ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

映画、旅、その他について語らせていただきます。
タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

シルヴィア・クリステル 1975年のインタビュー(2)

2019-03-14 00:00:00 | 映画

エロティシズム

 ―そうすると、あなた流にいうと、エロティシズムを実現するのは、そう簡単にはいかないことなんですね。

 K そうなんでしょうね。私風にいったら、何にも見えなくなるでしょうね。(笑)でも、エロティシズムを映画で表現することは、できますよ。例えば、「風と共に去りぬ」とか…。「アリスの恋」のクリス・クリストファーソンのまなざしからでてくるエロティシズム,なんてのを見ていると、もう気絶しそうになっちゃうわね。

 ―ジャコベッティの演技指導はどうでした? 彼はくわしく演技を指定する方ですか、それとも自由にやらせる方ですか?

 K 彼が私に言ったのは、「第一部では、君は、目を見開いていろいろのセックスの発見をしていく無垢な女だったけれど、第二部では、もっと成熟した女だし、あなた自身も子供を生んで、この二年間の間に変わっただろうから、第一部の演技はすべて忘れろ。一部のように大きく目を見開くのは、やめよ」これだけは言われました。それ以外は、まあ時時ゆっくり歩けとか、そういうことは言うけれど、特別に演技指導らしいことは、なかったわね。

 ―演技というと、エクスタシーに浸るシーンなんていうのは、頭の中で想像をめぐらせるわけですか?

 K 全然! それは簡単なテクニックよ。「口をひらいて」とか「目をひらいて」とか言われてね。そんなの、誰でも5分もあれば、おぼえられますよ。そんなのより、おかしくもないのに、自然に笑うことのほうが、よっぽどむずかしい。

 ―二部のなかの鍼(はり)を、うつシーンですけど、あれは本当に刺したんですか?

 K いいえ、第一私は注射が大嫌いな人なのよ。(笑)お医者さんに注射される位なら、病気のままでいた方がいい、という位なんだから…。鍼のシーンではいろいろメークの人が工夫してくれて、けっきょくセロ・テープで止めたんです。口のなかのは、歯の間の隙間にいれたの。

 ―一番むずかしいシーンは、どこでした?

 K 夫のジャンと椅子の上でセックスするシーン。非常にむずかしいアクロバットみたいな姿勢を要求されたので、終わった時は、身体じゅうアザだらけなった感じでしたよ。(笑)その日の撮影は、一番クタクタだったな。でも、それはおかしな体操を要求されてむずかしかっただけじゃなくて、このシーンは、自分としても気がのらなくて「嫌だ」といったの。ところが、監督さんが「まあ一応撮るだけ撮って、明日ラッシュを見て、それでも気に入らなければ、採用しないから」としきりに言うんで、撮ったの。翌日、ラッシュを見ても気に入らず、もう一度「嫌だ」と言ったんだけれども、それでも映画のなかでは残っちゃってる。いくつか、そういう自分で出したくないシーンってのはありますよ。例えば、いれずみ男のシーンなんて、いやらしいでしょう? それから、夫とのシーツを使ったシーンなんて、突然、夫の手がスッとお尻のへんにまわるけれど、あれも映画には残っちゃってます。でも、私も悪いのよね。考えてみれば、撮る前に気に入らないのが、撮った後で気に入るわけはないわけで。一応撮ろうというのでOKしたのが、そもそも私のまちがいともいえるわね。これからは、口約束だけで人を信じないで、絶対気にいらないのは、撮らないようにしなけりゃいけないな、と思ってるんです。次回からは、気の進まないときは、カメラの前にたたないで、スタジオから帰ろう、と思ってます。

 ―でも、この種の映画に出る以上は、多少恥ずかしくっても、撮らなくちゃいけないっていうシーンが、どうしても、あるんじゃないですか?

 K それは、そうね。でも、女優ってのは、拒否する権利が絶対にないってことは、ありませんよ。

 ―なるほどね、いわゆる”濡れ場”のシーンというのは、嫌だってことは、あるでしょうね。わかるな。

 K どういうシーンですか。「ヌレバ」って?

