ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

映画、旅、その他について語らせていただきます。
タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

どういう了見で、毎日新聞はこんな記事を書くのか

2018-01-08 00:00:00 | 社会時評

先日の毎日新聞の記事を。

中国

留学生殺人で東京地裁に傍聴殺到 司法違い感情論も

東京で昨年11月に起きた中国人留学生殺人事件の裁判員裁判に中国メディアが殺到する異例の事態が起きている。東京地裁で開かれた20日の判決公判には35席の傍聴券を求めて中国メディアや中国人留学生ら294人が列を作った。一人娘を失った被害者の母親に対し、インターネット上で「一人っ子」世代の若者らの同情が集まったためだ。司法の独立など日本の法制度との違いから感情論も目立ち、国営メディアが沈静化に動いている。

(後略)

あの・・・。この記事のスタンスでは、大要「中国人は刑事司法に(日本人とちがい)感情論で対応する」ということのようですが、日本の刑事事件や裁判の報道だって、感情論だらけじゃないですか。

私がくりかえしとりあげる「名古屋闇サイト殺人事件」における毎日新聞の2012年の報道はどうでしょうか。

裁判官が判例に固執することを批判して、なにがどうなってほしいんだか

この記事でご紹介した被害者遺族(母親)の発言やそのような発言を法科大学院で講演する(させる)という母親と法科大学院側の常識や見識もひどいですが(なおこの法科大学院はすでに新規募集を停止しています。失礼ですが、こんな講演をさせる法科大学院なんて社会に不要です)、毎日新聞はこの女性の発言を垂れ流していますからね(呆れ)。

この女性の主張する

>裁判所は判例に固執して殺害された被害者の数にこだわり、加害者の人権ばかりを重視してきた

なんて発言は、妥当なものなのか、参考になるというレベルのものなのか、議論するのも馬鹿馬鹿しいというものでしょう。こんな発言をどうしてもしたいのなら、この女性のサイトや「犯罪被害者・遺族の集い」(仮称)とかですればいいのです。あるいは自分で本でも書けばいいじゃないですか。法科大学院で講演させたり、新聞で注釈なしに報じてあげるような代物ではない。またこの記事では、

>富美子さんは事件後、極刑を求める署名活動を展開し、署名は33万人分を超えた。

とあります。これだって、「死刑にしろしろ」という民意じゃないですか。

あるいは、光市でおきた少年(当時)による母子殺人事件だって同じじゃないですか。あれマスコミが厳罰をあおったり、やたらネットとかで厳罰主張がはびこらなければ、はたして高裁まで無期懲役判決だったのが最高裁で差し戻しになりましたかね。怪しいものだし、どっちにしたって当時の日本での論調は、とても感情論と無縁であるとはいえないでしょう。上の記事では、

>王雲海・一橋大大学院教授(刑事法)は多くの中国メディアから「死刑判決を求める中国の民意がなぜ無視されるのか」と繰り返し尋ねられた。中国では「司法の独立は西側の誤った思想」(周強・最高人民法院院長)とされ、社会的に注目される事件では治安を重視する共産党の意向は無視できない。「『人民の意思』の名目で厳罰が科されることは珍しくない」という。

とありますが、日本だって少なくとも

>死刑判決を求める中国の民意がなぜ無視されるのか

という意見は、上の2012年の記事はそのものじゃないですか。日本はそうではないなんていうものではない。

全くどうでもいい話ですが、私の記事に投稿された次のようなコメントはどうでしょうか。

>冤罪もそもそも必ずしも全く非の打ちどころのない人が疑われて牢屋にぶちこまれたわけじゃない

こういうことをほざく連中が、「日本は法治主義だが、中国や韓国は人治主義である」とかって主張するんでしょうね(笑)。本当の馬鹿でクズとは、こういうコメントをするような人間です。最低最悪、正真正銘の人間のクズです。

