My Laid-back Aussie Life

オーストラリア、アデレード発のオージーライフ、家族、看護などについて~

緩和ケア1日研修会(2)

2006-11-12 14:55:17 | 看護に関するあれこれ
ランチタイムは何と各講師の話が長引いたため15分のみ。勝手知ったるホスピスの建物の一角のバルコニーでお弁当のオーストラリア原産ハーブを使ったチキンの香草ローストと完熟トマトを食べた。外は、雲ひとつなく気温32度というまさにAdelaide的天気。疲れ始めた腰を伸ばしながらレクチャールームに戻って午後からの講義を受ける。


〈レクチャールームの様子-昼休み〉

1.Palliative Care Emergency

By Senior Registrar

いかにもバリバリといった感じの中年女性医師の講義。緩和ケアの範疇で起こりうる主な救急ケースをこれらの症状・検査・治療とともにいくつか説明したもの。緩和ケアは疾患の治癒が目的ではなくても、これらの症状をいつもそばにいるナースが早期に拾うことにより、対症療法で患者の自覚症状(苦痛)の軽減につながる。なので、やはりナースが知っておくと大きな違いがあるかもしれない。

Spinal Cord Compression(脊髄圧迫)

Superior Vena Cava Obstruction(上大静脈閉塞)

Sudden Sever Hemorrhage(急性重症出血)

Acute Airway Obstruction(急性気道閉塞)

これらはどれも、特に急性重症出血などは特に、聞いただけでも症状からして患者に恐怖を与えかねないシビアなものばかりだ。事前にこのような状況になりうる、と説明したほうが良い場合があるが、この場合、いたずらに怖がらせるだけにならないような配慮が重要だと強調していた。

2.Palliative Care for Indigenous patients

講師はつい先日までNT州のアボリジニーのコミュニティーで緩和ケア・サービスの普及のためのプロジェクトを担当していたナースだった。NT州のアボリジニーに対しての緩和ケアチームとその活動を紹介したDVDを観、それに対しての質問やコメントが中心となった。

アボリジニーはいくつものコミュニティーに分かれていて、風習や言語もそれぞれ異なるが、生まれた土地との密接的なかかわりを尊ぶという点では基本的に大切にしているものは同じだ。「自分達の土地」との繋がりは、物理的な土地を指すのみではなく、自分達の言語、家族、歌、伝統的な食べ物、あの有名な伝統的な絵画を含む。だから、病院やホスピスにいる必要がある場合など自分の土地=家から離れていると自分のSpiritualityが低下するそうだ。特に、自分の土地で死ぬことはとても大切なことだという。でもこのような場合でも、自分の「土地=家」を「病院へ持ってくる」ことは可能なそうだ。例えば、絵画や音楽、伝統的な食べ物を持ってきてもらう、家族の訪問など…。

それから、緩和ケアにおいて、または医療全般の彼らのコミュニティーの意思決定プロセスがとても興味深い…。患者は自分では医師に「自分はこうしたい」とか南下の処置のサインを求められても自分ではしない。では誰が、ということになるが、大抵は患者がノミネートした家族。例えば、「自分の祖母に聞いてくれ。」みたいな。これは何でか、そして患者は自分が死に逝く事を知らないのか、と講師に質問したが、これもまた複雑な理由というか、複雑なコミュニティーの中での役割と物事を決める手順があるらしく、多くの場合、自分の予後について詳しく知らないらしい。では、患者がノミネートした人と話し合えばよいのかというと、そうでもなく、「これについてはこの人にきいて、この問題に対してはこっちの人に相談してくれ。」ということにあるらしく複雑極まりない。したがって、アボリジニーの言語と習慣を熟知している人がリエゾンとして活躍している。自分の予後がはっきり分かっていないため、病院に入院していても「この人は自分の病状に対する認識がない。」とナースに思われてしまうこともあるそうだ。しかも、死に対して直接的に話すことを避ける習慣があるという。がん告知がすべてのケースで当たり前ではない日本もこういう状況が多くあると思う。

そして、ケア提供する側と患者とその家族の間でとても大切なコミュニケーション。彼らには独特のコミュニケーション・チャンネルがあるという。注意しなくていけない点については、じっと視線を相手に合わせたままも状況を避ける、大きな声でも会話を避ける、相手との物理的距離を開けるようにする、そして会話の間に、静かに会話の内容について振り返るための時間を置くことなどが挙げられた。なんだか、そても日本人にも当てはまっていることが多いような気がする…。それから、例えば女性の患者が生殖に関わる子宮がんや乳がんなどを持っている場合は、患者への説明は女性の医師からする、というのが妥当だという。これらのアボリジニーの文化の特徴は、どもれもナースが理解している必要があることばかりだと思う。

ここら辺で皆かなり疲れてき、アフタヌーンティーのお茶とケーキが出される。とりあえず引っ付きそうなまぶたを開け脳細胞の活動を維持するため、あまり味の分からないままインスタント珈琲と珈琲ケーキをはがしこみながら次の授業へ突入。

3.Humour and its role in Palliative Care

By Nursing Coordinator

この授業も緩和ケアコーディネーターによるものだった。人間にはユーモアが必要で、病気や死に面しているときには特に療法的な意味でもとても重要だということだ。ユーモアに関する定義・歴史なんという面白いものの説明から始まり、14-16世紀からユーモア(そして笑い)が心身の病に効くという、色々な文献からの話が紹介された。Patch Adamsの例とか。そして、何より衝撃的だったのは、実際の彼女が見てきた患者とのしっとりと心にしみる、でも幸せに笑える患者との別れの場面。講義の参加者は皆、すっかり彼女の話に引き込まれていた。私の感想-この人は凄いと思った…。仕事で忙しいのに、このユーモアに関する文献や逸話をこれだけの数を集めてこんなに人をひきつける話ができるなんて…。これは、専門職としての義務より、個人としての緩和ケアに関する信念・情熱・プライドがなせる業だろう。そして、彼女の人間性。笑うことが好きで、明るく、情が深く、強く、情け深い。こんな人をチームの要にできるなんてこの病院の緩和ケアは幸運だと思う…。

‘Time spent laughing is time spent with the Gods.' By Mark Twein


4.CareSearch-managing our needs for credible information

これは、オーストラリア政府の予算によって組まれているプロジェクトで、The Flinders University Department of Palliative and Supportive Services が主体になって、緩和ケアに関する情報資源であるWebサイト「CareSearch」を作成するプロジェクトを立てている。これは長期的なプロジェクトで、主に緩和ケアに関する研究論文・記事のデータベース、オーストラリア全国の緩和ケアに関する色々なプロジェクトに関しての情報・それに関する奨学金や予算についての情報・緩和ケアのカンファレンスや専門資格コースなどをまとめている。まだ発展途上でこれからどんどん内容が充実していくようだ。URLは以下の通り。時間があるときにゆっくり覗いてみよう…。


CareSearch:  www.caresearch.com.au 


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〈病院の裏手のジャコランタンの木-初夏の花〉

朝からずっと机に座って脳細胞を総動員させていたのでとてもとても疲れたが(しかも講師への質問を考えていたり、分からない医学専門用語などを電子辞書でチェックしたりと忙しかった。)、いくつかの質問もして講義で分からないことや今まで臨床で疑問に思っていたことはかなり解消できたし、充実した研修が受けれて予想より遥かに自分の看護実践に役立つ知識を得られた。気分は最高だった…。

次の研修は、競争率の高い「DM(糖尿病)ケアの最近の動向について」を是非狙いたい。