言語空間+備忘録

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公共投資と乗数効果

2009-12-30 | 日記
井堀利宏 『日本の財政改革』 ( p.51 )

 公共投資の場合、供給面での長期的な効果を重視するのか、需要面での短期的な効果を重視するのか、二つの考え方がある。わが国の場合、景気対策としてケインズ的な需要面での公共投資の刺激策により大きな関心が向けられ、長期的にどの程度その公共投資が有益であるのかという観点が、乏しいように思われる。
 需要面での公共投資の有効性を図る指標が、公共投資の乗数効果である。すなわち、一兆円の公共投資によって何兆円のGDP ( = 国内総生産 ) が増加するかを表す大きさであり、これは需要面からの公共投資の刺激効果の大きさを測っている。公共投資により、まず直接その事業で使われる資材などの関連の建設意欲が活発になり、それが他の産業にも波及していく。他の産業でも消費意欲が活発になれば、経済全体の有効需要が拡大し、景気が全体的に活性化する。このような消費意欲の波及効果を合計したものが、乗数効果であり、これは追加的な消費意欲 ( 限界消費性向: 追加的な所得から消費に回される割合 ) が高いほど、大きな値となる。
 表4に示すように、この乗数の値が最近ではかなり小さくなっている。その理由としては、以下のようないくつかの説明が考えられる。(1) 税率 ( = 租税負担率 ) が上昇しているので、所得が増加しても税負担も増加するから、追加的な消費に向けられる割合が小さくなっている。(2) 日本経済の国際化が進展して、輸入が増大しているので、所得が増加しても、そのうちの一部が外国の財の購入=輸入に向けられ、国内での需要を刺激する効果が小さくなっている。(3) 変動為替レート制度のもとでは、景気が良くなると金利の上昇圧力が生まれるが、これは円高要因となり、日本の輸出を抑制し、輸入を刺激して、日本の総需要の拡大を相殺する方向に働く ( マンデル=フレミング効果 ) 。(4) 公共投資拡大の財源として公債を発行してまかなっているが、公債はいずれ償還されなければならない。これが将来の増税の可能性を予想させて、消費よりは貯蓄意欲の方を充実させようと家計が行動するので、追加的な消費の拡大効果が生じない ( 公債の中立命題 ) 。これらの説明はいずれも完全にあてはまるわけではないが、ある程度妥当するだろう。したがって、需要サイドからの公共投資の拡大のメリットは小さくなっている。


 日本では、公共投資について、長期的な投資の有益性 ( 供給面 ) が軽視され、短期的な景気対策としての側面 ( 需要面 ) が重視されている。需要面についていえば、その有効性を測る指標である乗数効果の乗数の値が、最近ではかなり小さくなっている、と書かれています。



 景気対策としての効果 ( 乗数効果 ) がかなり小さくなる原因として、

  1. 税率の上昇
  2. 輸入の増加
  3. マンデル=フレミング効果
  4. 公債の中立命題

が挙げられています。著者はこれらについて、「これらの説明はいずれも完全にあてはまるわけではないが、ある程度妥当するだろう」 とされていますが、私も、おおむね同感です。

 これらはみな、「ある程度妥当するだろう」 といった程度にすぎないのですが、ここでは、税率の上昇について意見を述べます。



 税率が上昇すると、「所得が増加しても税負担も増加するから、追加的な消費に向けられる割合が小さくな」 る、という説明は、すこし、現実に合わないのではないかと思います。

 税負担が増加するとはいえ、所得が増加したほうがよい ( 手元に残るお金が増える ) はずです。とすれば、このような理由によって乗数効果が小さくなるのであれば、なんら不都合はないのであり、乗数効果が小さくなることは、公共投資の成功を意味しています。

 したがって、税率の上昇 ( に伴う乗数効果の減少 ) は、他の 3 つの要因 ( 輸入の増加、マンデル=フレミング効果、公債の中立命題 ) とは異なり、公共投資が 「成功しすぎて効果が小さくなった」 ことを示しており、好ましい状況だと考えてよいのではないかと思います。



 とすれば、「乗数効果が小さくなったからといって、公共投資を縮小する根拠にはならない」 と考える余地があります。

 「ほかに、効果的な景気対策がある」 のであれば、それを実行するほうがよいのは明らかですが、「ほかに、効果的な対策がない」 のであれば、いかに効果が小さくなろうと、「成功している対策 ( 公共投資 ) をやめる理由にはならない」 と考えられます。

 もちろん、このように考えられるからといって、「だから公共投資を継続・増額しろ」 とまでは、ただちに言えないのですが、すくなくとも、「だから公共投資を削減しろ」 とも言えないのではないか、と思います。



 公共投資をどう考えるかは、日本の財政状況と密接に結びついています。そこで今度は、この本 『日本の財政改革』 を引用しつつ、財政問題について考えたいと思います。

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