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宮崎誉子『春分』

2014-06-05 09:24:00 | ノンジャンル
 '12年に刊行されたアンソロジー『君と過ごす季節 春から夏へ、12の暦物語』に収録された、宮崎誉子さんの『春分』を読みました。
 私の名前は戸馬友美、3年前からパソコン教室で勧められたアルミ工場の事務をしている。忙しい時にやらなくてもいい書類に目を通すよう指示する課長に時々イラッとさせられるが、大人数の現場と違い総務は私1人なので波風立たないよう心がけている。出張でほとんどいない課長と違い、毎日同じ部屋で顔をあわせるのは製品の出荷管理をしている24歳の三浦まいだけだ。「戸馬さぁ~ん、今日は午後ずっといるんですかぁ?」三浦まいの甘い声は胸焼けしそうになる。「ううん、健康診断書を労働基準監督署に届けるから席外すわ」「え~っ、この忙しいのに電話出るのあたしだけになるって不公平じゃないですかぁ? ‥‥なんかぁ、まいばっかり損してる気がするんですよねぇ」煙草を吸いに行ったまま、40分も戻ってこない女に言われて内心ムッとしたけど、すまなそうな顔で下手に出ておかないと、後が面倒だ。
 工場は12時から昼休憩だ。女子更衣室の隣にある狭い休憩室で三浦まいとお弁当を食べていたら、品質検査を担当している、50代手前だけど若作りに燃えているので30代後半にも見える白衣姿の黒柳玲子がやって来た。「お邪魔するわね」「姐さん、また痩せたでしょぉ? 今度の合コン誘ってもいいですかぁ? 旦那には内緒にしとけばいいじゃないですかぁ」「またまたぁ、まいちゃんに言われると一瞬本気にしちゃいそうになっちゃうでしょ。オバサンてこれだから困るよねぇ~」黒柳玲子は自分でオバサンと言うのは平気なのに、課長が居酒屋で酔って黒オバサンと呼んだ時に般若のような顔をした女だ。「まいちゃん、香水変えたでしょ」「やぁだぁ、わかりますぅ。姐さんてなんでもわかるからスゴイですよねぇ」二人のどうでもいい話を聞いていると、早起きして作ってきたひよこ豆入り黒米おにぎりがマズくなるような気がする。
 今日は旦那が残業で遅くなるので、小さな派遣会社を設立したばかりの親友、堀北南とディナーを食べる予定だ。テキパキした様子のポニーテール娘はトレーを手の平にのせていて素敵。「グラスワインひとつと、ブルーチーズバーガーふたつ」「生搾りフレッシュジュースのMサイズひとつお願いします」注文を繰り返す娘の声はハスキーで心地いい。「南どう? 派遣会社は軌道に乗ったの?」「‥‥ううん、それがいい仕事は大手の派遣会社が握って離さないから無理なのよね」南は運ばれてきたグラスワインを一気に飲み干した。「‥‥相当ストレスためているみたいね」「まぁね聞くも涙、語るも涙ってやつよ」
 朝起きてコップ一杯の水を飲み朝食の支度をする前に自分専用の野菜ジュースを作る。にんじん、きゃべつ、しょうが、りんご、水、レモン汁をジューサーにかける音を聞いていると一日頑張ろうと思える。
 「出張いつからだっけ?」「おいもう忘れたのか、明日から3日間だよ」「はまぐりのお吸い物冷めないうちにどうぞ」「いただきます」美味しそうに食べる旦那の顔を見ていると癒される。
 今日も定時であがれると思っていたら、5時十分前に、結婚前提の彼女に振られて鬱病になって休職中の井原浩二が訪ねて来た。「‥‥戸馬さんに確認したいんですけど、休職期間は一年間だけですよね」「はい」「なんとか延ばしてもらえないでしょうか」「それは難しいですね」「精神科の先生に好きな事するように言われたから、僕は仕事しないのがベストだと思うんですよね」ようやく井原から解放されて家に帰り、ゆっくり湯船につかっても、ちっとも気が休まらないので、なにか嫌な予感がした。薄手のバスローブに着替え、髪全体にヘアオイルをなじませドライヤーで髪の根元から乾かしていると携帯が震えた。「はい、戸馬です」「戸馬さん、俺です俺」現場で働く困ったちゃんの相葉だった‥‥。

 何気ない日常が描かれていますが、今回も宮崎さんの独特の文体で面白く読ませていただきました。なお、上記以降のあらすじに関しては、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「宮崎誉子」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

 →「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/