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内田樹『街場の中国論』その1

2011-06-20 01:55:00 | ノンジャンル
 内田樹さんの'07年作品『街場の中国論』を読みました。神戸女学院大学の大学院の演習で著者がしゃべったことを録音して、それをテープ起こししたものが原型になっていて、その演習は毎回一人の院生・聴講生が主題を提起して、その主題をめぐって著者がコメントを加え、それから全員ディスカッションをするという形式をとって行われたそうです。
 著者は中国問題の専門家ではなく、中国について知っていることは、新聞記事と、世界史で習った中国史と、漢文で習った古典と、何人かの中国人の知人から聴いた話と、書きながら百科事典やネットで調べたことであり、そうした中国について知っている平均的な日本人の知識量に基づいて、「中国はどうしてこんなふうになったのか? 中国では今、何が起こっているのか? 中国はこれからどうなるのか?」を推論しようとしたものが本書であり、自分の主観的なバイアスによる情報評価の歪みを「勘定に入れる」、言い換えれば、自分に都合のいい情報は過大評価し、自分に都合の悪い情報は過小評価しがちになるということを意識的に回避しながら、中国史に評価を下してみた試みだと言っています。

 この本によって新たに知ったことは、以下のようなことでした。
1、中国が年8%以上の経済成長率を維持しなければならないのは、パイの分配方法の不公平感が高い経済成長によって隠蔽されている現状があるからだということ

2、日本の明治維新以降の急速な経済成長を支えた要素の一つには、江戸時代の『大店』の組織原理をそのまま新時代の株式会社に応用できたことが挙げられること

3、2005年に起こった中国における反日デモの中核をなしていたのは中産階級であり、ある程度物質的に恵まれたこの階級がデモを起こしたということは、それは『制度への不満』の噴出を意味し、中国政府にとっては極めて由々しき問題であったということ

4、そしてそう考えると、中国政府は制度不満へのガス抜きとして反日デモを利用していたと推論することもできること

5、10%近い経済成長をしている現在でも、中国は2億人もの失業者を抱えていること

6、現在の中国経済を支えているのは、材料の調達、製品の製造・組み立て、加工といった『川中』の分野であり、商品開発、企画、研究といった『川上』、広告、マーケティング、流通といった『川下』という最も利益が出せる分野にはまだ手が届いていないこと

7、そして『川上』『川下』の分野は海外に住む華僑が握っていること

8、自国が他国を侵略した歴史を教科書レベルで反省している国など世界中に一つとして存在していないこと

9、開拓時代のアメリカには何千人もの中国人カウボーイが存在していたこと

10、日本の首相の靖国参拝にまっさきに抗議すべき国は、日本のA級戦犯によって30万の将兵を死に追いやられたアメリカであること

11、しかし抗議しないでいるのは、アメリカが東アジアへのコミットメントを維持するため、日本や中国、韓国との間に常に不協和音が生じていることを望んでいるからだということ


(以下、明日に続きます。)

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto