ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第 8回 Domaine Robert Arnoux@「キャッチ The 生産者」

2008-12-28 16:28:38 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2005年2月11日)

第 8回  Pascal Lachaux  <Domaine Robert Arnoux>



第8回目のゲストは、 フランスのブルゴーニュ『ドメーヌ・ロベール・アルヌー』の現当主パスカル・ラショーさんです。
ラショーさんは、日本各地でのテイスティングセミナーのため、第7回で登場したジャン・マルク・ピヨさんと一緒に、2004年12月に来日しました。


<Pascal Lachaux>
1962年生まれ。Beaune(ボーヌ)で薬剤師をしていたが、先代の娘との結婚をきっかけに、1985年にドメーヌ・ロベール・アルヌーに入る。
ディジョン大学で1年間醸造について学び、他のドメーヌでも研修を経験。先代の没(1995年)後は、ドメーヌ・ロベール・アルヌーの5代目当主となる。
現在、生産量の70%を輸出し、主要輸出先は、1位:イギリス、2位:日本、3位:アメリカ。



ロベール・アルヌーは、ブルゴーニュのCote de Nuits(コート・ド・ニュイ)地区にあるVosne-Romanee(ヴォーヌ・ロマネ)村の村はずれにドメーヌを構えています。
グラン・クリュであるRomanee-Saint-Vivant(ロマネ・サン・ヴィヴァン)、Echezeaux(エシェゾー)を筆頭に、ヴォーヌ・ロマネ1級や、お隣のグラン・クリュClos de Vougeot(クロ・ド・ヴージョ)、Nuit-Saint-Georges(ニュイ・サン・ジョルジュ)1級などを含め、現在は17種類のワインをつくっています。  

ブルゴーニュのドメーヌとしては珍しく、一般客向けのテイスティングルーム兼ショップを備えているので、ここでワインを気軽に試してから買うことができ、とても便利です。もしかしたら、稀少なヴィンテージのワインも手に入るかもしれません。
ブルゴーニュを訪れた際には、ぜひ立ち寄ってみたいドメーヌのひとつと言えるでしょう。


ヴォーヌ・ロマネ村は、お隣のフラジェ・エシェゾー村と合わせて、"ヴォーヌ・ロマネ"のAOCを名乗るワインを生み出しています。
多くの著名なグラン・クリュ畑を抱え、ブルゴーニュ一有名な、いえ、フランス一、世界一有名とも言えるあの"ロマネ・コンティ"も、ここヴォーヌ・ロマネ村から生まれます。  

ヴォーヌ・ロマネのワインは華やかで豊かな香りがあり、ブルゴーニュにしてはスパイシーなニュアンスを持ち、みずみずしく、かつ優美で、長期熟成にも向くボディを持っていると言われています。


冬のVosne-Romanee村 (2003年12月訪問)


Q.先代のロベール・アルヌー氏の娘さんである奥さまとの結婚が、ワインづくりの道に入ったきっかけということですが?(奥さまは三姉妹とのこと)。

A,確かにそうですが、もともとは義父ロベールその人と、彼のつくるワインに魅力を感じたからです。
義父は私を本当の息子のように、また旧来の友達のようにも扱ってくれました。
そうした彼の人柄に惹かれたこと、そして、彼の人となりがワインにも反映されていたことが、私をワインづくりの道へと引き込んだのです。


Q.先代の時代と比べて、ワインづくりで変わったことは?

A.私が初めてワインをつくったのは1990年ですが、この10~15年で、ぶどう栽培においても醸造においても、かなり変わってきました。
栽培では、私はリュット・レゾネ(減農薬農法)を実施しています。土壌を大切にし、土壌の持ち味をぶどうに反映させるため、ここ6年ほどは除草剤も殺虫剤も使っていません。それが健全で完熟したぶどうを得るために必要なことと考えているからです。

収穫は手摘みで行い、摘み取ったぶどうの房がつぶれないよう、小さなカゴを使います。梗は100%除梗します。果実の15%ほどだけを破砕し、約18~22日間かけて発酵させます。
熟成の際の新樽の使用率は、村名クラスで30%、1級で60%、グラン・クリュは100%で、ワインにより14~18ヵ月間樽熟成します。
清澄作業もしませんし、フィルターもかけません。
瓶詰め後は、6~10ヵ月ほど寝かせてから出荷をします。 。


Q.あなたはリュット・レゾネを実施していることはわかりましたが、ビオディナミ(*1)に移行する予定はありますか?。

A.実は私も、月の満ち欠けに従って瓶詰めなどの作業をしていますが、今のところ、ビオディナミを採用しようとは思っていません。必要性からではなく、ビオディナミ自体が目的になってしまっている生産者が多いように感じるので…。


Q.薬剤師の経験はワインづくりに役立っていますか?

