今回の作品はすごいですよー。『0:34』です。レイジサンジュウヨンフンと読むそうです。これは恐らく邦題で、原題は『CREEP』だと思われます。この単語には色々な意味があるようです。這う、忍び寄る、虫唾といったネガティブなイメージのある単語です。どの日本語訳がこの映画に正しいのかはわかりません。
さて、この映画、何がすごいかというとA級ホラーの宣伝や前評判で鳴り物入りで公開されたらしいのですが、中身は丸きりB級なんですよねー。B級映画(特にホラー)ファンの私としてはうれしい限りです。
舞台はロンドンの地下鉄。最終電車待ちで椅子に腰掛けながらウトウトしてしまった主人公(女性)は、そのまま誰に起こされることもなく完全閉鎖された駅構内でハッと目覚めます。するとそこには来るはずのない電車が来て、主人公は恐る恐る乗り込みます。いきなり“ありえねー!”設定で笑ってしまいます。やがて見えない何者かが主人公の周りの人物(締め切った駅の構内なのに3人ほど出てくるんですよね)を次々に惨殺していきます。下水道管や地下鉄をひたすら逃げる主人公。ところがそれをあざ笑うかのようにその何者かは主人公を追い詰め、やがて生け捕りにします。真っ暗な部屋に追い込まれた主人公が懐中電灯をつけると目の前に、その何者かが顔を近づけている。このシーンはびっくりしました。いきなり画面全体にロードオブザリングのゴラムのような怪物の顔が浮かびます。後はお察しのとおり、生け捕りにされた主人公のドタバタ脱走劇が繰り広げられ、ゴラムもどきは主人公にやられます。ゴラムもどきとの激闘に疲れきった主人公が、動き出した駅のホームで放心状態で座っていると、始発に乗る客のひとりが主人公を物乞いと勘違いし、小銭を膝元に置くというのがラストシーンです。
この映画のB級ぶりですが、つっこみどころが多すぎます。最初からエンジン全開でつっこまなければならないほど矛盾や疑問が散りばめられています。これはもう疑惑の総合商社ですね。特に謎なのはゴラムもどきです。その出生、殺人目的、ねずみとの共生、どれをとってもさっぱり理由や意味がわかりません。そのくせ俊敏で強靭かといえばそうではなく、主人公と一緒に脱走を試みた黒人男性にあっさりとボコボコにされます。そこでとどめをさせばいいのに、迷った主人公のせいで取り逃がす。そんなことの繰り返しで恐怖とはかけ離れたコントみたいです。でもこれでいいんです。この映画はB級映画なのですから。問題はB級映画をさもA級のごとく宣伝したことにあり、そのせいで期待してお金を支払って鑑賞した人々の怨念が浮かばれずに、今も映画館に渦巻いているそうですね。ご愁傷様です。
B級映画は謙虚さがなければいけません。“えへへ、わたいB級ですねん。そやさかいにあんまり期待せんとくれやっしゃ”という雰囲気を漂わせた宣伝をしなければなりません。A級と認められる映画では少々のつっこみどころは見過ごしてもらえます。映画ってそんなもんやなってね。B級映画も矛盾や説明不足は許されます。ハナからそれを期待して鑑賞しますから。でもA級を標榜したB級映画では絶対に許されません。この手の映画は格好の餌食になって酷評され、さげすまれ、軽蔑されるのです。そういう意味で『CUBE』なんかは宣伝はどうだったか知りませんが、A級として消化されたためあらゆる矛盾や説明不足もその作品の雰囲気を醸しだすためのツールとして見られたりするんですねぇ。なんて不公平な世界なんでしょう。
では。