ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

870 アベニュー

2009年02月26日 | 友達とわたし
やって来ました、ダイナマイトソプラノ歌手Aちゃん!
メールで送られてきたホテルの住所をグーグルで検索して、準備万端、彼女からの「着いたよぉ~!」電話を待つばかり。
今日はたまたま、朝のピラテスさえおサボりしたら、4時半まで仕事が無かったので、こりゃもうAちゃんをまずモントクレアに連れて来て、一緒にお昼なんかを食べ、わたし達の仕事中は留守番&昼寝をしていてもらおうと、勝手に決めちゃいました。
ちょいと疲れた声の「今タクシー待ってるとこ」連絡を受け、時間を見計らってマンハッタンへ。11th Ave.寄りの55th St.ふんふん、簡単じゃん♪
ところがところが、その辺りに行くと、ホテルがあるような雰囲気がまぁ~るでしません。思いっきり倉庫、そして学校、あれれ
こりゃいかんってんで、Aちゃんの携帯に電話すると、全く通じない、かからない、あ~ダメだこりゃ!
今度はホテルにかけてみました。オペレーターの人に「ホテルのロビーにつないでください」というと、「どうしたの?」と聞かれちゃいました。
なので、「日本から来た友人が、そちらのホテルに滞在する予定になってて、けれどもチェックインが4時なので、それまでの間遊ぼうかって」
「ふんふん、それで?」
「それで、彼女はもう1時間も前にJFKからタクシーに乗ってそちらに向かっていて、だからもう着いているはずで、けれども部屋に入れないのだから、ロビーでわたしが迎えに来るのを待っているはずで」
「ああ、今ねえ、ロビーはもうめちゃくちゃ混んでてね、ロビーに電話をつなぐことはできないのよ」
「そうなんですか……」
「ごめんなさいね、いい週末を!」
な~んて言って明るく切られちゃったわたし。
こりゃいよいよヤバいと思い、駐禁の通りに車を停めて、通りの周りを小走りで調べてみました。
そんな、むちゃくちゃに混んでるようなホテル、あったら目立つよなあ……。

かなり焦りながら、もう一度車の中に入り、頭を冷やして考えようと、メモをじっくり読んでいると……、
うん?870 Ave.、このマンハッタン島に870 Ave.なんてあるわけないやん

そこでもう一度ホテルに電話をかけ、出てきた別のオペレーターに、今度は強固に、ロビーにつないでほしいとお願いしました。
なぜだかまたまた事情を聞かれたので、前のオペレーターに説明したのとほぼ同じ話をし、4時までなんて言わないで部屋に入れてあげてよ~というお願いを追加しておきました。
やっとロビーにつないでもらい、彼女の名前を伝えると、大声で名前を連呼する声が聞こえました。でも居ないようです。
かなり心配になってきましたが、仕方がありません。もう自分で行くっきゃないと決めて、正しい住所を教えてもらいました。
7th Ave. のカーネギーホールのすぐそばにある、とても大きなホテルでした。

最寄りの通りに、幸運にも1台停められるスペースが見つかり、いそいそとパーキングメーターに小銭を入れようとすると、25セント玉か1ドル玉しか使えないと書かれてあり、わたしは1枚の25セント玉しか持っていませんでした。
まったく……困っているわたしの前に車が停まり、運転席から男性が降りて来たので、「あの、10セント玉5枚と25セント玉2枚、交換していただけませんか?」とお願いしてみました。
「お易い御用です」と言いながら、男性はポケットをゴソゴソ、後部座席に乗っている男性もゴソゴソ、1枚ずつ見つかった25セント玉をわたしの手のひらに乗っけてくれました。
「あの、これ、10セント玉5枚、受け取ってください」
「いいよいいよ、こんなちっちゃなこと。僕達からの贈り物、受け取っといて。楽しい1日になりますように」と言って、車は行ってしまいました。
時々、わたしはこういう親切に恵まれます。そしていつも思います。彼らにとっては小さな親切だけど、受けた方のわたしがどれほど助かるか、
感謝の気持ちを伝えられないまま、去ってしまう人達に、今度はいつか、どこかで、自分がなりたいなと思います。
 