 ―いや、要するに、どういうのかな。「たじろぐようなベッド・シーン」ですよ。

 K ベッド・シーンを撮るのは、全然こだわりませんのよ、私。知らない俳優さんとやっても、そばにスタッフの人がいても、ね。

 そうすると「卑俗ないいやらしいシーン」が嫌なわけですね?

 K いや、いやらしいシーンがいやだ、というのじゃなくって、美的なシーンじゃないものがいやだ、という意味です。いやというよりも、退屈ですもの。一日に何回も何回も、そんなことをくりかえしているのって。(笑)(採録者注:太字部分は原文は傍点)

 ―ところで、第一作では、エマニエルが口紅を最後に塗って終わりますが、あれは、彼女が「女になった」ことを、示しているわけですか?

 K ええ、その通りです。

 ―第二作では、ずっと口紅をつけていたわけですか、エマニエル夫人は?

 K いいえ、ずっとじゃないですよ。私は、もともと唇が紅くて、ほら、今私は唇に何もつけていなくても、紅いでしょ? むしろ、第一作では、紅くみせないために、肌色の口紅を塗ってたのよ。

 ―いずれにしても、口紅ということでエマニエルの成熟を現しているわけですね?

 K ええ、だから、第二作の方では、ところどころ非常に大げさに紅くしたわけです。第二作での口紅の使い方ってのは、私も気にいってるの。特に香港の女性が躍るレセプションのシーンは、口紅をわざとオーヴァーにつけているの。だから、洋服も黒っぽいものを着て、口紅をひきたてさせようとしているわけ。髪をあげてる所は、映画のなかで一番好きな所ね。

 ―私達も、あなたは髪をあげてる方が魅力的だ、と思いますよ。

  K 私もそう思うんだけれども、髪をロングにしたのは、監督さんの趣味なんですよ。

 ―一作目を終わった時、クリステルさんは「もう第二作は絶対やらない」とおっしゃっていたそうですけれど、その時は、本当にそう思ってたんですか? それとも気まぐれ?

 K 本当に思ってたんですよ。だから三作目は絶対、やりません。だって、同じ映画ばっかりやってると、つまんないもの。

 ―次回作は?

 K 二週間後に、アンドレ・ピエール・マルディアルグの原作もの「ラ・マルジュ」(「余白の街」)の撮影に、入る予定です。次がセルジュ・コルベールの「寝台車のマドンナ」。これは、私の好きなコスチューム・プレイなので楽しみね。それから、ロジェ・バディムと「危険な関係」を撮ります。「危険な関係」は彼の二度目の映画だけれど、前作より、もっとロマンティックに、なる予定です。その次にアメリカ映画で「鉄仮面」。これはいろいろ国際的なスターが、顔を並べると思いますよ。

 ―アラン・ドロンとの共演の話は?

 K ああ、ジョゼフ・ロージーの「ミスター・クライン物語」ですね。あれはことわりました。ほんのちょい役だったものですから。

 ―日本でCMを撮る話は?

 K まだ契約してません。でも、多分すると思います。洋服のCMですね。

 ―日本映画からの話は?

 K ああ、そんな話もあって、でもまだ本も受け取ってないし、これは本を読んでみなければ、何とも言えません。それより今は、日本のみなさんが「続エマニエル人」を好いてくださるかどうか、のほうが心配ですわ。

(了)(「キネマ旬報」1975年12月下旬号 p.62~65)

上に出てくる映画の中で、「寝台車のマドンナ」と「鉄面皮」については確認できませんでした。前者はお釈迦になったのでしょうが、「鉄面皮」についてはそれも不明です。リンクを張った映画は、違う題名で日本では公開されています。それからドロンとは、「エアポート80」で共演しています。客室乗務員の彼女、けっこう似合っていたような気がします。

>三作目は絶対、やりません。だって、同じ映画ばっかりやってると、つまんないもの。

三作目出たじゃんと思いますが、この時は確かにそう考えていたのかもですね。わかりませんが。彼女は1952年生まれですので、このインタビューの際は23歳、存命なら今年67歳です。

コメント (4)
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