郵便物を海底の町へ落として届ける郵便屋の存在、などについて語られます。

 「はじめに」の部分から「終わりに」の部分、しかも参考文献(!)まで、これらの物語が全て事実であったかのような仕掛けが施されていて、改めて三崎さんのエンターテイメント性に瞠目させられました。面白い本を求めている人には請け合いです。なおくわしいあらすじに関しては私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)の「Favorite Novesl」の「三崎亜記」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

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是枝裕和監督『歩いても 歩いても』

2013-11-18 11:10:00 | ノンジャンル
 是枝裕和監督・原作・脚本・編集の'08年作品『歩いても 歩いても』をスカパーの日本映画専門チャンネルで見ました。
 引退して散歩を日課とする医者(原田芳雄)とその妻(樹木希林)の元に、お盆ということで、兄妹の孫を連れて娘(YOU)の夫婦が帰省します。医者夫婦は長男のジュンペイが溺れた子供を助けて死に、その弟のリョウタはアツシという男の子を持つユカリと結婚し、未だにアツシから「リョウちゃん」と呼ばれています。帰省しても無愛想な父と話すことがないとこぼすリョウタ。リョウタ夫婦が帰省しても、父は少し顔を出しただけで自室に籠ります。リョウタに学校のことを聞かれ「普通」と答えたアツシは、「学校のうさぎが死んだ時、なぜ笑った?」と問われると、「誰も読まないうさぎへの手紙を書こうと言い出した子がいたから」と答えます。今晩は寿司をとると祖母に言われ、昨晩も回転寿司に行ったと騒ぐ娘の子どもたちと、自室に籠る父。ユカリはアツシに今日だけでもリョウタのことを「リョウちゃん」と呼ぶのを止めてと言い、リョウタが失業中であることも隠そうと言います。ジュンペイの嫁を連れて来たときも父が無愛想だったと言う母。リョウタは風呂に手すりが設置されているのに気付きます。とうもろこしの天ぷらを食べ、ジュンペイの好物だったと言う父でしたが、とうもろこしの天ぷらが好きだったのは自分だったとリョウタに言われます。妹の夫はリョウタにRVの購入を勧めると、母は子どもの車で買い物をするのが夢だったと語ります。
 リョウタは絵画の修復師をしていると話し、父の問いに、家族を養える程度には食えてると答えます。母と娘はリョウタの幼い頃の写真をユカリに見せてあげると言い、将来は医者になりたいというリョウタの作文も読み出しますが、リョウタは怒って作文を奪い取ります。記念写真を撮ろうとしても、一人姿を消す父。遊ぶ3人の子供。父は自分が建てた家なのに、皆が「オバアチャンち」と呼ぶのが気に入りません。アツシは密かにピアノを弾き、祖父の部屋に入ると、やって来た祖父は小遣いをくれます。音楽の先生が好きなので、将来はピアノの調律師になりたいと言うアツシに、祖父は医者もやりがいのあるいい仕事だぞと言い、やって来たリョウタに変なことを吹き込まないでくださいと言われます。
 床にパチンコの玉を見つけ、母が父に秘密でパチンコに行っているのを知る娘は、診察室を壊して2世帯住宅にすれば自分たちもここに住めるのにと言います。涼しくなってきたので、墓参りに行こうと言うリョウタ。墓参りの帰り、母は黄色い蝶は年を越した蝶だと話します。パパの墓参りにも今度行こうねとアツシに言うユカリ。夜、ジュンペイに命を助けられたヨシオが今年もやって来て、マスコミ関係のバイトで働いていて、今後もジュンペイさんの命を無駄にしないために頑張って働くと言って帰ります。まだ25歳なんだから何だってなれると彼を励ますリョウタ。父はあんなくだらん奴のためにジュンペイが命を落とすとはと言うと、リョウタは人の人生を比べるなと激昂します。娘の夫が現れ、一気に緊張が緩む部屋。
 妹夫婦は先に帰り、夕食時、若い頃に両親が聞いていた歌謡曲の話になり、リョウタは母が持って来た「ブルーライトヨコハマ」のレコードをかけます。「あるいても~あるいても~」と流れる歌詞。ユカリは母に子供を作るなら早い方がいいけど、やっぱり作らない方がいいかもと言われます。夕食後、部屋に入り込んだ黄色い蝶を「ジュンペイだ」と追い掛ける母。ユカリは人は死んでもいなくなる訳ではないと言い、アツシの半分はパパだし、半分はママだと言います。じゃあリョウちゃんは?と言われたユカリは、これからじわじわ入ってくると言います。
 翌日、海に散歩に出かけるリョウタとアツシと父。父はそのうちアツシも連れて横浜マリノスの試合を見に行こうと言います。その3年後、父は死に、結局マリノスの試合には行けず、父とケンカばかりしていた母もその直後に死に、やはり子どもの車に乗って買い物に行くことはありませんでした。娘が増えたリョウタの家族はリョウタの両親の墓参りをし、好天の下、帰っていくのでした。