Aちゃんは、ロビーの椅子にちょこんと座っていました。
電話で聞いていた通りロビーはとても混んでいました。ザッと見渡しただけでは見つからず、2度目のゆっくり見直した時に、ちっちゃい彼女を見つけました。
旅行前の3日間、大学の仕事やら税金の確定申告やらでてんてこ舞いだった彼女。ろくに眠らずにやって来て、飛行機の中で寝ようと目論んでいたのに、映画を3本も見て(「おくりびと」も観たそうな!羨ましい!)、さらに『24』まで観ちゃって、もう目がトロトロ。大丈夫かなあ。

家に着きキッチンに入った途端、「あ~落ち着くわぁ~、初めての気がしないね~」とAちゃん。わたしも旦那も同感。彼女がアメリカ初体験なんていうのが信じられません。
近所のタイレストランからテイクアウトした、パドタイとトムヤンクンを食べ、食後の鍼治療で爆睡したAちゃん、独りでお留守番をしてもらいました。
Aちゃんは先日の幼馴染みS子が伴奏者としてパートナーを組んでいた、それはそれは素晴らしい声の持ち主さんです。
ウィーン、スイス、その他いろんな場所で研鑽を積み、バッハ国際コンクールの女声部門で、S子の伴奏で1位を獲った実力者。
ポジティブ思考を持ち続けるための努力と研究を怠らない、一緒に居るとこちらまで体の芯がピンとする女性です。

「あのねえ、わたしがまうみと1番最初に会った時ね、まうみは楽屋のトイレに隠れてたんだよ。だからすっごい印象に残ってるの」
その日のAちゃんとS子のコンサートに、行くか行かないか、とても迷ったのを覚えています。
前の結婚で暮らしていた町の近くにあるホールで、そこに来る観客に、わたしを知る人が大勢いることも分かっていました。
離婚してから少なくとも6年が経っていましたが、その時はまだ、知っている人と顔を合わすことが恐くてたまりませんでした。
きっとAちゃんは、そんな登場の仕方をしたわたしを、いったい何をしでかした女なんだろうかと思ったでしょうね。
いやいや、わたしはそんなことをすっかり忘れていました。でも、話を聞いて、隠れていたトイレの鏡に映る、なんとも頼りな気な目をしたわたしの顔を、じっと見つめていた時の自分の心が思い出されてきて、あんなわたしも居たなあ……と懐かしくなりました。

彼女の歌には、詩があり、魂があり、時に笑わせ、時に懐かしがらせ、時に泣かせます。特にわたしはよく泣かされます。困ったもんです。
もしかしたらニューヨークで1年、勉強するかもしれない。そういうプランがあり、今回はその下見のための旅行です。
なんだったらうちで下宿しなよ。なぁんて、先に下宿してもらえる家を買わなあかんのとちゃいまっかぁ~と内緒で突っ込んでいるわたしです。



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2 コメント

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縁って... (かめさんさん)
2009-02-27 23:04:26
不思議ですよねぇ。糸がからまるようにいろんなとこでいろんな人との出逢いがあって。そして状況も変わっていく。

まうみさんの辛かった日に出逢ったお友達、それから時は過ぎ、今では暖かい太陽に包まれているような日にまたこうして再会できて良かったですね。

素敵な歌声が聴こえてきそうです。
ありがたいことに、 (まうみ)
2009-02-27 23:35:32
わたしの周りには、それはそれは素敵な、人間として面白い、または尊敬したくなる人が少なくありません。

彼女の歌は、言葉にすると何ページもかかりそうな、それでいて、ほんと、いいよ~ですべてが分かってもらえそうな、また聞きたいなあと心から思える声です。
もしニューヨークで勉強すると決まったら、きっとかめさんさんにも聞いてもらえるチャンスがあると思います。

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