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西加奈子『ほっと文庫 はちみつ色の』その2

2012-03-27 10:36:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 テンちゃんはもう5日も亀で、その間バナナとハチミツしか食べていません。他のものを出してもダメです。テンちゃんは元々一度これ、と思うものを好きになったら、ずっとそれしか食べなくなり、ある日急に食べなくなることがよくありました。テンちゃんの好物のカレーを作ってもダメで、私はテンちゃんは自分の好きなことをし続ける根性があると思います。
 テンちゃんが亀になって7日目。ママの携帯電話に野村君の着信音。少し高くて鼻にかかった声で話し、髪の毛をくるくるいじり、部屋をうろうろする癖は、野村君と話す時のママの癖です。しかし急に大声で「嘘だろ、野村ぁ!てめぇ!」とわめいて電話を切ると、ママは仕事場にこもってしまいました。「ママ、何があったんだろうね」とテンちゃんに聞くと、テンちゃんは両目をぱっちり開けて、私を見ます。ママの泣き声が聞こえてきて、テンちゃんは不安になったのか、頭を座っている私の膝に押しつけてきました。頭をなでると、髪の毛が乾いて強くなっていて、亀の頭のようです。「野村よ糞野郎、結婚するんだって!!!」思わせぶりな態度に騙されたというママ。私は野村君はママのこと、ちっとも好きじゃなかったと思います。テンちゃんはママが泣くのをやめて怒り出したので安心したのか、部屋中をのそのそ歩きまわっています。私もママが怒ると、聞いたことのないような、ひどい悪口がたくさん出てくるので面白くて、うきうきしてしまいます。失恋したら甘いものにかぎると言って、ママはテーブルに皿を置くと、私は面白くなって皿を床に置き、テンちゃんと同じように亀になってお皿から直接はちみつ入りのバナナを食べました。ママも一緒になって食べると、「あまーい。」と言ってテンちゃんは急に元のテンちゃんに戻ります。「いつかロンサムジョージに会いにいこう」「うん」「亀じゃなくても友達になれるんだよ」「うん」と私とテンちゃんが話したら、笑っていたママがまたうえ~んと泣き出しました。私たちはいつまでもハチミツを舐めました。ロンサムジョージもきっと今、ハチミツみたいな色の月を見ています。

 原文は「ですます」調子ではなく、言いきり調ですが、会話の部分の生き生きとした感じが何とも魅力的で、勝ち気なママと正直な反応を示す私、頑固だが天真爛漫なテンちゃんのキャラクラーにも惹かれました。西さんの最良の部分が出た短編だと思います。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/

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