マキペディア(発行人・牧野紀之)

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シュタイナー教育と子安美知子

2013年12月02日 | カ行
 ドイツの人智学者ルドルフ・シュタイナーの思想、特にその教育思想と実践がまたまた注目されているのだろうか。〔1996年〕5月にNHKの衛星放送で1時間半にわたって、シュタイナー学校を中心にした紹介番組があった。そこではその思想に基づいた農場や病院も紹介された。そしてその番組に深く関わっていたのが、早稲田大学教授の子安美知子氏であった。シュタイナー学校に子供を通わせた日本人は、子安氏以前にも何人かいたらしいが、それを精力的に紹介して、日本人に知らせたのは子安氏であるから、それも当然であろう。私も、氏の諸著作を興味深く読んだ者の1人である。

 その番組によると、今〔1996年〕ではシュタイナー学校は世界中に広がり、全部で約650校にもなっているそうである。それなのに、なぜこの外国のものを輸入するのが得意な日本で未だにそれがlつも出来ないのだろうか。とても残念だ。確かにシュタイナー学校に対してはいくつかの批判もあるらしいが、それは人の考えは様々なのだから当然である。しかし、だからといってそれを日本で作る必要がないということにはならないだろう。日本の教育はあまりにも問題が多すぎる。そこに1つの意見を提示する意味でも、シュタイナー学校が早く日本に出来て欲しいと思う。

 このよように私はシュタイナーの思想に多大の興味と共感と期待を持つ者であるが、それは今は述べない。今述べたいのは、子安氏の態度についてである。氏とシュタイナー教育との関係を極く簡単にまとめておくと、氏はドイツ文学の研究者としてドイツに留学した際、子供をシュタイナー学校に通わせることになったのである。初めはとまどった事も多かったらしいが、徐々に引きつけられていって、今ではシュタイナーの思想、特にその教育思想を自分の研究テーマにするようになったらしい。それはそれで好い。研究テーマを変えるのは自由であり、この経過から見て、この変更には十分な根拠がある。しかし、氏の諸著を読んでいて一番不思議に思うことは、シュタイナー学校を知ったことで氏のドイツ語の授業がどう変わったのかが全然書かれていないことである。

 氏は早稲田大学のドイツ語の教員なのであり、実際にドイツ語の授業を担当しているのである。そして、改めて言うまでもなく、大学の教員の任務は研究と教育なのである。それなのに、研究の結果は、テーマがシュタイナー思想なのだから、このようにきちんと発表されているのだが、教育の方は、自分の娘にとってどうだったというようなことしか書かれていないのである。つまり、教育については親としての視点しかないのである。これはおかしいのではあるまいか。シュタイナーを知ったことで氏の授業がどう変わったのか、私はそれが一番知りたいし、それこそ本当のシュタイナー研究ではなかろうか。

 この子安氏の欠点は、しかし、日本の学者の思想研究に共通した欠点である。外国の、あるいは欧米の思想を紹介するだけで、それによって自分の生き方がどう変わったかを問題にしないのである。従って又、主体的・批判的にその思想を捉え直すこともない。ひたすらその思想を持ち上げ、それを無知な日本人に紹介・宣伝する。自分の意見は全然なく、それがかえって謙虚だと思われる。本は売れ、金はもうかる。それを読む人々も又、自分の生き方とは無関係に外国の思想を知って満足する。これが日本の思想のあり方である。しかし、こういう思想のあり方はシュタイナーの思想と一致するのだろうか、ということは全然考えない。考えないで生きていける。そういうのが私には不思議である。(1996年09月11日。雑誌「鶏鳴」第141号から転載)

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