読書感想文6-2

2006-11-19 16:03:21 | 

昨日の続きです。

ちなみにこの作品、ミステリーではありません。確かに雄一郎は作品を通してホステス殺害を追いますが、それは決して物語の根幹をなすものではなく、また、その事件の解決も雄一郎の手によるものではなく、さらに、真相がわかったようなわからないような解決に終わるのです。ですのでミステリーを期待してこの作品を読むとがっかりすることになるでしょう。高村氏自身は自分の作品のカテゴリーについて“ミステリーではなく小説”とおっしゃっています。
気になるのは美保子という女。これほどまでに2人の男を狂わせる女とはどんな女なのか。作品中にいくつか、その外見を表現されていますが、それだけでは推し量れません。葡萄のような瞳とか見つめるとスッと逃げていく目。目に魅力があって、眼力で男を虜にするのかもしれませんが、やはり文章で表現することには限界があり、あえて表現されていないのでしょう。また、内面についての一切の表現はなしです。彼女が何を考えているのか、なぜ達男と逢引を重ねるのか、なぜ雄一郎にお茶を誘われたにもかかわらず映画館へ行こうと誘い返したのか、さっぱり言及されていません。行間を読めと言われれば、読めませんすんませんと謝るしかありません。なので、僕としては美保子は“強烈に男をひきつけることができる女なんや”ということを前提にして読みました。じゃないと冷静沈着な雄一郎が一目惚れした上に、狂おしいまでの欲情と嫉妬を燃やす事実を受け入れられる理由はないからです。これが合田雄一郎でなかったらそこまで考えないのですが、合田雄一郎であるがゆえに納得できないのです。逆説すると、合田雄一郎をそこまで狂わせるほどの女なのだから簡単に表現することはできない、迂闊に表現してしまうと合田雄一郎の価値というか人物設定が崩れてしまうのかなと邪推してしまいます。
美保子に会いたい。読み進むほどにそう思うようになりました。愚かな願いだとは承知ですが、尊敬に値する2人の男を魅了した美保子に会って話してみたい。で、2人の惚れた理由を知りたいんです。
また、達男の殺人の理由もまったくわかりません。なぜ、2度目に会った恨みつらみのない男を達男は殺さなければならなかったのか。雄一郎に子どものときに言われた一言“おまえは人殺しになる”。その一言が潜在的に達男を追い詰め、自分は人殺しにならなければならないという強迫観念ができてしまった、だから殺したと解釈せざるを得ません。これも凡人の僕には到底理解できないんですよね。よく食べよく眠る僕には、食べない眠らない人々の考えることはミステリーですわ。あ!そういう意味ではこの小説、ミステリーと呼ぶことができるかもしれません。
さてさて、物語は壮絶なラストを迎えます。植物人間と化す美保子。逮捕される達男。逮捕される達男に“おまえになりたかったんや!”と電話越しに叫ぶ雄一郎。これらが嫉妬と狂気の果てに用意されたラストです。救いようがありません。
雄一郎が大阪に転勤するところで物語は幕を閉じます。この後に控えるのが『レディジョーカー』。これも読みたいんですよね~。映画化されてましたね。でもまだ文庫化されてないので迷ってるところです。単行本は高いしな。図書館で借りようかな。
では。