A.全く役に立っていませんね(笑)。
身体の不調を治すにはワインが一番ですよ(笑)。
でも、薬剤師の経験で"ホメオパシー"の理論を学び、それがワインづくりに非常に役に立つのではないか、と考えています。

注)ホメオパシー(Homeopathy)は、「同種療法」「同毒療法」「類似療法」などと訳され、「同じようなもの、似たものが病を押し出し、癒し、終わらせる」という考えに基づく療法です。
例えば、頭痛のときに鎮痛剤を飲めば、その痛みは和らぎますが、その原因そのものが除去されたわけではありません。これを繰り返すと、次第に鎮痛剤も効かなくなってしまう恐れがあります。
ホメオパシーでは、その症状(例えば頭痛)を引き起こす物質(自然界にあるものを使用)を超微量投与し、それにより、生体の自然治癒力を高め、治療につなげます。副作用もなく、欧米では非常に注目が集まっている療法です。


Q.あなたのワインづくりのコンセプトは?

A."自分の好きなワインをつくる"ということです。
私は自分の感性を信じ、フィーリングで働いていますので、その時の気分で、ワインも毎年違ってきているはずです(笑)。


Q.あなたの好きなワインは、シャンボール・ミュジニーと聞きましたが?

A.当ドメーヌでは、4つのコミューン(*2)にまたがる14haの畑から17種類のワインをつくっていますが、1999年に念願のシャンボール・ミュジニー(2ha)(村名クラス)を手に入れました。
シャンボールの、女性的で、フルーティーで、ふくよかで、エレガントで、チャーミングな点が非常に気に入っています。


Q.日本は2番目の輸出先となっていますが、輸出先によって、ワインの仕込み方法を変えていますか?

A.いえ、変えていません。日本はいいのですが、例えば○○○○など、私のワインを理解していない国には売りたくない、というのが本音です(笑)。  

注)○○○○に入る国名は聞きましたが、ここでは伏字とさせていただきます。みなさんの方でご推理下さい。ちなみに、アルヌーの輸出先上位3位に入っている国です。


(*1)ビオディナミ:
英語では"バイオダイナミックス"。化学肥料や薬品を使用せず、独自の自然調剤を用い、暦や月の満ち欠けなどに従った独特の理論によって栽培を行う農法。

(*2) コミューン:
フランスの最小行政区画のこと。市町村。

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今回のテイスティングセミナーで提供されたワインは下記の通り(全て赤)

1)Vosne-Romanee Les Hautes Maizieres 2000

2)Nuit-Saint-Georges 1er Cru Clos des Corvees Pagets 2000

3)Vosne-Romanee 1er Cru Les Chaumes 2001

4)Echezeaux Grand Cru 2001

5)Romanee-Saint-Vivant Grand Cru 2001

6)Vosne-Romanee 1er Cru 1976

7)Vosne-Romanee 1er Cru Les Suchots 1976




テイスティングをしてみると…  

ロベール・アルヌーのワインは、村名クラスでは心地よい素直な美味しさを感じさせてくれますが、1級になるとグンと凝縮感が増し、余韻も非常に長くなります。
さらに特級クラスになると、そこにエレガントさも加わり、無類の幸福感を与えてくれます。

今回は2)だけがニュイ・サン・ジョルジュです。

「ヴォーヌ・ロマネのワインは"エレガント"ですが、ニュイ・サン・ジョルジュには"力強さ"があります」とラショーさん。

たしかに、2)のワインのタンニンはキュッと引き締まり、やや冷たい堅さを感じさせますが、アタックはピュアで甘く、余韻の長さも光っています。

4)は2001年とまだ若く、タンニンも充分溶け込んでいないので、今飲むにはまだ早い感じがありますが、この凝縮感とエレガントな口当たりは、さすがエシェゾーです。
5)は香ばしい樽のロースト香があり、味わいもボリュームがありますが、酸に品の良さを感じます。
4)も5)も、今でもおいしくいただけますが、充分熟成させてから飲んでみたいワインだと感じました。

