MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

医療通訳徒弟制度説

2015-08-24 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
ある講座で
「ちゃんとした通訳者」と「ちゃんとしていない通訳者」の
違いを教えてくださいと質問されました。

「あっ」と気づかされた質問でした。
話の中で、無意識にそういうあいまいな表現をしてしまっていました。

確かに、
「信頼して任せられる通訳者」とか、
「患者さんがリラックスして受診できる通訳者」とか
「医療用語を知っている通訳者」とかいろんな意見があると思います。

でもその違いは明らかです。
「トレーニングを受けた通訳者」と「トレーニングを受けていない通訳者」の違いです。
そしてトレーニングを受け続けている通訳者かどうかということです。

「通訳技術」は学校や教科書である程度は学ぶことができます。

私も、医療通訳の講座がなかったころは、
同時通訳者の講座に入れてもらったり、
看護師の勉強会に混ぜてもらったりしながら自分たちの研修を探していました。
一番勉強になったのは司法通訳者の研修でした。
同じコミュニティ通訳であるといった共通点があったからかもしれません。

「医療通訳」はプラスアルファとして
当たり前ですが感情を持つ人間の言葉をつなぎます。
また、患者は病気という痛みやつらさ、ショックから、非日常的な感情を持ちます。
医療文化の違いや医療職の考え方の違いなどにも左右されますし、
本人の病識や性格などにも左右されることがあります。

ですので、ケーススタディや倫理に関するロールプレイで
こんなときどうするという事例を経験者とともに学ぶ必要があるのです。

医師や看護師といった専門職には実習が課せられています。
国家試験に通ったからすぐに医師や看護師になるのではなくて、
先輩から現場で様々なことを学びます。
現場が新人を育てるシステムができています。
中には教科書には載っていないこと、
人生経験を問われるようなことも含まれています。
また、医師や看護師になった後でも、研修会で学び続けブラッシュアップしていきます。
医療の技術はどんどん新しくなり、
倫理や患者への接遇も時代とともに変わっていくからです。
それにしっかりついていかなければなりません。

私は医療通訳は「職人色」が強い仕事だと思っています。
机に座って単語を学んでも、患者を前にすると
様々な不測の事態が発生します。
そんなときにどう対処するかは実は経験値から導かれることが少なくありません。
もちろん、いくら経験を積んでいるからがすべてではありませんが。

日本の中で、成功している医療通訳団体は、
MICかながわやIMEDIATAのように
ベテランの通訳者について経験の少ない通訳者が学ぶ機会があります。
これは医療通訳には絶対必要なことだと思います。
なぜなら医療通訳にはOJTはないから。
診察はそのときそのときが勝負だから、新人だからといって間違いは許されません。

先日のJAMIでの医療通訳者のセッションで、
医療通訳には「徒弟制度」が必要だなと強く感じました。
こうしたしくみをつくってこそ、
医療通訳者はバーンアウトせず、増えていく仕組みが作れるのです。

すべての地域で
経験者から学ぶシステムを作るのが難しいのであれば、
せめて研修はきちんと受けておくことが望ましいのです。

コメント
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