植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

印の値段

2021年07月17日 | 篆刻
今年に入って150本以上彫りました。彫って彫ってまた彫って・・・
姓名印を主体に多くの方に差し上げております。多分50人分くらいは制作したのではないかと思いますが、コロナのせいで集まる機会が無く大半は渡しそびれて、仕事場の片隅に積んだ箱の中に眠っております。

 今考えれば(手に取ってみると)明らかに拙いのであります。それらは印作りを初めて2,3か月の作なので仕方がありません。彫った当座は「よくできたな」、などと悦に入っていたのですが、さすがにその後懸命に研究し、摸刻しているので下手さ加減が目につくのです。
 篆刻・書道に限らず技術や技能・芸術全般で共通することで、反復練習・継続的な鍛錬が、その技量の向上につながるということは疑う余地がありません。さまざまな価値ある名刻印の印影を見つめ摸刻しているうちに、目が肥え作品の巧拙が少しずつ理解できるようになってるのかもしれません。

 つまり手元の印、これは彫り直しやーー、と思います。すでに差し上げて物でも実は取り返して彫りなおしたい気分なんです。やはり只で彫ってるので、さすがに返して頂戴というのもなんか違う気もします。

 印を差し上げた時、大体の人が(お世辞で)お金を払います、と仰いますが、いやいやお金を頂くほどのものじゃござんせん、とお代を受け取らないのです。当然まだ篆刻を始めたばかりで金を貰うなんてとんでもない、それが本心です。今思えばお金を貰わなくてよかったと冷や汗ものです。

 それにしても、面白いのがみんな同じことを言うのです。
「ハンコの材料費くらいは払わせてよ」と。ワタシは本物の篆刻家さんに依頼して姓名印を作成してもらいましたが、その時は印材を除いて3万円でありました。印材はワタシが持ち込んだので含まれません。つまり印の値段は、ほとんどが技術料・人件費なんです。もっと言えば、何十年かの人生の時間を費やし元手もかけて培った技術・芸術性・努力の結晶の価格ともいえるのです。

 美容院の技術料も、上等な割烹・寿司屋さんのお代も、意味は同じ、長年修行したその道の達人や匠が、技術の粋を凝らしたサービスに、対価を払うので、単純な日当、時間給とはわけが違います。

 してみると、皆さんが「プロ級の腕だ」などとおだてながらも、ワタシにその技術料を払おうとしないのは至極妥当な相場なのかもしれません。素人が暇つぶしに始めた趣味に付き合わされているのだから、と考えるのがもっともな話であります。

 印材自体も勿論値段があり、ピンキリであります。その価格は、未使用品では産出地(石の種類)、外見の美しさ、希少性、紐・薄意(側面の薄い浮き彫り)、重量で大きく変わります。ホームセンターで売られてる安物の青田石・寿山石は数十円から大きいものでもせいぜい4~500円というところです。

 丁寧に磨かれ、半透明で美しい模様があればそれなりの値段になりますが、そういうものはネットの専門店で売られています。未刻石でも、鶏血石、田黄石など人気が高く希少性の大きな本物だと、数十万円もしますが、もったいなくてこんなものを彫る人はいません。

 中古品、つまり篆刻済みのものも極端に値段の差がつきますね。素人が力任せに彫った自用のものはよほどいい印材でなければタダ(ガラクタ)同然です。印面を潰して、練習用に彫り直せばそれなりに利用価値があるので、捨てはしませんが、下手ほど深く傷つけますし、側款(側面の署名彫り)まであると消し去るのにかなりの時間を要します。

 価値が高いのは、やはり専門家の手による印であります。平均的に彫りやすく質がいい石を用いています。古ければ古いほどその傾向が強いです。篆刻の本に載るくらいの名人作ならば、コレクションとして集められるので、ヤフオクでもかなりの高値になります。しかし、ここでも値段の不思議があります。本来なられっきとした篆刻家さんに数万円も払った印、これが案外数千円で落札されるのです。

 その理由は、そうした篆刻印には利用価値が乏しい、つまり技術料の大半がかかっている彫の部分は不要になるからです。コレクターが欲しがる初代蘭台、梅舒適先生など、中国ならば呉昌碩さんなどの真作であれば数十万円の値段がついてもおかしくないのです。もしそれが数100年以上前の時代物で刻字あり、側款や薄意ありなら、美術館行き級で100万円以上になるかもしれません。また、千年以上も前に作られた官印などは歴史的・骨董価値があるのでとんでもない高値になります。
 
 しかし、一般の現在活躍している篆刻家さんの作品レベルだと、他人の名前や雅号が彫られていたら逆に邪魔になるかもしれません。側款がよほど見事で、手の込んだ細工の紐、希少価値がある印材を使ってでもいないとあまり欲しくないのです。オークションで入札する人は、おそらく、その名前がまず一番に価格の決め手になろうと思います。

 だから、ワタシは思うのです。技術料を出すから彫ってくれ、と言われるだけの技術を身に付けねばと。摸刻を繰り返し、技術に応じていい石材を選び、側款を学び、印材の値段以上に付加価値がある篆刻印を彫りたいと願うのです。
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