読書感想文19 ~検察捜査~

2011-07-04 21:33:46 | 

今回の作品は中嶋博行氏の江戸川乱歩賞受賞作品。
現役弁護士の描く【検察捜査】です。

これまた面白い作品です・・・が、評価としては複雑です。
なんせ作者が現役弁護士ですから、
弁護士界はもちろん、
検察庁や裁判所といった法曹界における現状を赤裸々に描いています。
ただし、10年以上前の作品ですから、
現在もこの本の設定が有効かどうかは定かではありません。
とはいえ、今も変わらず訴追権は検察のみが握っており、
さらには捜査権まで持っている現実は同じなので、
現代ではすっかり変わっちゃっているなんてこともないでしょう。

本作品の主人公は岩崎という若い女性検事です。
文面から、かなりの美人であると想像できます。
準主役は検察事務官の伊藤。
岩崎にあてがわれた若い男性事務官です。
読み始めてすぐに、この2人がデキていることが判明します。
実はこの時点で、私はゲッソリしました。
んな生半可な関係、もしもあったとしても描かなくてもいいのにと。
【検察捜査】という硬い題名の本に、捜査側の情事なんて求めません。
これが【猥察交差】ならわからないでもないですけどね。
・・・って、んな言葉知らんし、どうでもいいことですな。
ただ、後々この関係のおかげで実行犯が現行犯逮捕されることになるんですけど。
それならそれで、別の手法が欲しかったと思えてなりません。


日弁連会長候補の弁護士が拷問の上、殺害されるというスキャンダラスな事件が起こり、
その事件を警察・検察がそれぞれ捜査を進めるというのが基本的な流れですが、
捜査を進める中で、検察庁と弁護士界の対立や、
検察官と裁判官の対立が生々しく描写されます。
はっきり言ってしまうと、事件のプロットは粗末ですし、
実行犯に指示を出す真犯人の動機もキツいものがあるんじゃないでしょうか。
さらに、カギを握ることになりそうな“拷問”にいたっては、
実行犯の趣味だった、で済まされてしまう始末。
その辺はとっても微妙です。

ただ、前述したように法曹界のお話はとっても面白かったですね。
まぁ検察が主役ということもあり、検察が最も辛辣に書かれています。
弁護士は数が増えすぎて食っていくのさえも苦労する一方、
検察官は数が減りすぎて定員割れを起こしそうな現実。
個々が忙しく、ろくな取調べもできない、
そんな状況に検察官志望者も減り、
現役検察官も次々と弁護士に転職していくという悪循環。
一方では検察作成の供述調書を否定する判決が下され、
報復にその判決を出した裁判官の判決に対しては、
徹底的に控訴するという検察の逆襲が繰り広げられる。
ここには検察官の思い上がりが透けて見えるのですが、
実際、権力構造的に見てもそうですよね。
捜査もできて、訴追もできて、法廷に立つ立場の人間なんて、
検察官以外にはありえません。
それだけの権力を持っているんですから、
検察官には検察絶対主義的な考え方が、多かれ少なかれあるのかも知れません。


ところで先日、皮肉なことに現実世界では、
エースと言われた検察官が証拠隠滅罪で逮捕・起訴されました。
検察のストーリーありきの取調べ、と非難されました。
この事件にも、権力に太った検察の体質が見え隠れしているのかなと思います。
検察組織の解体・再生まで論じられているようです。
ただ、私個人的には絶対的な正義を為そうとすると、
絶対的な権力を持つ組織が必要なんじゃないかなと思います。
ま、それが本当に正義なのかどうなのかは別問題として。

なんだか検察に関する個人的感想になってしまいましたが、
つまり、この作品はそのような法曹界の現実についてはとっても面白いのですが、
犯罪や犯人については特筆すべきことはないという印象なのです。
【検察捜査】という題名ですが、
捜査内容云々よりも法曹界における検察の位置づけや、
検察組織にまつわるエトセトラのほうが強く印象に残ります。

こういうわけで、ある意味期待を裏切られて、
ある意味、期待以上に面白かったという複雑さがあるのです。
中嶋氏の作品は他にも何冊か出ているのですが、
読んでみようかどうしようか、マゴマゴしているところです。
では。