6)と7)は先代の時代のもの。
1976年は雨がなく、乾燥した暑い年だったとのこと。これらは2年前にリコルクされています。かなり色合いが薄れてきていますが、まだ酸がしっかりと残っているので、保存状態が良ければ、あと4~5年は耐えてくれそうです。
 
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インタビューを終えて



自称"トム・ハンクス"似(笑)というラショーさんは、ユーモアたっぷりで、とてもフレンドリー。

今回は、第7回のゲストであるジャン・マルク・ピヨさん(写真右)も同席してのインタビューでしたが、二人が並ぶと、ピヨさんの方が落ち着いて見えるのは(実際はピヨさんの方が3つ年下)、ラショーさんの、明るく、かつ軽やかなシャンソンの楽曲のような雰囲気を持っているせいかもしれません。

それは、"フィーリングが大事"という彼のワインづくりの姿勢にも現われているようです。
きっちりとした薬剤師時代より、自然とともにのびやかに生き、自由な感覚でワインをつくっている今の生活の方が、彼には合っているのかもしれません。

まさに、"水を得た魚"。

この先、彼がどんなワインを生み出してくれるのか、これからもロベール・アルヌーのワインから目が離せそうにありません。


*取材協力: Wijnhandel Herman B.V.

        (Special thanks to Masaki Takeshita)

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第 7回 Domaine Jean Pillot & Fils@「キャッチ The 生産者」

2008-12-28 15:46:54 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2005年1月21日)

第 7回  Jean-Marc Pillot  <Domaine Jean Pillot & Fils>



第7回目のゲストは、 フランスはブルゴーニュの生産者、ジャン・マルク・ピヨさんです。
ピヨさんはコート・ド・ボーヌの Chassagne-Montrachet(シャサーニュ・モンラッシェ) でワインづくりをしていますが、日本各地でのテイスティングセミナーのため、2004年12月に来日しました。
今回は、東京でのセミナーを終えたピヨさんに、彼のワインを飲みながらお話を伺いました。



シャサーニュ・モンラッシェは、隣接するPuligny-Montrachet(ピュリニー・モンラッシェ)とともに、偉大なるブルゴーニュの白ワインMontrache(モンラッシェ)やBatard-Montrachet(バタール・モンラッシェ)などを生み出す村ですが、グラン・クリュ以外では、いまひとつ印象が薄いAOCかもしれません。

じゃあ、グラン・クリュ以外の白ワインはどうなの?
また、実は生産量の半分以上を占めるという赤ワインについてはどうなの?と、実に疑問だらけです。

では、そんなシャサーニュ・モンラッシェでワインづくりをしているピヨさんのワインとは、一体どんなワインなのでしょうか?


<Jean-Marc Pillot>
1965年生まれ。シャサーニュ・モンラッシェで歴史あるドメーヌの5代目オーナーであり、エノロジスト(醸造家)。
12歳の頃から父の仕事を手伝う。ボーヌの醸造学校を卒業後、1985年にドメーヌに入る。
他のドメーヌでの修業も経験し、1986年から妹のベアトリスとともにドメーヌ・ピヨを引き継ぐ。
現在、生産量6万本のうち80%を輸出し、主要輸出先は、1位:アメリカ、2位:イギリス、3位:日本。




Q.ドメーヌ・ピヨの歴史を教えて下さい。

A.祖父の代まではトヌリエ(樽職人)もやっていました。
1900年代の頃はバルク売りをしていましたが、1930年頃からは瓶詰めをするようになり、仕事量が増えたと聞いています。
父ジャンの代になると畑も増えてきたので、樽作りはやめて、本格的にワインづくりに取り組むようになりました。


Q.現在のドメーヌの体制を教えて下さい。

A.父はすでに引退しましたので、母と妹と私の3人でやっています。家族経営の小さなドメーヌです。私の妻はドメーヌの仕事には関わっていません。
ピノ・ノワールとシャルドネを5haずつ、合計10haの畑から赤ワインと白ワインをつくっています。


Q.あなたのワインづくりについて教えて下さい。

A.できるかぎり"良いぶどう"をつくるようにしています。例えば、最適な時期に余分な芽や葉を摘み取り、グリーンハーベスト(*1)も行います。
これらは全て手作業で、収穫ももちろん手摘みで行います。

収穫したぶどうは100%除梗し、ピュアなアロマを残すよう、空気圧でプレスします。こうすると、絞ったジュースが酸化しません。
マロラクティック発酵(MLF)(*2)は毎年100%行い、MLFが終わるまでバトナージュ(*3)は欠かしません。
新樽の使用率は25~30%で、12ヵ月の熟成期間中、オリ引きは1回のみです。フィルターはかけません。


Q.シャサーニュ・モンラッシェの特徴は何でしょうか?

