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アフガンで用水路を掘る

2011年03月05日 | ア行
             中村 哲

 気温が50度に迫る炎天下、200人の村民、PMS(ペシャワール会医療サービス)の職員、若い日本人ワーカーたちが真っ黒になって汗を流す。シャベル、ツルハシを振るって溝を掘り、ブルドーザーがうなりを上げる。遠くでは轟音と共に岩石塊が爆破される。熱風と砂塵がしばしば作業を中断させる。

 5月中旬、やっと灌漑用水路計画が本格化した。行く手に広がる漠々たる荒野が、かつて豊かな田園だったことを信ずる訪問者は少ないだろう。

 国民の9割を占める農民たちにとって、最も深刻なのが干ばつである。4年目に入っても、依然として各地で砂漠化が進行している。

 私たちは3年前からアフガニスタン東部のニングラハル州全域で、飲料水源確保に全力を注いできた。今月15日現在、井戸やカレーズ(伝統的な地下水路)の総作業地は1000ヵ所を突破、うち932ヵ所で水を得て、多くの村民たちの離村・難民化を防いできた。だが、水や診療所だけでは生きてゆけない。

 そこで、大きな潅漑計画となった。ヒンズークッシュ山脈の万年雪は、夏に解け出して沃野を提供する巨大な貯水槽である。幾千万年もの間、それは無数の生命を支え続けてきた。それが、標高4000㍍以下では、冬の積雪が初夏までに解け去ってしまう。そこで私たちが立てた戦略は、比較的低い山の雪に依存してきた地域には無数の井堰・溜池で貯水し、万年雪が残る5000㍍級以上の山から流れ出す河からは、傍流を引き込むことである。これ以外に生き残る策なしと見て、「潅漑・15ヵ年計画」が開始された。

 その第一弾として始まったのが、現在の用水路建設である。約2億円を投じて、全長16㌔メートルを1年で通水、約2000haを潤す。実現すれば、成人十数万人を養うことができる。

 水面幅4、5㍍、トンネル21ヵ所、水道橋1ヵ所、取水口には二重の水門をつけて備える。作業工程は、大半を伝統的な技術に頼った。すなわち、盛り土、植林、石組み、舵籠(じゃかご)の組み合わせである。近代的なコンクリート固めの水路は、完成後の見栄えは良いが、地元民が修復できない。その上、数年ごとに壊れ、あちこちに残骸がさらされている。現地に馴染まないのだ。

 ところで、医療団体である私たちが何故、水路を手がけるのか。現地の病気の大半が清潔な飲料水の欠乏と、栄養失調を背景にしている。膨大な人々が死に、荒廃した故郷から逃れた人々が難民化した。この事実は「国際社会」に遂に伝わらなかった。しかも、治安の悪化で誰も地方に行きたがらないからだ。

 奥地のクナール州でも、米軍の活動と対峙して、3ヵ所で診療が継続されている。

 本当は空爆=民主化どころの騒ぎではなかったのだ。昨年パキスタンから帰還した難民は、200万人中170万人と発表されたが、150万人が暮らしが立たずUターンしたと言われる。この数字が「復興」の実体を雄弁に語っている。

 先ず生きることだ。その証拠に、私たちの事業には、タリバン支持者も、北部同盟軍の元兵士も、恩讐を超えて皆が協力する。新政権の役人が安全保障を申し出、「長老会」が背後から私たちを守る。アフガニスタンが再び忘れ去られ、結局は自分たち自身が後始末をせねばならないことを皆知っている。

 折から、現地では外国軍への襲撃が活発化し、日本ではイラク派兵=復興支援の決議が国会で行われようとしていた。戦争も復興も、黙々と額に汗する人々には、余りに遠い世界である。

 (朝日、2003年06月28日)

    感想

 2011年の冬にこの中村さん達の仕事がNHKTVで放映されました。それによると、既にかなり出来ていて、定住者も多く生まれているようです。素晴らしい事だと思います。中村さんにはノーベル平和賞を与えるべきだと思います。

 そのテレビで「舵籠(じゃかご)」というものを知ったのですが、これは福岡県の柳川の護岸に昔から使われているものだそうです。世界遺産の1つである中国のどこかでもそれが使われているのをテレビで見ました。竹で編んだ籠のなかに大きめの石を詰めたものです。これを堤防にするのです。

 我が浜松の馬込川も、多くの部分でコンクリートの堤防が作られていますが、舵籠(じゃかご)にしたらどうでしょうか。観光資源にもなるのではないでしょうか。
コメント
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