 基本的に“演出”の映画だと思いましたが、ところどころに“ショット”の存在を感じました。

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山田宗樹『百年法』その3

2013-11-17 10:24:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
 裁判の結果、秋水ら実行犯は全員死刑。爆弾のエキスパートだった木場は無罪を主張したにもかかわらず終身刑。秋水らの死刑は1999年に執行、木場は50年間服役したのちに仮釈放。そしてあたしと知り合った。」
 ケンは蘭子に付き添って紫山TCへ行きます。一方、加藤医師はHAVIの処置を施した者に突発性多臓器ガン(SMOC)が急増していることに気付きます。そんな中、東京駅構内で阿那谷名義の爆発が起こります。
 深町は遊佐に話しています。「特例によって生存可能期限を延長する制度ならば、諸外国にもあります。ところが我が国は、大統領の意思一つに懸かっている。実績らしい実績もない議員が、議員であるというそれだけの理由で特例対象になっている。これで国民が納得するはずはありません。これでは拒否者ムラが増えるのも仕方がありません。そのためには大統領の任期延長決議をぎりぎりに引き延ばした上で、否決しましょう。その上で、閣下、あなたが大統領となり、特例法を廃止する」遊佐は深町を叱責し、席を立ちました。
 香川刑事は情報採取モニター室にいました。先日山中で発見された男で「おれは阿那谷童仁を知っている。永遠王国から逃げてきた」と言っていた男の脳の中の調査をしているのに同席させてもらっているのでした。分析の結果、永遠王国の具体的なイメージが分かり、工場も備える拒否者ムラの一つであることが分かりました。一方、加藤医師はメディカルバンを運転し、地方都市へ向かっていました。そこでの診察を終わっての帰路、銃を持つ一団に誘拐されます。
 大統領官邸を訪れた遊佐には、許された日が1日しかありませんでした。牛島は「仕事に疲れた」と言い、遊佐にも「ご苦労様」と言って、一旦帰させます。自分の命が今日で終わると知った遊佐はすぐに呼び戻され、牛島から「やあ、冗談、冗談」と言われるのでした。

 以上が上巻で400ページ。下巻も400ページを超える分量です。
 後半は5つの拒否者ムラとそれを襲撃する大統領直属の舞台センチュリオンの戦い、拒否者村の最大のムラが自殺者を大量に出して自滅していったこと、村のリーダーとして阿那谷童仁を名乗っていたのが木毛だったことなどが語られ、そして内務省警察局局長の兵藤と牛島の右腕として働いて来た大統領首席補佐官・南木によるクーデー未遂、そしてHAVIの処置を施された者は必ず16年内にSMOCを発症することが判明し、それまでの百年法が意味を失い、20年間の独裁を経て、その後の民主主義社会を保障する法律が通ったことで話は終わります。
 そして終章「(前略)独裁官制度は、きょうを以って終わる。明日からは議会制民主政治が復活する。日本共和国は、新たな首相と大統領のもとで、再出発することになる。しかし、その真の主役は、一人一人の国民である。(改行)あなた方にお願いする。自虐的で冷笑的な言葉に酔う前に、その足で立ち上がってほしい。虚無主義を気取る余裕があるなら、一歩でも前に踏み出してほしい。その頭脳を駆使して、新たな地平を切り拓いてほしい。我々の眼前には、果てしない空白のフロンティアが広がっている。あなたにもできることは見つけられるはずだ。我が国は多くのものを失ったが、たった一つ、若さだけは取りもどせたのだから。(改行)先人たちの尊い勇気と決断が、現在の我々の礎となり、我々を鼓舞してくれるように、これから我らが紡ぎ上げる国づくりの物語も、いずれは新たな伝説となって、後世の人々の心を照らし、我が国の歴史を支えていくことになるのである。 日本共和国第四代独裁官 仁科ケン」

 とにかくあまりに長くて、途中から読み終わることだけを目的に読んでいた気がします。あまりにもいろんなものを入れ込みすぎたんではないでしょうか? シリーズものにする、という手もあった気がしました。

