パソコンのソフトウェアと周辺機器以外、何も欲しがらない子だった。
服や小物も欲しがらない。誕生日はプレゼントに困った。
12月20日の誕生日、「誕生日が模試だなんて」といいながら、彼女は大学受験の模試に行った。
私はその間、何か喜びそうなものを探しに行ったが、欲しいものがない子なので想像がつかない。
迷いに迷って時間切れ。諦めて、彼女を駅まで迎えに行く。
「模試の昼休みに献血してきた」と言って、真っ青な顔をしていた。
「試験の最中に献血?!」と私は少し怒った。
良いものが見つからなかったお詫びをいうと彼女は、
「誕生日はお年玉と一緒でいいよ」と言った。
3日後の23日は天皇誕生日で休日なので、私は再び、プレゼント選びにリベンジした。
ようやく彼女が好きそうな、黒いコートをボーイズ用の中で見つける。
彼女はきっと気に入る。確信があった。前のめりになりながら渡した。
「はい、これ!誕生日おめでとう!」
「あ、ありがとう!」
その後、早速そのコートを着て、車でおじいちゃんが入院している病院に向かった。
助手席で娘が、静かに言った。
「お母さん・・・コート・・・ありがとう」
わたしは不思議になって聞いた。
「あれ、さっきもう言ったよ。なんで改めて言うの?」
娘は答えた。
「さっきのは、『悪い、あれとってくれる。あ、ありがと』っていう感じの言い方だった。
今度のは『本当にありがとう』」
何も欲しがらない娘が、そのあと珍しく言った。
「久々にこれに合うマフラーが欲しくなった。マフラーぐらいは自分でお金を出すから。
今度の休みに一緒に買いに行ってくれる?青いのがいいかな」
娘と一緒に、ファッション系の買い物ができるなんて何年ぶりのことだろう。
嬉しかった。
「うん、じゃあ土曜日に、おじいちゃんの用事がすんだら行こう!」わたしは勇んで行った。
「じゃあ6時に迎えに来て。それまで寝ている」
受験勉強中の娘は、昼夜が逆転していた。
12月25日、わたしは父の転院手続きや買物、病院への挨拶などで、朝からずっと外に出ていた。
夕刻、娘を迎えに帰った。ちょうどクリスマス。一緒に、青いマフラーを買いに行くつもりで・・・・。
娘の部屋は冷たく静まりかえっている。本能的に嫌な予感がして、私はドアをあけた。
1年後の誕生日、結局買うことができなかった青いマフラーをプレゼントにして遺影の前に置いた。
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