読書感想文6-1

2006-11-18 14:12:59 | 

読書感想文第6-1弾です。
最近、読書感想文が滞っていたのはこれを読んでいたからです。『照柿』。高村薫氏の作品が12年の歳月を経て文庫化されました。もちろん例に漏れずこの作品も大改稿されております。いやぁ、時間がかかりました。仕事の休憩時間にちょくちょく読めればいいほうだったので、内容の濃い上下巻を読むのにたっぷり2ヶ月はかかったのではないでしょうか。
高村氏の作品は、直木賞を受賞した『マークスの山』に始まり、『黄金を抱いて飛べ』『リヴィエラを撃て』『李歐』と読んできました。どれも情念のこもった“強い”小説です。
恥ずかしながら照柿とは何なのか、僕は知りませんでした。色の名称なんですね。柿がよく熟したときに現れる深いオレンジ色といったところでしょうか。小説は真夏の東京及び大阪が舞台で、照柿色の強い西日が常に小説を直射しています。登場人物たちは常に焼けるような西日に焦がされ、その西日とひとりの女によって2人の男が堕ちていくというストーリーを、2人の男のそれぞれの内面を克明に描きながら進んでいきます。
2人の男とは、警視庁刑事の合田雄一郎とその幼馴染である野田達男。その2人を嫉妬の嵐へ飲み込んでいく女が佐野美保子。結婚前に付き合っていた美保子に想いと性欲を再燃させる達男。一方、警視庁に勤務する合田雄一郎は偶然、美保子の旦那の不倫相手の中国人が不貞の末に飛び込み自殺する電車に乗っていて、旦那を追いかけてきた美保子を追い、向き合ったとたんに一目ぼれする雄一郎。そして達男と美保子との逢引直前、東京駅で18年ぶりに会う男2人。3人の運命が大きく動き出します。
ストーリーはさておいて、高村氏は男性の心理を描くことをライフワークとされているようですね。しかも、とてつもなく強い情念を持って。また、氏の作品に出てくる男はみんな内面にカオスを抱えていて、トラウマにいつまでも苦しみ、自分の堕落に無関心で、それでも繊細な感性に生きているんです。正直、僕には一切ない感情や才能を持つ方ばかり登場するので、感情移入なんてまったくありません。遠い世界の出来事です。ちなみに女性の内面を描くくだりは一切ありません。ひたすら嫉妬と自らの崩壊をこれでもかと言わんばかりに描写しています。
その燃える嫉妬心を、達男の仕事場の溶鉱炉で溶ける鉄の色と夏を焦がす西日の色になぞらえて照柿と表現しているんですね。
長くなるので、続きは明日。
では。