MVCメディカルベンチャー会議

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第3回MVCパワーランチ

2007年07月10日 | MVCパワーランチ
 私は株式会社メディカルプリンシプルの代表取締役社長を務める中村敬彦と申します。銀行業界に身をおいていましたが、50歳を過ぎてから縁があって、弊社の代表を任されることになりました。医療に関して、患者目線で感じていていたことを今の事業に活かしています。今日は、将来の日本の医療を担う医学生の皆さんに、現在の医療界の課題と皆さんの目指すべき将来像についてお話させていただきます。

<患者と医師の関係>
①最近気になる話題として、学校に弁護士を配置するとの報道がありました。保護者からの「我が子が卒業写真の真ん中にいない」「演芸会でなぜ主役じゃないのか」「なぜ掃除をさせるのか」といった自分の子供中心の発想が苦情として噴出し、教育者が困惑している、という背景があります。医療界も同じような状況です。医師は患者さんの診断に全力投球しなければならないのにクレイム対応で忙殺される場合すらあります。

②このような現象はどっちに理があるというのではなく、医師も患者にも改善努力が望まれるのだと思います。医師を目指される皆さんには是非、患者にオーラを感じさせるような人になってほしいと思います。医師として必要手技を身に付けることは言うまでもありませんが、単に医師としてだけではなく、皆さんが所属して生計をともにしている社会の一員であることを自覚することから、医師としてのオーラは始まると思います。地域社会の一人として、家庭人として、医師として、医学生として、自分が生きていく中で社会に何が出来るのか、それを目指して今何をするべきか、という自分の将来=夢と今置かれた現実の中で、何をしなければならないかと考えていけば一人の医師としてだけはなく、社会の中に生きる医師像が見えてくる筈でしょう。

③医師、教師、僧侶は昔から聖職と言われています。何故でしょうか。それは人々の心に影響力を持っている立場だからでしょう。患者から見たら医師は神様であり、命の全てを託したい存在です。近代医学の進歩で技術偏重になっているのですが、是非、患者さんと心の交流が出来る医師になって欲しいと願います。ある統計結果によれば、医療行為だけではなく丁寧に話し相手を務めた患者集団と、治療だけの接点しか与えられなかった患者集団では患者のQOLに明かな相違が出たと聞きます。死を迎える患者にも医師としての役割があることを忘れないで欲しいと思います。

<アイオワ州立大学病院と病院経営>
④6月にアイオワ州立大学病院で医療経営のセミナーを行いました。米国は自由診療だから日本にとって参考にならないと言われますが、結果的には米国でも保険会社の審査機関が医療費をコントロールしているので病院経営という点での収入が所与という点では違いがありません。日本の医療界ではパターナリズムが前提になっていますがアイオワ大学では「患者のため」という病院のミッションを全てのスタッフが共有していて、ミッションに沿った具体的な指示が病院の隅々に行き届いているのを実感しました。立場の利害も患者本位に立脚すれば違いより、共通さが見えてきます。一般企業と同様、病院にもしっかりした方向性のもと医療と経営が役割分担と融合のもとに見事に機能しています。アメリカでは横方向のチームプレイがすすんでいますが、いまだに日本では縦割りになりがちで、医師が誇りを持ちにくいのではないでしょうか。

⑤医療の標準化が浸透している米国でも、各組織の治療が融合する形で長い時間をかけて、医療は標準化してきました。しかし、日本では医療機関毎の医療方針がまかり通り、本来なら診療報酬で治療の標準化されているはずなのに、個々まちまちが許されています。西高東低といわれる診療報酬のばらつきやDPCが導入された際に生じた病院毎の係数が認められているところにも標準化が実現できていない実態を示しています。Experience BasedからEvidence Basedに移行するために、過去からの決別の必要でしょう。

⑥米国では医療に携わるスタッフの国籍が多岐にわたり、多くの外国人によって支えられています。それは米国の先進性に魅力を感じ学びたいと言う面もありますが、先進国からの流入は別として開発途上国からも大勢の人が流入しています。母国に帰らず恵まれた環境ということで残っているのでしょうが、首を長くして待ちわびている母国の患者にとってはどう見えるのでしょうか。そんな視点も残して欲しいと思います。日本でも地域医療崩壊が叫ばれていますが、同じレベルの問題でしょう。南北問題や地域格差の原点はこんなところにある気がします。
  
<家庭医制度の導入>
⑦家庭医というゲートキーパーは言うまでもなく必要です。今日本の大学では総合診療部は壊滅的状況といえます。なにしろ家庭医専門コースが制度的に認知されていないのですからやむを得ませんが、喫緊の課題は家庭医の育成です。アメリカでは家庭医の質を支えるために家庭医専門医コースがあって、その生涯教育を支えるAmerican Academy of Family Physicianという大きな非営利法人があって水準の維持を図っています。それに引き替え日本では自由標榜制ですから何を診療するかは医師本人に任されている。病院では専門以外を見ることはなくても開業したら専門以外も診療科にしないと経営が成り立たないと言うことで一般性の高い標榜をする傾向があります。そこが日本の医療制度のアキレス腱です。総合医=家庭医の医育には時間がかかるので、それまではグループで診療が出来る体制が必要だと考えています。そして一部の地方ではスタートした地域パスを導入したりして病診連携によって患者が必要な施設で治療するようにならないと医療財政はますます悪化します。さらに深刻な問題は、報酬で恵まれない勤務医が病院から去る時代が来ていることです。

<Medical Principle社の考える医療の人材流通>
⑧私は57歳になってはじめて医療界に貢献したいと起業し、活動のフィールドをもっともっと広範に実現していきたいと燃えています。医療をよくするために、まず医師が縦社会から解放されて横移動しやすくなることが必要と考えています。弊社が標榜している民間医局は、医師が流動化することでいろいろな考え方があり、違いを知ることとその結果として患者本位の医療が実現するシステムが出来るように応援することです。しかし、創業時には弊社のミッションを正しく理解し、受け入れてもらえる環境にはなかったので、想いを伝える媒体がDoctor’s Magazineであり、医局や学閥を超えて活躍された先生の死生観や人生を語っていただく雑誌です。その積み上げの結果、大学ともコラボレートしながら大学医局という軸で動く医師とそこを離れて我々の「民間医局」で働く医療機関を探していける両者が共存出来る時代になってきました。これからも医療の改革につながるビジネスを提案して行き続けたいと思います。




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