TOKYO ⇔ SAIGON そしてたくさんの街へ

東京とサイゴン、そして、いろいろな街を巡ります。

青いマフラー

2008-02-21 | Weblog

パソコンのソフトウェアと周辺機器以外、何も欲しがらない子だった。

服や小物も欲しがらない。誕生日はプレゼントに困った。

12月20日の誕生日、「誕生日が模試だなんて」といいながら、彼女は大学受験の模試に行った。

私はその間、何か喜びそうなものを探しに行ったが、欲しいものがない子なので想像がつかない。
迷いに迷って時間切れ。諦めて、彼女を駅まで迎えに行く。

「模試の昼休みに献血してきた」と言って、真っ青な顔をしていた。

「試験の最中に献血?!」と私は少し怒った。

良いものが見つからなかったお詫びをいうと彼女は、
「誕生日はお年玉と一緒でいいよ」と言った。

3日後の23日は天皇誕生日で休日なので、私は再び、プレゼント選びにリベンジした。
ようやく彼女が好きそうな、黒いコートをボーイズ用の中で見つける。

彼女はきっと気に入る。確信があった。前のめりになりながら渡した。

「はい、これ!誕生日おめでとう!」
「あ、ありがとう!」

その後、早速そのコートを着て、車でおじいちゃんが入院している病院に向かった。

助手席で娘が、静かに言った。

「お母さん・・・コート・・・ありがとう」

わたしは不思議になって聞いた。
「あれ、さっきもう言ったよ。なんで改めて言うの?」

娘は答えた。
「さっきのは、『悪い、あれとってくれる。あ、ありがと』っていう感じの言い方だった。
今度のは『本当にありがとう』」


何も欲しがらない娘が、そのあと珍しく言った。

「久々にこれに合うマフラーが欲しくなった。マフラーぐらいは自分でお金を出すから。
今度の休みに一緒に買いに行ってくれる?青いのがいいかな」

娘と一緒に、ファッション系の買い物ができるなんて何年ぶりのことだろう。
嬉しかった。

「うん、じゃあ土曜日に、おじいちゃんの用事がすんだら行こう!」わたしは勇んで行った。
「じゃあ6時に迎えに来て。それまで寝ている」

受験勉強中の娘は、昼夜が逆転していた。 

12月25日、わたしは父の転院手続きや買物、病院への挨拶などで、朝からずっと外に出ていた。
夕刻、娘を迎えに帰った。ちょうどクリスマス。一緒に、青いマフラーを買いに行くつもりで・・・・。

娘の部屋は冷たく静まりかえっている。本能的に嫌な予感がして、私はドアをあけた。






1年後の誕生日、結局買うことができなかった青いマフラーをプレゼントにして遺影の前に置いた。


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