植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

印泥を究める その3 すぎたるはなおおよばざるがごとし

2021年05月08日 | 篆刻
 蕎麦打ちも20回近くになりました。北海道から山形、信州とあちこちからそば粉を取り寄せ、どれがいいか試してみますが、季節のものですから一概にどこのが旨いとも言い切れません。今のところ北海道産の粉が香りがよく家人にも気に入ったようです。

 ヤフオクで道具は集めたものの、YouTube先生で蕎麦打ちの方法を学んだだけなので、基本知識も何もなく最初の頃は失敗作が多かったのです。それでも、何度か打っているうちに「コツ」を掴んできました。失敗と経験、そして知識と工夫これらに「熱意」を加えると上達していくのですね。

 蕎麦打ちで一番難しいのは「水加減」と「水回し」です、と解説書には書かれています。これさえクリアできればあとは力で捏ね、薄く延ばす、細く切るが容易になります。何度か失敗したのはこの最初の作業、水の分量と全体にまんべんなく均等に水がいきわたらせることを失敗していました。

 水の量は、粉の目方の50%弱が基本であります。500gの二八蕎麦を打つなら、250ccの水を用意します。プロの手打ち職人さんはこれが40%近くに減らすのだそうですが、素人には無理です。目分量はいけません、きっちり秤で計測し、等分して二つの容器に水を分けます。乾燥は禁物なので、そばに加湿器を置きます。

 篩にかけた粉末にまず半分の水を回しかけます。これを3分程度手早く両手の指先だけを使ってかき回します。うまく混ざるとあらびきパン粉のような状態になりますが、ここで残った水の9割くらいを追加します。ここでまた3,4分混ぜていると、水加減がうまくいけば、少しづつパン粉がくっつきあってコロコロとした塊になっていきます。なかなかまとまらないときは、水分量が少ないので残ったわずかな水をふりかけます。水1㏄の単位で様子が変わり、その後の作業にとても大きな違いが出てきますが、これが正確にできればあとは勝ったも同然(笑)。

 だいたい耳たぶの固さ、と言いますが、これがわかったようでよくわかりません。個人差があるのでは無いか、と思うのですが。

 この段階で水が足りない場合は、捏ねに入ったときに固いのですぐわかります。初期の段階で水を少し足して調製すればまだなんとかなります。問題は水が多い時です。水が多い場合、それがわずかなら、打ち粉を多めに追加してまぶすことでなんとかリカバーできますが、ほとんどはもう失敗と考えていいのです。捏ねて練るときに手のひらにべたべたくっつくし、延ばす作業では薄くなりすぎて切れる、捏ね板にくっつくなど収拾がつかなくなりますから「そばがき」として食べしかなくなります。

 さて本題(-_-;) 印泥をいかにいい状態に保つか、メンテナンスの話です。印泥は本来、水に浸かっても押印できるし、何百年経ってもその色が変わらない不変の質を求めて作られているのです。しかし、保管方法が悪ければかびたり乾燥したりします。ヤフオクで出品される印泥の多くは、死蔵して何十年も保存状態が悪いものが多いのでそのまま使えないものも多いのです。

 これをちゃんと蘇らせることが出来ると「印泥上手(いんでぃ じょーず)」と言います。これが言いたかった笑

 柔らかすぎず固すぎず、で耳たぶの固さと言います。そういえば焼き物の粘土もそんなことを聞きました。印泥は、油が入っているので冬は固くなり夏の暑さで柔らかくなるのです。長期保管で固くなったもの(カチカチに乾燥していたら捨てた方がいい)は、ひまし油か印泥用油を混ぜてほぐします。少しドライヤーなどで加熱するのも有効ですが、やや固めにしておくのが肝要です。気温や乾燥状態によって実際に落款を入れるときに、もう少し柔らかくするよう「ひまし油」を一滴たらすくらいがいいでしょう。

 ここでやってはならないのが柔らかくし過ぎることです。蕎麦打ちと同じで油が多すぎると手の負えません。天日で乾かしても固くなりません。ヘラでなでて、けば立つくらいだと、もぐさを足すことで調整します。もぐさは現在は異様に高く、ほとんど売られていません。昔なら天然の原材料「よもぎ」が沢山入手出来ていましたし、「お灸」を据える年寄りも多かったんですね。流通量が極端に減っているようです。
 それでも柔らかい場合は、さらに和紙や油分吸収用の繊維(綿)を含ませる手もありますが、容易ではありません。とにかくひまし油は控えめに、が重要であります。

「杉樽鼻緒、及ば猿がごとし(過ぎたるは猶及ばざるが如し)。」
園芸では水のやりすぎで多くの植物が根腐れします。蕎麦打ちも水が多いとダメ、印泥は油の入れすぎは禁物。みんな一緒ですなぁ。

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