6月7日 編集手帳
フランスの詩人ランボーの『朝の思い』はこう始まる。
<夏の朝、
四時、
愛の睡気がなおも漂う木立の下。
東天は吐き出だしている
楽しい夕べのかのかおり>
中原中也訳
人が目を覚ましたとき、
おぼろげに思いだすのは前の夜の幸せな記憶なのかもしれない。
警視庁の調べでは、
その子の起床時間も朝の「4時」だったらしい。
東京都目黒区のアパートで今年3月、
虐待死した船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)である。
父親の雄大被告(33)の指示で毎朝、
自分で目覚まし時計をかけて寝床から起きだし、
一人ひらがなの練習をしていたという。
<きょうよりかもっともっと
あしたはできるようにするから
もうおねがい
ゆるして
ゆるしてください
おねがいします
もうおなじことはしません
ゆるして>。
結愛ちゃんが大学ノートにしるした“朝の思い”である。
こんな切ない詩は見たことがない。
食事を十分に与えられず、
ときに顔を殴られ、
冷水をかけられ、
やがて衰弱して短い命を閉じた。
窓から朝の光がさし始めた頃、
けなげに一生懸命書いていたに違いない。
とってもえらい子だよ、
結愛ちゃん。