もっともコメントしたご当人も、さすがにこのくだりは「まずかった」と思ったみたいで、その後も執拗にコメントしてきましたが、この部分は「なかったこと」にしたみたいですが(笑)。「幸福の黄色いハンカチ」じゃありませんが、草野球のキャッチャーです。みっともないにもほどがあります。

ほかにも拉致問題だって、あるいは歴史修正主義言説だって、けっきょく愚にもつかない感情論の垂れ流しがひどいわけです。拉致被害者家族らの小泉首相(当時)や田中外務審議官(当時)らへの家族会の罵倒などは、巣食う会の連中からあおられたのは事実としても、全くの感情論でしかないでしょう。あれから15年を超えた歳月、、いまだ誰一人として、北朝鮮側が生存していないと通告した拉致被害者は消息すらつかめないわけです。また、歴史修正主義だって、けっきょく自分たちの親、先祖、日本人が戦争犯罪をしたとは思いたくない、といったような感情論がその大きなバックボーンにあります。事実や理屈じゃないからどうしようもない。たとえば百人斬り裁判だって、戦犯将校が母校で自分が捕虜を斬ったという講話をしたことは志々目証言などで裁判前からわかっていたし、裁判中に百人斬りについて詳細に記した本が発見されたり(望月本)、また裁判が事実上決着がついた後(控訴審が、1回の口頭弁論で結審した後に発表、この訴訟指揮は、事実上原審の判決が維持されることを意味する)その関係についての調査が公表(秦論文)されましたが、そんなものは裁判を主導した稲田朋美らにとっては、「信用できない」かそれでは逃げられなければ「見て見ぬふり」をするものでしかないわけです。そうやってますます感情論をあおるわけです。

それで毎日新聞は、さすがに(現段階)歴史修正主義を支持はしていないでしょうが、拉致問題はどうなんですかね。家族会や国民、巣食う会の感情論をろくに批判していないでしょう。それに乗っかっているのが現実です。産経新聞などは、嬉々として感情論にもとづく歴史修正主義言説や厳罰支持言説を報道していることは言うまでもない。

もっともこういう記事を書く記者は、「自分は司法の感情論について書いたのであり、他の感情論は関係ない」とか「拉致問題(闇サイト事件)での感情論は正当だ」くらいのことを真顔で言いかねないなと思います。あるいはそもそも「拉致問題(闇サイト事件)の拉致被害者家族(遺族)の主張は感情論ではない」くらいの主張もありかもです。いずれにせよどうしようもないにも程があります。私は前に、

>第三者から批判されたら、「いや、この記事はこの女性の発言を紹介しただけで、当社はこの発言の妥当性には関知しない」とでも言うのでしょうか。それは確かにそういうことになるのですが、どうもなあです。犯罪被害者の保護とか、犯罪被害者家族(遺族)の権利の保護っていうのは、妥当でない発言をした際にもそれを無批判に垂れ流す(という表現はよくないでしょうが、この記事は「垂れ流す」というものです)ってこととは違うだろうと思います。

と書きましたが、あの最低最悪の記事を書いた記者も、けっきょく被害者の母親の感情論に心を動かされてしまって、あんなひどい記事を書いたのだと思います。

ところで上の毎日新聞の記事のくだりに

>国営メディアが沈静化に動いている。

とあります。

このくだりがもし正しいのなら、むしろ中国政府や中国共産党は、あらぬトラブルが起きないように心を砕いているってことになりませんかね? もちろんこのようなことに政府なりなんなりが論評するのはどんなものか(表現の自由の範疇だろ)というような意見もありでしょうが、あおるよりははるかにまともな対応でしょう。このあたり中国側もそれなりに気を使っているということです。

この事件は中国人が中国人を日本で殺したというものであり、これで犯人が日本人だったら別の意味でやばいことになっていた可能性がありますが、いずれにせよ日本人は中国人とちがい刑事司法に対して感情論で対応しないなんて上から目線で言うような話ではありません。それって単なる中国人差別だろうと思います。

なおこの記事は、bogus-simotukareさんの記事を参考に書きました。感謝を申し上げます。

コメント (73)
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