A.全体的に "力強さ"が特徴と言えるかと思います。
また、食事を楽しむためのワインでもありますし、誰にでも好きになってもらえるワインであると思います。
土壌的には、岩盤がむき出しになって崖になっている場所があり、その岩盤から直接ぶどうの樹が生えていますので、そこから吸い上げたミネラルで、生き生きとしたワインができます。


Q.シャサーニュは"白"のイメージが強いですが、赤ワインの特徴は?

A.シャルドネ用とピノ・ノワール用の畑は違います。ピノ・ノワールを植えている畑には、コート・ド・ニュイのヴォーヌ・ロマネと同じ、ジュラ紀に堆積した土壌が少し見られます。
シャサーニュの赤は、5年から8年熟成させると飲み頃になってくるワインです。ヴォーヌ・ロマネと同じ土壌の赤、ということを考えると、プライス的にお買い得ではないでしょうか?(笑)


Q.あなたとお父さんのワインのスタイルの違いは?

A.父は15~18ヵ月の樽熟成をしていました。が、長く樽に入れていると、せっかくのアロマが失われてしまいますので、私は1990年からは樽熟成は12ヵ月にし、フレッシュ感を残したまま瓶詰めするようにしています。
こうすると、花やフルーツのフレッシュな香りが残ります
瓶詰め後は、セラーで1年間寝かせてから出荷します。


Q.リュット・レゾネ(減農薬農法)でぶどうを栽培しているそうですが、ビオディナミ (*4)については、どのように考えていますか?

A.98年のように、ウドンコ病やベト病が広く発生したときには、ビオディナミが役に立たない年もありました。
私は、環境を守ることを第一としていますので、薬品を使わざるを得ない場合は、必要なところにのみかけ、噴霧器は使いません。また、益虫を増やすことができるような畑をめざしています。


(*1) グリーンハーベスト:
1本のぶどう樹の房数を制限するため、まだ未熟な段階の青い房を摘み取って落とすこと。

(*2) マロラクティック発酵(MLF):
主発酵の後、ワイン中のリンゴ酸が乳酸菌の働きによって乳酸に変化する現象。ワインの酸味を和らげ、複雑な香味を増す効果などがある。

(*3)バトナージュ:
タンクや樽の中のオリを攪拌して混ぜること。酵母に含まれる旨味成分を抽出し、酸化を促す効果などがある。

(*4) ビオディナミ:
英語では"バイオダイナミックス"。化学肥料や薬品を使用せず、独自の自然調剤を用い、暦や月の満ち欠けなどに従った独特の理論によって栽培を行う農法。





今回のテイスティングセミナーで提供されたワインは下記の5本(いずれも白)

1)Saint Romain Blanc 1999

2)Chassagne-Montrachet 1er Cru les Marcherelles 2000

3)Chassagne-Montrachet 1er Cru Morgeots 2000

4)Chassagne-Montrachet 1er Cru les Vergers Clos Saint Marc 2001

5)Meursault Genevrieres 1er Cru Cuvee Baudot 2001 Hospices de Beaune


ドメーヌ・ピヨでは、白のトップワインとして、グラン・クリュのChevalier-Montrachet(シュヴァリエ・モンラッシェ)、また、Puligny-Montrachetの1級や、Meursault Charmes(ムルソー・シャルム)など、赤ワインでは、シャサーニュ・モンラッシェ1級はもちろん、お隣の村、Santenay(サントネイ)のワインもつくっています。


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インタビューを終えて


一見まじめな職人風で、最初はちょっと口数の少なかったピヨさんでしたが、グラスが進んで口もだんだんとなめらかになってくると、

「僕って、あの自動車会社社長のゴーンに似ていない?」

と、一番似ているという横顔の角度でポーズまで取ってくれました。


この横顔、本当にゴーン氏そっくり!

