「双子は知らん顔で、運ばれてきたばかりのオムライスにゆっくりとスプーンを差し込んだ。ふっくらと盛り上がった卵はまばゆいばかりに輝き、トマトの多いデミグラスソースがとろりとかかっている。スプーンはふうっと湯気でくもり、卵の下からちゃんと炊いた薄いオレンジ色のピラフの米と、きつね色に焼けた鶏肉と、鮮やかなグリーンピースが表れた。」
『ヴィラ・マグノリアの殺人』 若竹七海著(光文社文庫,2002年)
これは主人公のセリナが働く、麗しのレストラン<黄金のスープ亭>での食事シーン。
この他にも、殺人事件の舞台になったヴィラの住民たちが、それぞれ注文したのは、「黄金色のパンプキンスープ」,「ムール貝の入ったパエリア」,「白身魚のから揚げ」,「エビのフリカッセ」,「金目鯛のから揚げ」…
これだけでも、洋食好きにはこたえられないラインナップなのだが、食事の後にワゴンで運ばれてくるデザートが、これまた素晴らしい。
「生クリームをたっぷり添えた紅茶のシフォンケーキ、ダークチェリーと口当たりの軽いカスタードクリームのタルト、ブドウのソースとキーウィーのソースのどちらかを選べる新鮮な卵でつくったババロア。それにワイン、ぶどう、ラ・フランスのシャーベットのセット。」
…うわぁ…、どれにしよう。私はこの場面になると、いつもどれを選ぶかで悩んでしまうのである。(↑真剣)
さて、この<黄金のスープ亭>にはランチも用意されていて、2人の刑事が訪れた日のメニューは「シーフード・スパゲティ」と「ロースト・ビーフ」の2種類。
謎解きが得意な駒持刑事がオーダーしたのは、「エビとイカ、ホタテに金目鯛、ニンニクを少々きかせたトマト味のスパゲティ」
そして、若い刑事、一ツ橋が選んだのは、「グレービーがたっぷりかかったローストビーフが六枚、黄金色に揚がったジャガイモと、ゆでたニンジンにグリーンピース、バターでいためたホウレンソウとカボチャの薄切り。付け合せの野菜を含め、皿全体からぽっぽと湯気が立ち上がっている。一ツ橋はものも言わずに肉にかぶりついた。噛むほどに肉汁があふれ、とろけた。」…加えてこれに、おもちゃのようにかわいらしい桃のタルトとコーヒーがつくのである。。。
迷う。ここでも、どっちにしようか、大真面目で迷ってしまう自分をアホだと思う…が、こんな悩みなら、いくらでも大歓迎である。
コージー・ミステリ好きで、食い意地のはった方、若竹七海は読んでみる価値ありですよ。
「おまけのつぶやき」
とは言ったものの、若竹七海は、よくわかんない作家である。
推理ものも書くし、オカルトもの、社会派ものと作風は多彩。
私は相当えぐいホラーや 、かなり痛い<葉村晶シリーズ>が苦手で、特に『火天風神』ときたら、どこにも救いがない話で息苦しいこと、この上なかった。
そうかと思うと、『古書アゼリアの死体』のように、どうしてもBOOK OFFに売り飛ばせない本もあるので、正直な所、かなり当たり外れが激しい作家の一人である。
この人の本は一通り読んでみたが、お馴染みの登場人物を別のシリーズに登場させる楽屋オチのような遊びが散りばめてあるので、そこらは結構面白い。
特に葉村晶はお気に入りキャラらしく、主役以外にも、あちこちで、チラチラとよく顔を覗かせるし、この『ヴィラ~』に出てくる角田港大、入江菖子、中里も他の話に登場する。
全部読んでみて1つ言えることは、「作者は絶対濃いお茶が好きだと思う」。タブン
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