読書感想文16 ~笑う警官~

2009-07-12 22:19:45 | 
佐々木譲氏の警察小説としては代表的な存在の作品です。
今年、映画化されるとか。
単行本で発売されたときは『うたう警官』というタイトルだったのですが、
文庫化にあたり『笑う警官』に改題されました。

ちなみに元のタイトルである“うたう”とは、
組織内部の機密情報を、組織の外部、例えばマスコミなどにリークする行為の隠語のようです。
警察内部ではしばしば使われる言葉なのでしょうか。

で、この作品ですが・・・・
声を大にしてはっきり言いましょう。
めちゃめちゃおもしろい警察小説でした。

まずプロットにヨダレが出てしまいます。
悪意で指名手配された元相棒(津久井)の無実を、裏捜査で明らかにしようとする佐伯警部補。
警察内部有志でチームを組みます。
さらに実際にあった北海道県警の裏金事件をモチーフにして、
その裏金を作りの事実やシステムを必死に隠そうとする当局。
津久井は、裏金作りのシステムを明らかにするため、議会から地方自治法100条委員会に承知されている。
そのため、当局は津久井を覚醒剤の常習犯として射殺命令まで出します。

次に、文章のバランス。
個人的な意見ですが、警察小説はサラサラと読め過ぎてしまうと物足りないんです。
それは、作品を軽いものにしてしまいます。
適度に難解で適度に読みやすい。
そのバランスがしっかり取れた作品だと思います。

スロースタートの前半があるからこそ、
後半のスピード感とテンポの良さが際立ちます。
時間的には事件発生から作品の終わりまで、20時間程度でしょうか。
その濃密な20時間を、スリリングに描き切っているんですね。
特に終盤の津久井を100条委員会へ護送するためのかけひきは見物です。
内部協力者に“うたっている”仲間がいる中で、
その“うたい”を利用して津久井を無事に道議会に送り届けるというラスト。
目新しいアイデアではないかも知れないですが、
胸のすく終わり方をしてくれます。

映画化については、読み終わってからインターネットで知ったのですが、
読みながら“とっても映画向きの作品やな”と感じていました。
後書きを読んでみると、
“角川春樹氏から依頼を受けて書いた作品”だとありました。
ひょっとすると、映画化を意識して書かれた作品なのかも知れないですね。
ラストの北海道議会にたくさんの警察が集まって、
その誰もが騙されたと気付き立ち尽くすなんてのは、
スクリーンで見ているような錯覚に陥りました。

ただ、ひとつ残念なのは登場人物のキャラクターが薄いこと。
主人公の佐伯警部補でさえ、印象に残る個性が描かれているわけではありません。
佐伯の協力者である植村、諸橋、町田、小島、新宮他の個性なんてほとんどナシです。
だから作品を読み進めても、名前とキャラクターが一致しないんですよね。
頭の中では、その他大勢の中の一人、みたいな扱いになっちゃいますし、
実際、そうやって読み進めてもあまり支障はないんです。
もう少し、個々を膨らませて欲しいところなんですが、
それをやりだすと、ただでさえ大作なのに、
もっともっとボリュームが増えてしまうのでしょう。

ところで、今年、公開予定の映画はどうでしょうね。
主演の佐伯警部補役に大森南朋さんとのことですが、
大森南朋という俳優は知りません。
宣伝映像を見てみましたが・・・・佐伯を演じるにはちょっと若すぎゃしないかな。
女性警官の小島には松雪泰子さんか。
こちらはイメージ通りですな。
問題は、津久井巡査長に雨上がり決死隊の宮迫さんがキャストされていることですな。
演技がどうのこうのじゃなくて、もっと優男が適任かと思ったけど。
ま、映画館まで観に行くことはないでしょうけど、
地上波で放送されるのを楽しみに待つことにします。


この作品は北海道警を舞台にシリーズ化されており、
同じ登場人物で『警察庁から来た男』『警官の紋章』と続くことになります。
もちろん『警官の血』までに読むべきですよね。
ということで現在『警察庁から来た男』を読んでいるところです。

いやぁ。いい作品に巡り合えました。
おかげで寝不足です。
では。