そんなお茶目なピヨさんに、同席していた一同はみな大爆笑!
年齢をうかがったら意外と若く(失礼)、話をすればするほど、彼の魅力にどんどんと引き込まれていきました。



さて、肝心のワイン。
今回のテイスティングセミナーで提供されたのは白ワインばかりですが、どのワインも酸がしっかりとベースにあるのを感じました

やや樽のニュアンスが強めに感じる(2)や(4)、香ばしいナッツの香りを持ち、デリケートで心地よい酸味の(3)など、それぞれに個性があります。
特に(4)の酸には力強さがあり、しかもその余韻が非常に長く感じられました。これは長期熟成に耐えられるワイン、とピヨさんが言うだけのことはあります。

年にもよりますが、シャサーニュの白は10~20年は熟成可能とのこと。
もちろん、良い状態で保管できればの話です。


今回テイスティングした1級クラスのシャサーニュは、"偉大"とまでは言えないものの、そっとそばに寄り添ってくれるようなワインたちで、食事のお供にはもちろん、くつろぎの時にそのままずっと飲み続けていたいような、非常に心地よい余韻が実に魅力的でした。

普段から気軽に、そして長く熟成させたものはちょっと特別なときに。
そんな幅広い楽しみ方ができるのが、シャサーニュの魅力かもしれません。


*取材協力: Wijnhandel Herman B.V.

       (Special thanks to Masaki Takeshita)

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第 6回 Weingut Louis Guntrum@「キャッチ The 生産者」

2008-12-28 13:47:57 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2004年12月11日)

第 6回  Louis Konstantin Guntrum  <Weingut Louis Guntrum>



第6回目のゲストは、 ドイツのRheinhessen(ラインヘッセン)にある"Weingut Louis Guntrum"(ワイングート・ルイ・グントルム)の若き11代目、ルイ・コンスタンティン・グントルムさんで、今回はドイツを訪問してのインタビューです。(2004年10月訪問)


<Louis Konstantin Guntrum>
1648年から続くワイナリーの11代目。実際にはもっと古い歴史があるようですが、戦争で記録が失くなってしまったとのこと。
グントルム家が現在の土地に移ってきたのは1920年で、1923年には現醸造所が建てられました。伝統を重んじながらも近代的技術を用いたワインづくりがグントルムのコンセプト。
輸出先は世界約80ヶ国にもわたり、現在コンスタンティンは、経営者としての敏腕ぶりを発揮中です。



ドイツのワイン生産地は国土の南西部に集中していますが、ラインヘッセンはちょうどそれらの中心付近に位置し、北側はラインガウ、西側はナーエ、南側はファルツといった生産地域に囲まれています。
ラインヘッセンはドイツ最大のワイン生産地で、品種ではミュラー・トゥルガウ、ドルンフェルダー、シルヴァーナー、リースリングの順に生産が多く(ドルンフェルダー以外は白品種)、どちらかというと大量生産の安ワイン的なイメージがありました。
しかし、そのイメージを脱却しよう!という若い世代の動きも活発になりつつあり、今後注目したい地域のひとつといえます。



ニーアシュタインの丘から望むライン河

ルイ・グントルムの醸造所はNierstein(ニーアシュタイン)という地区にあります。醸造所の目の前をライン河が流れているので、道路が発達していなかった時代には、船を使ってのワイン輸送に大変便利なロケーションだったようです。

ライン河はマインツで西に向きを変えるまで、ラインヘッセン地域の東側を南から北に流れています。ここニーアシュタイン付近では、ライン西岸の緩やかに連なる丘の斜面にぶどうが植えられ、畑は東から東南を向いています(この斜面は"ラインテラス"と呼ばれています)。
ライン河の東の対岸は見渡す限りの平地で、こちらはジャガイモ畑だそうです。



ライン河に向かう急な斜面のラインンテラスの畑

訪問した10月の後半は、ちょうど仕込みの真っ最中。せっかくだから、この時期ならではのテイスティングをしましょうと、醸造所地下のステンレスタンクから直接白ワインのモスト(*1)をいただきました。

仕込み直後のものから、だいぶワインに近づいてきたものまでありましたが、外観はどれも"にごり酒"のように濁っています。

まず、仕込み直後のものの味わいはぶどうジュースそのもので、アルコール度数も1%しかありません。
少し日数を経たモストもまだまだジュース風で、アルコール度数は5~6%。
その次は"Federweisser"(フェーダーヴァイサー)(*2)という状態のものでしたが、これも口当たりがよく、ゴクゴク飲めてしまいますが、「これをくいっと飲んだら、かなり危険だよ(笑)」とコンスタンティンさん。
実はこれのアルコール度数は12%でした。

