MVCメディカルベンチャー会議

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第89回MVC 定例会in大阪

2010年09月25日 | MVC定例会
社会医学について学ぶため、川上浩司氏(京都大学大学院医学研究科薬剤疫学教授)を講師にお招きして、「産業創出から見た医療」をテーマにお話しいただきました。

(1)私は現在、京都大学で医療、薬剤分野の各種の疫学研究、経済評価研究、レギュラトリーサイエンス分野の教育と普及などに従事しております。1997年筑波大学医学専門学群を卒業して耳鼻科医になり、卒後横浜市立大学の頭頸部外科学の大学院に進みました。1999年から渡米しFDA(アメリカ食品医薬品庁)の研究員、さらに行政官を経て帰国し、東京大学医学部助教授を経て、2006年に現職に着任いたしました。その他、慶應義塾大学の客員教授も兼務させていただいております。

(2)レギュラトリーサイエンスは、規制科学とも訳されることのある分野ですが、薬剤や医療機器の開発において極めて重要な役割を持っています。科学社会においては、評価抜きに開発はあり得ないのです。

(3)日本の臨床試験制度は世界の中で例外的に遅れています。これは治験と(未承認の)「臨床研究」とが制度的に乖離しているために、一貫した開発が妨げられているためです。米国におけるIND制度を日本流にアレンジして導入していくことは喫緊の課題です。

(4)臨床試験の制度の遅れは、海外で開発された新しい薬剤や機器を承認する遅れによるドラッグラグ、デバイスラグだけの問題ではなく、科学技術創造立国を標榜する日本が新しいイノベーションを生み出せないというより致命的な問題も生じさせています。

(5)米国における医薬品・医療機器行政を担うのがFDAです。FDAは国民が支払う連邦税から一人当たり3ドルの支払いを受けますが、それに加えて臨床試験(IND)を申請する企業から約4000万円を受け取り審査を行います。これは日本の特許庁のような受益者負担制度です。大学→ベンチャー→大企業という流れで新しい製品は市場に投入されますが、大学に対する審査は無料、ベンチャーに対する審査は小額、大企業には高額の負担が求められるというとてもスマートな制度です。


(6)そこで最も重要な概念がIND制度です。これはinvestigational new drug applicationsの略で、人間にFDA未承認の薬を投与する場合、すなわち臨床試験の実施にあたっては、すべからくFDAの認可が必要という制度です。日本国民の安全、健康の向上、産業創出、科学技術政策というすべての観点から、日本版IND制度の創設が重要です。現行規制では、新薬の安全性を評価するスピードが遅いことが新薬の創出にブレーキをかけています。

(7)1960年代に米国では医薬産業は国の基幹産業となりました。1980年に米国ではバイドール法がレーガン政権によって制定され、大学と企業と政府が一体化して新しい薬の開発を行うようになりました。医療における2010年問題というものがあります。これはこの頃に発売された新薬の特許が25年で切れて、後発薬が発売されるために、先発薬の市場におけるシェアが極端に落ちる現象です。

(8)1990年代には分子生物学とヒトゲノム計画の終了によって人間の全遺伝子配列が解明され、自由にタンパク質や遺伝子製剤を作成することが可能になりました。それまでは低分子化合物small compoundが中心だった薬剤開発が、ペプチドや抗体といったバイオ医薬品へと移ったのが2000年代です。新世代のレギュラトリーサイエンスという分野はここでさらに重要視されるようになりました。

(9)私たちのこれから10年の重要なミッションは医療保険制度改革です。国民皆保険制度は、病気になるときに生かされる助け合いのシステムですが、米国ですら国民総生産の伸びより社会保障費用の伸びが上回る時代ですから、日本でも制度改革を行わなければ国家財政が持たないでしょう。また、世界を席巻するhealthcare technology assessment(HTA)の時代においては、比較費用効果分析(CER)が重要となっていきます。

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