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ポール・オースター『闇の中の男』

2014-11-27 17:24:00 | ノンジャンル
 ポール・オースターの’08年作品『闇の中の男』を読みました。
 私は私の一人っ子で今年47歳のミリアムと、ミリアムの一人っ子で23歳のカーチャと暮らしている。私は夜の闇の中で、想像上のオーエン・ブリックという男を深い穴の中に入れた。男は伍長の位の軍服を着ているが、なぜこのような服装で、ここにいるのか、理解できていない。穴の外では大砲の発射音やマシンガンの音、爆発する手榴弾の音、絶叫する人の声が聞こえるが、やがて静寂が訪れる。穴の上からトーバック軍曹と名乗る男の声がし、もう行く時間だぞ、すぐに出してやるよ、と言い、ロープが一本降りてくる。穴から出ると、トーバック軍曹はアメリカで内戦が起きて、すでに4年が経ち、新兵が来る通常の手段として、ブリックがここに送られてきたことを知らせる。そしてこの内戦という物語を考えた男を殺し、この戦争を終わらせるための暗殺者として、送られてきたことを。トーバック軍曹は必要品と仲介者の名前と住所を書いた紙切れをブリックに渡す。ウェリントンに着いたら、ルー・フリスクに会え、と軍曹は言い、ジープで立ち去り、ブリックは街へ向かって歩き出す。
 この2か月あまり、カーチャと私は毎日、一日中、一緒に映画を観ている。私は現役時代、書評を書いて暮らしていた。ミリアムは授業をこなしながら、ローズ・ホーソーンの伝記をほぼ終わりまで書き終えている。
 私はソーニャのことを考えまいとして、その唯一の解決策として、物語から離れまいとする。ブリックは10キロくらい道路を行ったあたりで、人が暮らしていら気配を感じてくるが、焼けた家々、崩壊した食品市場、犬の死骸もひとつあり、爆発した自動車が数台、頭のおかしくなった年寄りの女が一人、目の前に出現する。ウェリントンの街に入っていくころにはもう正午を過ぎている。なぜか乗用車やトラック、バスが1台も走っていない。空腹を満たすため、小さな食堂をやっと見つけて入るが、食材は不足し、値段も異常に高い。ブリックはウェートレスのモリー・ウォルドに、この世界のことを色々尋ねる。1ドル札もコインも半年前に使われなくなり、ニューヨーク州が国から独立を宣言して戦争が始まり、年は今と同じ2007年、同時多発テロは起こらず、イラクで戦争はしていないとのこと。ブリックはモリーが紹介してくれたホテルに入る。部屋にはテーブルとベッドしかなく、テレビには何も映らない。そこへ黒いジーンズと革ジャンの女性が現れ、ヴァージニア・ブレーンと名乗る。高校のとき皆の憧れの的だった女性だ。彼女はブリックが任務の遂行をする監視をしていると言う。彼女は1時間だけ眠らせてあげると言い、彼女が去ると、ブリックは、モリー・ウォルドに助けを請うために、裏手の非常階段からホテルを脱け出し、モリーに会うと、彼女は自分のアパートに1泊200ドルで、1晩か2晩泊めてあげてもいいかしらね、と言った。
 突然、膀胱を空にしたいという切実な欲求、押し退けていたソーニャへの思いがまた押し寄せている。ああソーニャ、なぜ君は死んでしまったのか? なぜ私が先に逝けなかったのか? 私はミリアムがローズ・ホーソーンについて新しく書き上げた原稿を読む。ローズは書いた、「けったいな世界が転がっていく」と。
 私は私の頭の中でのもうひとつの戦争、自国での架空の戦争がくり広げられ、突如オーエン・ブリックの姿が見える。兵士が路上に立つ中、ブリックはモリーに歩きながら尋ねると、第二次世界大戦とベトナム戦争は知っていたが、ニューヨーク・ヤンキースはラジオシティ・ミュージックホールで踊る女の子たちだと言い、独立州は大統領でなく首相が政治を仕切り、連邦側の大統領はジョージ・W・ブッシュだと言った……。

 この小説も複文的な構造となっていて、物語を語る人物が自分を暗殺させる人物を創造し、その人物が死んでしまうと、その後は主人公が孫娘と延々と話を続けるという、非常に変わった構成の小説で、書かれつつある小説という趣がここでも顕著でした。なお上記以降のあらすじについては、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「ポール・オースター」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/

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