なお、エクスレ度(*3)がゼロ?!というモストも試してみましたが、舌が痺れるほど超辛口でエグみもあり、この段階ではとても飲めたものではありません。これが華麗な辛口ワインに変化するというのですから、なんとも不思議なものです。



地下セラーで(左は2004年4月に就任した醸造長)


訪問した日はお天気も良かったので、「畑の中でテイスティングをしましょう!」と言うコンスタンティンさんの提案で、ニーアシュタインの丘の上に移動することに。
畑まで車で狭い農道を登って行きますが、ここの"ラインテラス"はとても急で、作業する人にとってはかなりキツそうです。

土壌はサラサラの赤土で、土が固まってスレート状になった破片があちこちに散らばっていました。
余談ですが、帰国後、履いていたクツの底や側面を見たら、ここの赤土がべったりと付いていました。かなり粒子のキメは細かいようです。


今回のテーマは『辛口リースリング』ということで、コンスタンティンさんが以下の白ワイン7本を用意してくれました。(最後の2本はオマケの甘口です)

1)Niersteiner Pettenthal Riesling Kabinett Trocken 2003

2)Guntrum Classic Oppenheimer Sacktrager Riesling Spatlese Trocken 2002

3)Niersteiner Bergkirche Riesling Kabinett 2003

4)Niersteiner Rehbach Riesling Spatlese 2003

5)Oppenheimer Schutzenhutte Riesling Auslese 2002

6)Pinguin Eiswein 2003 (甘口)

7)Oppenheimer Kreuz Silvaner Beerenauslese 1976 (甘口)




Q.ラインヘッセンのワインの特徴は?

A.リースリングは酸に特徴があり、クリスピーで、グリーンアップルのニュアンスもあります。
リースリングやシルヴァーナーはラインヘッセンでは歴史ある品種で、ルーレンダー(ピノ・グリのドイツでの呼び名)も伝統的ですが、今はマーケットから消えつつあります。
しかし、これら各種のぶどうからつくられるさまざまなタイプのワインは、さまざまなシーン別に楽しむことができるワインです。


Q.ルイ・グントルムのワイン生産について教えて下さい。

A.自社畑は9haですが、50ha分のぶどうを買っています。全体の50%がリースリングで、残り50%が他のぶどう(約10種類)からのワインです。白ワインが多いですが、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワールのドイツでの呼び名)やカベルネ・ソーヴィニヨンなどの赤ワインもつくっています。


Q.貴社ではリースリングを多く生産しているようですが、リースリングの魅力とは?

A.リースリングの特徴は"酸"にあります。この酸は食事のためにあり、食欲を湧き立たせてくれます。また、クリームたっぷりの食事にもこの酸が合うんですよ。ほら、口の中がさっぱりするでしょう?
リースリングは健康にも良く、社交的な飲み物で、良いディスカッションのお供にもなったりします。(-いいことづくめですね-笑)。


Q.土壌の違いによるワインの味わいの違いを教えて下さい。

A.この地区で代表的な村は"ニーアシュタイン"と"オッペンハイム"ですが、
ニーアシュタインの畑はサラサラの赤土ですので、ワインもライトなタイプに仕上がります。
それに対して、オッペンハイムは重たい土質なので、土壌の水分をよく保ち、ワインはリッチでフルボディタイプになります 。


Q.スクリューキャップタイプの栓のワインもあるようですが?

A.当社では1リットルボトルにスクリュータイプの栓を採用しています。これらはスーパーマーケットなどで売られるデイリータイプ用ですが、スクリューキャップでも充分その役目を果たしますし、使い勝手も良いのではないでしょうか。
25年以上保管するワインであればコルクの方が望ましいと思いますが…。
なお、"王冠"タイプの栓は、ワインをフレッシュに保つことができる栓だと思います。


Q.このリースリングは一部が貴腐化(*4)していますが、収穫はどのようにするのですか?

A.まず、貴腐化した部分だけをていねいに手で摘み取ります。貴腐菌はその粒の周辺の粒にも付くことになるので、後日、それらの粒が完全に貴腐化したら摘み取る、ということの繰り返しで、何回かに分けて収穫することになります。




Q.ぶどうはすべて手摘みですか?

A.畑によって違い、手摘みのところもあれば、機械で収穫する畑もあります。
ちょうど今機械で収穫している畑がありますので、見に行きましょう!