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山田宗樹『百年法』その2

2013-11-16 07:30:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 遊佐は部下と話しています。「生存制限法が永遠に凍結されたままということはあり得ない。1日も早く生存制限法を施行することで社会の新陳代謝を促し、この国の崩壊を防ぎ、復活させる」 町を歩く蘭子は空気が変わったことを実感していました。皆の表情が明るい。蘭子はいきつけのバーで由基美と命が永遠に続くことについて論議していました。一方、戸毛は明るい気持ちで木場を追っていましたが、突然記憶が甦り、銃把で木場の頭をめった打ちにして殺し、自分が母を殺したことを思い出しました。
 遊佐は部下だった立花と話し、強力なリーダーを作り出す必要があると話し、牛島の名前を出します。遊佐は牛島に下で働かせてくれと頼み、牛島なら皇帝にもなれると持ち上げ、了承されます。
 2076年の新年、都心の広場Rスクエアでアイズを使い交信を受けていた仁科ケンは、違法な戸籍ともなるゴーストIOを手に入れようとしますが、由基美に邪魔されます。彼女はケンの見張り役をケンの母である蘭子から頼まれていたのでした。仁科ケンは大学の仲間とゴーストIDについて話した後、阿那谷童仁に助けられた元刑事・戸毛が実在するということをネットで調べて、今年YCに出頭することになっていた蘭子のためにゴーストIDを手にいれようとしていました。
 日本共和国は、2076年に入っても空前の好景気に沸いていました。配達の仕事をしていた仁科ケンは、配達先で阿那谷童仁を名乗る男からゴーストIDを贈られますが、受取を断ります。帰宅してその話を蘭子にすると、蘭子はケンの行いが正しかったと言ってくれましたが、蘭子が阿那谷童仁について何か知っているのではという疑念を持ちます。そして蘭子はケンに遺書を書きます。「2048年の国民投票で、百年法が一旦凍結されて、その直後に自殺する人が急増したことは話したと思う。でも増えたのは無差別殺人もだった。若い人は百年法に望みを託していた。そんな時、あたしがあんたの父さん、木場ミチオに出会った。百年法凍結から1年経ち、若者たちの不満はデモという形となり、国内が大混乱に陥った。〈2049年の危機〉だ。すべての元凶が百年法の凍結にあると皆分かっていたが、政治家は保身に走る者ばかりだった。そこで注目されたのが、新時代党首の牛島だった。2050年の共和国広場における彼の演説は伝説となり、選挙では名誉職である大統領に牛島氏が当選し、議会でキャスティングボードを握った新時代党は遊佐を首相とすることに成功した。牛島大統領は『大統領の任期を4年とし、再選は不可。ただし、議会が認めた場合に限り、4年単位で延長できる』などの改正案を国民投票で可決させ、新たに『新百年法』(4年後の2054年から生存制限法を施行)、『生存延長税法』(一定の金額を税金として国庫に納めれば、生存期間を延長できる)、『大統領特例法』(大統領がとくに認めた場合、生存制限法の適用を免除する)も定めた。『大統領特例法』により、政治家は皆大統領に従わざるを得なくなり、牛島氏は事実上、終身大統領になり、遊佐氏との独裁政権が確立されたのだ。木場ミチオは、百年法の、初年度の適用対象者だった。そして自分のことをいろいろ語り始めた。当時〈1987年3月14ニ阿智、共和国は滅亡する〉という噂が流れていたが、木場はその2年半前に秋水啓司という男と再会していた。16年後の1999年に阿那谷童仁として絞首刑になった男だ。木場と彼は軍隊で同期だった。軍で〈爆弾の魔術師〉の異名を持っていた木場に対し、秋水は国外の反政府ゲリラの人格者、アルナータ・ド・ウジム大佐にインタビューした話をし、死の存在の大事さを解き、翌朝には木場を睡眠薬で眠らせ『きょう一日、外に出るな』と置き手紙をして先に出発していた。その日、日本全国12の都市で爆弾テロが発生し、報道各社への犯行声明の差出人は「阿那谷童仁」とされていた。事件発生から4週間後、秋水はあっけなく逮捕され、押収された証拠から仲間も次々に逮捕された。秋水は自分が阿那谷と認めたが、人々は認めなかった。こんなに簡単に捕まるはずがない。影武者説はこのようにして生まれた。やがて裁判で秋水は阿那谷童仁という英雄的人物が別にいて、彼の命令で動いているということにされた。阿那谷童仁とは、アルナータ・ド・ウジムの名を原語に忠実に発音して、そこに漢字を当てはめたものに過ぎないということも。(また明日へ続きます‥‥)

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