丘の上からだいぶ下った、ちょうどライン河に面した畑に到着すると、赤い収穫機が活躍していました。畑では機械を操作する人がひとりで広い畑を担当していました。収穫機のスピードはかなり速く、あっという間に斜面を降りて行きました。


(*1) モスト:
ぶどうから得られる果汁で、赤ワインなどは果皮や種子も含む。

(*2) フェーダーヴァイサー:
まだ発酵途中の濁ったワインで、いわば"どぶろくワイン"。仕込みから数週間程度の限られた時期の9~10月頃に、ワイナリーの直売所などで買うことができる。まだ炭酸ガスが発生しているのでコルクは打たれておらず、残念ながらお土産には不適当。地元で飲むのが楽しい"旬"のワイン。

(*3)エクスレ度:
ドイツの物理学者エクスレが発明した、果汁の糖度を調べる比重計によって表される数値のこと。果汁に含まれる糖分はアルコールに変わるため、ワインになったときのおよそのアルコール度数がエクスレ度から計算できる。

(*4) 貴腐化:
ボトリティス・シネレア菌の働きでぶどう粒の水分が失われ、エキス分だけを残した干しぶどう状態になること。こうして貴腐化したぶどうから天然の甘口のワインができるが、貴腐化する条件はかなり厳しいので、貴腐ワインは非常に稀少で高価。

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インタビューを終えて  

伝統あるワイナリーに生まれながらも、若い世代らしく、最新技術の導入、外部からの新醸造長の抜擢、販売ネットワークの拡大など、非常に積極的で意欲的なコンスタンティンさん。
英語も堪能で、スーツ姿もぴしっと決まり、どこから見ても有能なビジネスマンですが、収穫のときは自らも畑に出るなど、現場をとても大切にしている様子。
明るく、人見知りしない気さくな性格と行動力が彼の武器のようで、彼の力で、ラインヘッセンのワインの評価がグーンと高まる日が来るのも、そう遠いことではないかもしれません。

ホームページ→ http://www.guntrum.de




さて、今回訪問したドイツですが、実は2005~2006年は日本におけるドイツ年、ということをご存知でしたか?ドイツの文化やスポーツなど、さまざまな分野でドイツが注目を浴びそうです。
もちろんドイツワインにも注目が集まること必至です。ドイツのワイン生産地では、この10年でかなり大きな変化が起こっています。ぜひ新しいドイツに目を向け、素晴らしいドイツワインを発見してみて下さい。



ドイツといえば、ハム類が自慢!


(*取材協力:ドイツワイン基金 http://www.dwfjp.com )

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第 5回 Domaine C. et Claude Marechal@「キャッチ The 生産者」

2008-12-28 11:18:08 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2004年10月11日)

第 5回  Claude Marechal  <Domaine Catherine et Claude Marechal>



第5回目のゲストは、 フランスのブリニィ=レ=ボーヌ(Bligny-les-Beaune)村の"Domaine Catherine et Claude Marechal"(ドメーヌ・カトリーヌ・エ・クロード・ マレシャル)のオーナー、クロード・マレシャルさんです。

マレシャルを訪問したいと思ったのは、東京で飲んだ彼のワインのピュアでみずみずしいおいしさに感動したからです。
ブリニィ=レ=ボーヌという村のことも、非常に気になりました。彼はどんなところで、どんなふうにワインをつくっているのでしょうか?

<Claude Marechal>
ドメーヌの設立は1981年。
以前は他の仕事をしていたクロードは、カトリーヌと結婚した後、実家に戻り、ワインづくりに携わるようになりました。
現在は夫婦二人三脚でぶどう&ワインづくりに力を注いでいますが、仕事を離れると、小さな男の子を持つパパの顔に戻ります。リビングにはおもちゃがあちこちに散らばり、ベビーの写真が飾られていました。



そもそも、ブリニィ=レ=ボーヌ村ってどこにあるのでしょう?

実はブルゴーニュにあるのですが、この村の名前のAOC(*1)名がないため、残念ながら、ブルゴーニュの生産地マップにはめったに載っていません。

ブルゴーニュの中心ボーヌの街から南に向け、国道74号線を3kmほど車で走らせると、"Bligny-les-Beaune"の標識が見えてきます。その標識を左折し、ちょっと日本の田舎的な風景にも見える平坦な畑の中を通り抜けると、そこはもう村の中。  
しかし、本当に小さな村です。ドメーヌはどこ?と探しているうちに、車は村を通り過ぎそうになりました。村の中は人っ子ひとりとして歩いていないので、道を尋ねることもできません。
なんとか無事に到着すると、ダイニングではマレシャル一家と友人たちとのランチがちょうどお開きになるところでした。
クロードのパパもかなりいい感じにご機嫌状態(下のにこやかなお顔の写真をごらん下さい)です。


マレシャルではコート・ド・ボーヌエリアのワインを生産しています。
ここを訪問したのはこの前の冬だったので、樽に入れたばかりの2003年のワインを中心にテイスティングさせてもらいました。下記はその一部です。

●Bourgogne Aligote (B)

●Bourgogne Blanc Gravel (B)

●Bourgogne Rouge Gravel (R)

●Auxey-Duresses (B) (R)

●Ladoix-Serrigny (R)

●Chorey-les-Beaune (R)

●Savigny-les-Beaune (B) (R)

●Savigny-les-Beaune 1er Les Lavieres (R)

●Volnay (R)

●Pommard La Chaniere (R)

(注)(B)は白、(R)は赤ワインです





Q.ブリニィ=レ=ボーヌ村で収穫されたぶどうからのワインは、どういう名前で出されるのですか?

A.ご存知のように、"ブリニィ=レ=ボーヌ"というAOC名はありませんが、ここもブルゴーニュですので、白は"ブルゴーニュ・ブラン"、赤は"ブルゴーニュ・ルージュ"として出しています。
赤白とも"Gravel"という畑名を付けています。

 
Q.ぶどうの樹齢はどのくらいですか?

A.Ladoixは20年くらいですが、Choreyは30年、Savignyは35~40年、Volnayは50年で、ラベルに"ヴィエーユ・ヴィーニュ"(*2)と入れているものもあります。
 

Q.現在はブルゴーニュでもビオディナミ(*3)の生産者が増えていますが、あなたのところはどういう農法ですか?

A.私のところはビオディナミではなく、必要最小限の除草剤や殺虫剤類を使う"リュット・レゾネ"です。ビオディナミは大変です。
 

Q.あなたのワインづくりのコンセプトは何ですか?

A. "ベスト・フルーツ"を大切にすることを心がけています
そのため、樽の風味が勝ち過ぎないよう、新樽の使用はできるだけ控えめにし(平均20%ほど)、キュヴェによっては新樽は使わず、3~4年経った樽を使うようにしています。
また、ろ過にはこだわりがあり、ワインにフィルターはかけません

 
Q.あなたにとって"ワイン"とは?

A.ワインは生きています。決して同じものはなく、いつ飲んでも違っています。今日はこう感じても、明日はまた違ってきます。それがワインの面白さだと思っています。

(*1)
Appellation d'Origine Controleeの略で、原産地統制名称ワインのこと

 
(*2)
"vieille"(=古い)+"vigne"(=ぶどうの樹)で、樹齢の古いぶどうの樹からつくられたワインを意味し、"V.V."と略されたりする。何年以上をV.V.にするかは、各生産者の捉え方によっても違う。

(*3)
英語では"バイオダイナミックス"。化学肥料や薬品を使用せず、独自の自然調剤を用い、暦や月の満ち欠けなどに従った独特の理論によって栽培を行う農法。

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インタビューを終えて  

樽に入れられたばかりの2003年のワインはどれも色が濃く、よく熟した果実感がたっぷり。まだワインになっていない、フレッシュでプチプチとしたアタックが舌に小気味良く当たります。
しかしながら、通常は酸味が強いとよく言われる"アリゴテ"には熟したパイナップルのようなニュアンスがあり、とてもまろやかな味わいでした。

白では珍しい"サヴィニ・レ・ボーヌ"があり、そのやさしくふくよかな味わいには、一気にファンになってしまったほど。見かけたらぜひ試してみて下さい。
"ポマール"になるとさすがにパワフルで逞しく、長い熟成の必要性とポテンシャルを感じました。


とってもにこやかなクロードのパパ


約20種のテイスティングを終えて感じたのは、
彼のつくるワインにはすべて、自然な果実のピュアで凝縮したおいしさがある、ということです。
突き刺すような攻撃的なところは一切なく、なめらかな舌触りで、すうっとノドをすべり落ちていきます。

おとなしくシャイな感じの彼ですが、ワインに向かったときに見せる鋭い目の奥の輝きが、妥協を許さない意志の強さを物語っています。
それが、やさしいのに凝縮している彼のワインに現れているのでしょう。

コメント
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